皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。フォーゴトン・レルム世界の設定を解説するシリーズの第2回となる今回は、D&D世界の多次元宇宙の構造(=宇宙観)を紹介します。D&Dではそれぞれの世界設定ごとに宇宙の構造も異なっているのですが、本記事はすべての世界設定に共通する部分をメインに扱っているため、フォーゴトン・レルムに限らずD&D第4版に興味のある方なら誰にでもお役に立つと思います。
D&Dにおいて異世界は決して遠い存在ではありません。PCたちが他の世界に向かったり、異世界から侵略者がやってくるような物語も、D&Dではごくありふれたものなのです。神々の世界や地獄といった異界の設定はファンタジーらしさを盛り上げるための重要な要素ですから、こういった設定を頭の片隅に入れておくとゲームがさらに面白くなるでしょう。
宇宙全体の構造
D&Dの世界設定は、1つの宇宙の中にたくさんの世界(=次元界)が含まれる構造になっています。序盤のゲームの舞台であり人間をはじめとした多くの生物が暮らす自然世界(またの名を物質界、中つ世、現世とも)も、無数に存在する次元界の1つにすぎません。そして宇宙の内部構造は大きく上中下の3つの部分に分かれています。
自然世界の“上”方向には精神と概念の世界たる“アストラル海”があり、神々の治める小世界(これを領界と言います)が浮島のように銀の海を漂っています。元をたどれば堕天使であるデヴィルたちの住む地獄も、星の海に浮かぶ禍々しい惑星のようなイメージで描かれています。
自然世界の“下”方向には、地水火風の四大元素をはじめとしたあらゆる物質とエネルギーの源である“元素の渾沌”があります。本来は善とも悪とも無縁の世界ですが、その破壊的な力が自然世界に流れ込むと大変なことになるため、危険な場所と思われがちです。そして元素の渾沌の一番下には、純粋な破壊と悪の権化であるデーモンの巣窟たる奈落(¥¥るび:アビス)が開いています。詳しくは『元素の渾沌の勇者』もご覧ください。
宇宙の“真ん中”の位置には、互いに似通った“三つ子”の世界――自然世界、フェイワイルド、シャドウフェルが重なり合って存在しています。どれも人型種族が文明を築いている世界であり、比較的行き来が簡単であるため、フェイワイルドとシャドウフェルは人間から見て最も身近な異世界と言えます。
妖精界フェイワイルド
フェイワイルドはこの世界の“より明るく鮮やかなコピー”とでも言うべき世界であり、エルフ、ノーム、ピクシー、サテュロスなどの“フェイ”と呼ばれる種族が住む場所です。フェイという単語を無理に日本語に訳すと“妖精”になりますが、美しく可愛らしい妖精のイメージだけを抱いてフェイワイルドに行くとひどい目に遭うことでしょう。おとぎ話に登場する妖精の中にも、命を落としかねない危険なイタズラをしたり、死ぬより酷い呪いをかけるような、たちの悪い妖精が出てくることは珍しくありませんね。
また、フェイワイルドには西洋の昔話で悪役を務めるような、邪悪な魔法を使う存在も多く住んでいます。妖婆ハグや邪眼の巨人フォモールはしばしばエルフの王国に攻め込んでおり、常に平和で牧歌的な世界というわけではありません。ゴブリンやドラウ(ダークエルフ)といった邪悪な“妖精”の危険性については改めて説明するまでもないでしょう。
フェイワイルドと自然世界は非常に“距離の近い”世界です。次元の境界が薄くなっている場所(これを妖精の渡瀬と呼びます)はこの世界のいたるところに存在しており、気づかぬうちに妖精界に入り込んでしまって帰れなくなってしまう事件も珍しくありません。またフォーゴトン・レルム世界には、この世界での戦争に愁えたエルフたちが妖精界に帰っていく際に使用したポータル(次元門)が今も残っており、「無人の遺跡だと思って住んでいたら、急にエルフが現れて不法侵入者と非難される」といったケースもありえます(イリヤンブルーエン・ガーディアンというテーマは、まさにこういった不幸な出会いが設定の根幹になっています)。
フェイワイルドに関するさらに詳しい説明は『妖精郷の勇者』にあります。また、フェイワイルドの設定はケルトの神話や伝説を元ネタに使っている箇所が多いので、興味のある方はそちらもご覧になると面白いかもしれません。
影の世界シャドウフェル
シャドウフェルはこの世界の“薄暗くぼんやりしたコピー”とでも言うべき世界であり、死者の魂が最初に向かう場所にして、アンデッドや影の生き物が巣食う陰鬱な世界です。この世界で都市がある場所には、鏡像たるシャドウフェルにも同じような共同体が必ず存在しますが、同じように栄えているとは限らず、廃墟であったり寒村に規模縮小していたりします。
シャドウフェルは必ずしも悪や魔の世界というわけではないのですが、アンデッドなどの太陽光を嫌うモンスターが多く存在するため、人間にとっては住みにくい場所なのは間違いありません。さらに厄介なことに、影の世界で過ごす者は皆、しだいに何事にも感動できなくなり、魂が倦怠感や憂鬱に飲み込まれ、最終的には肉体すら“薄く”なって影のように消えてしまいます。これを避けるためには、常に新しく強烈な刺激を求める刹那的な人生を送るか、食欲のように比較的薄れにくい本能的衝動に身を任せるしかないのです。
シャドウフェルと自然世界も非常に“近い”世界です。次元の境界が薄くなっている場所(こちらは影の渡瀬と呼びます)はこの世界の闇や影の中に数多存在しており、いつのまにか影の世界に入り込んでしまった人間がアンデッドの餌食になることもあります。また、すべてが曖昧で朧げな影の世界では距離の概念もあやふやになるため、自然世界を移動するよりも一旦シャドウフェルを経由した方が大きくショートカットできる場合があるなど、思わぬ形で影の世界に足を踏み入れる冒険者もいます。
本コラムをお読みになって、D&D世界の次元構造に興味を抱かれた方は、『ダンジョンマスターズ・ガイド』シリーズや『次元界の書』もご覧ください。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹
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