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ダンジョンズ&ドラゴンズ 『ネヴァーウィンターの失われし王冠』リプレイ -第1回-

2013/11/27 16:43 投稿

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  • ネヴァーウィンターの失われし王冠


はじめに

柳田:「主人公の名前を決めてくるの、忘れました」

 と、今回はサブマスターとなる柳田は言った。

コメント1:「レグダーは?」
コメント2:「主人公男なの?美少女にしようよ!」
コメント3:「ニコニコなんだから 二コルでいいじゃん」

 画面にコメントが流れる。普通のキャラであれば、この流れる名前から選んでも良かった。しかし、今回のキャラクターはちょっと違う。

 解説する。

 先シーズンの『ミスタラ英雄戦記 on the Table』では原作再現のため視聴者アンケートにより冒険者たちの方針を決めた。
 これが大変にウケた。
 視聴者の意見により、冒険者たちは時に助けられ、時にヒドイ目にあった。
 確かにここはニコニコ動画、視聴者との生のやりとりは他にない特徴である。なにか、

 ――ならば次は、視聴者をセッションに巻き込んでしまおう。

 “彼”はキャラクターとしての発言・決断をしない。
 “彼”のゲーム上の操作はサブマスターの柳田が行なうが、物語に関わる決断は視聴者アンケートで行なう。
 “彼”は数百人からの視聴者の意志を託されるキャラクターなのである。
 それにふさわしい、何かイイ名前。

「どうしましょう」
「どうしましょうねえ」

 今季のDMを務める、テーブルトークカフェDaydreamの岡田代表(先シーズンのアーズのプレイヤーである)や他のメンバーと話しつつ駄弁りつつ、気がつけば19時50分。

「どうしましょう」
「どうしましょうねえ」

 このようにしてセッションは始まったのである。


流浪の慕情:エイロヌイ

 彼女は旅をしてきた。
 妖精の王族の住まう光り輝く木立を。
 瑕疵無き優美さで雲海の中に高く立つ穢れなき峰々を。
 緑柱石と孔雀石、そして翡翠の色をした海を。
 果てしなく続く砂浜に打ち寄せる波を。
 フェイワイルドの魔法に満ちたすばらしき光景を。
 侍従にかしづかれながら、彼女はその目で見てきたのである。
 時始りし折にこの世を駆け巡った四姉妹、春夏秋冬のニンフ。ハマドライアドのエイロヌイはその直系であった。
 ドライアドの性は一つ所に根付くことをよしとする。だが、それに立ち勝るニンフの流浪の性が彼女を突き動かしていたのであった。
 そんな彼女が呟いた。

エイロヌイ:「飽きたわねぇ」
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 銀の砂が朱に染まる、夕凪の入り江であった。
 浜辺に広げられた瀟洒な卓の上には茶道具が一客。葉の開き具合を知らせる砂時計の砂はすでに落ちきって久しい。
 物憂げな言葉を聞き、侍従がびくりとその衣装にふさわしからぬ直截な怯えを示した。

エイロヌイ:「フェイワイルドの景色にも、飽きちゃったわねえ。タラン、あなたもそう思うでしょう?」
タラン:「あー、ジブンは別に飽きたりしてないっツーか、外の世界なんてマジあり得ないくらいヤバイって聴いてるッスから」

 およそ妖精境の住人にはふさわしからぬ言葉遣いでへどもどと侍従は答える。
 
エイロヌイ:「物質界に行ってみたいと思わない? 思うわよねぇ。あなたフェイワイルドしか見たことないし」
タラン:「いやいやいや、マジっすか。ヤバイッスよ」

「ニュー・シャランダーかなぁ、ここから一番近いのは。確か、冬知らずの森(ネヴァーウィンター森)につながっているのよねぇ」人差し指を唇に当て、彼女は数十年前に耳にした噂を思い出す。
「いや、あそこ駐屯地ッスよ!?」先ほどからタランの声はひっくり返りっぱなしである。
「ならますますちょうど良いじゃない。わたし、騎士だもの」
 答えたときには、もう席を立ち馬車へと歩み出していた。
「ゆくわよ、タラン」
 侍従は慌てて茶道具と卓をかたづけ始めた。


このシーンのうらがわ

 参加プレイヤー、堀江貴広。
 自キャラはパラディン“のみ”という縛りをバネに多彩なキャラクターを見せるベテラン枠。レヴナント・キャバリアのクロー。ミノタウロスの【筋力】パラディン、シュタイン。そしてハーフオーク・パラディンのブラントと強烈なキャラを披露してきた。「今回は【魅力】パラ」とはおおかたの想定通りであったが、ハマドライアドを選ぶとは……。
 『話し方や言葉が柔和だったとしても内容までそうとは限らない』と言うエイロヌイは他のキャラとは違い、『ネヴァーウィンター・キャンペーン・セッティング』ではなく『妖精境の勇者』からテーマを選択した。
 そのテーマ、シー・ロードはフェイワイルドの力ある貴族の出身であることを示すテーマで、忠実な下僕を得ることができるテーマである。が、その下僕は……。なんでこんなことになったんだろ。

エイロヌイのキャラシート


魔剣士の願い:エリオン

 フェイルーン北方、ネヴァーウィンター森の奥にはかつて、エルフの王国イリアンブルーエンがあり、栄華を誇っていた。しかし、エルフにとっても長い歴史の中でイリアンブルーエンは緩やかに衰退し、彼らは強力な魔法により首都シャランダーごと、遠き妖精境フェイワイルドへと帰還した。
 フェイワイルドに帰還したエルフ達の運命は決して安楽なものでは無かったが、彼らはそこで慎ましやかな領土を治めていた。
 しかし、“呪文荒廃”がすべてを変えた。
 妖精境と人間界のつながりは復活し、エルフ達は伝説の故郷イリアンブルーエン、その遺跡への帰還を図った。

 ニュー・シャランダー。
 ネヴァーウィンター森の“フェイワイルド側”に立つこの拠点は、丸太小屋と簡素な樹上家屋からなる人間世界への橋頭堡である。
 そのニュー・シャランダーの簡素な道を、一人のサン・エルフが行く。

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 見るものの目を奪う美貌であった。
 金色の陽光が、流れる白金の髪、その一筋一筋に散らばりきらめく。
 腰に重い長剣を佩きながら、その歩みは軽やかであたかも流れる水のよう。見る者が見れば、その足運びに、練達の踊り手にもまさる体術の妙を読み取ることができるだろう。
 それも道理。
 彼こそは、神祖コアロン・ラレシアンよりエルフ族に伝えられた秘剣、“刃の歌(ブレードソング)”を会得したブレードシンガー。名は“銀冠の”エリオン(エリオン・シルヴァークラウン)という。
 その技を見込まれ、最前線に送りこまれたと兵士達は噂していた。
 彼は砦の中庭、白大理石の水盤のふちに腰掛けて水面を覗く。風が止み、水面の波が消えると人影が映った。

エリオン:「体の調子は?」

 水面に映っているのはやはり白金の髪の少年である。
 危うさを感じるほどに華奢な体をベッドの上に身を起こしている。水鏡を通しエリオンは末弟のデイロンと言葉を交わしていた。

デイロン:「だいぶ、よくなってきました」

 答える声は、か細く柔らかい。そして、その菫色の瞳はエリオンの姿を見てはいない。コアロンの祝福は、デイロンの目にこことは違う時間、こことは違う場所を見る力を与えた。代償としてか、彼はこの世の物事を見ることができない。いつか、神威をその身に宿すに足る器へと成長する日まで。

デイロン:「早く兄さんのところに行きたいです。イリアンブルーエンのために戦いたい」
エリオン:「いそがなくてもいいよ、すぐに追いつくさ」

デイロンは小さく頭を振った。

デイロン:「夢を見たんです。兄さんが旅立つ、その刻のことを」
エリオン:「そうか」
デイロン:「でも、その隣には僕はいない――」

 その言葉の意味を知るがゆえに、エリオンは笑顔を作って告げた。

エリオン:「……僕は遠くへなんか行かない」

 たとえ嘘をつくことであったとしても、この安らぎのひとときを乱したくなかったのだ。


このシーンのうらがわ

 参加プレイヤー、瀬尾アサコ。
 『若獅子の戦賦』(リンク)、『D&D第4版がよくわかる本』(リンク)、『妖侠デイン流離譚』(リンク)そしてこの配信でもシリーズ皆勤という、頼りになるゲーマー。
 エリオンのコンセプトは『人はどこまで中二病でいられるか』だと言う。詰まるところそれは中学生の頃の黒歴史を掘り出して晒すと言うことであり、『腰までなびくプラチナブロンドの美しい髪にオッドアイの麗人』が『魔法と剣技とを組み合わせたエルフ古伝の剣術』を使い、『神の祝福による予言能力を持つ病弱の弟』をオプションとして載せるというはしたなさである。
 というか初回の反省点として「ブレーキをかけるべきではなかった」と追加設定としてキメセリフや技の名前とかを送って来るあたり、もはやブレーキの壊れたダンプカーで頼んでもいないのにチキンレースをしている風情。
 しかし、ことTRPGにおいてはセッション中で観測されない設定はしょせん背景、重要なのはその設定を以下に参加者の心に焼き付けるかである。エリオンの(中二病キャラとしての)戦いは今これから始まるのだ。

エリオンのキャラシート


ニュー・シャランダー:コアロン・ラレシアンのほこら:

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 ニュー・シャランダーの中心には一本の巨大なオーク樹がある。そのオーク樹には馬車一台が通り抜けられるほどの穴が開いており、これがフェイワイルドと物質界とを行き来する次元門となっている。
 このオーク樹の周辺に並ぶ簡素な丸太小屋や樹上の家々が武装拠点を形作っている。
 その中に、こんもりと生垣の生い茂る一角がある。木の葉の寺院、ニュー・シャランダーで活動するフェイ達の精神的支柱である。
 その中から、怒り声とそれを諫める声とが聞こえていた。
 一人はニュー・シャランダーのコアロン神殿の長、神官長エムレイ・ファイアースカイ。
 そしてもう一人はこの地の指揮官、妖精騎士メリサラ・ウィンターホワイト。
 エリオンが弟との面会を終え、水盤から離れようとしたときのことであった。

エムレイ:「もはや猶予はならぬのです。古き木々の都が物質界の不遜なる輩によって、いかなる仕打ちを受けているか。それはあなたが一番ご存じのはず。祖先の財宝、叡智を盗人どもからとりもどし、エルフの都を荒らした報いを与えてやらねばなりません。兵を挙げるには今この時です!」
メリサラ:「イリアンブルーエンの栄光を穢す輩に抱く怒りは私も同じ。しかし、みだりに兵を動かせば多くの血が流れます。我らも犠牲無しには済みますまい。果たしてそれで本当によいのですか?」

 この数年、定期的に行なわれるやり取りであった。いつもと違うのは一点。寺院にはもう一人、薄衣をまとい椅子に腰掛けて議論を見守るハマドライアドの姿である。
 口論は止まない、ハマドライアドはそれを止めるようすもない。
 やむなし、とエリオンは、その口論に割って入った。

エリオン:「お二人とも。そのように声を荒げ言い争うなど、まるで人間のよう。我らサン・エルフには悠久の時があります。時の流れに任せ、物事の行く末を見定めて動けば、なるようになるはず」
エムレイ:「さりとて、そのように悠長に構えていればますますヤツらはシャランダーの遺構にはびこる……」
エイロヌイ:「あなた、お名前は?」

 無造作に議論を断ち切り、ハマドライアドは問いかけた。その言葉には有無を言わせぬ威厳と、耳を奪う優美さがあった。
 その無礼にエリオンは声硬く答える。

エリオン:「……人に名を聞くとあれば自らも名乗るのが礼儀であろう」
エイロヌイ:「あら、どちらの礼儀かしら?」
エリオン:「この地はサン・エルフの治める地。ならば、その礼儀に従って頂こう」

 魔剣士の返答に秘められた苛立ちを感じたか、慌てて侍従が取りなしに入る。

タラン:「あ、その。こちらはフェイワイルドの13貴族、シー・ロードのエイロヌイ様です。……ども、スンマセン」

 憮然として名乗るエリオン、どこ吹く風とエイロヌイは指揮官たちに議論の続きをうながす。が、この間の抜けたやり取りに二人はすでに怒りを殺がれていた。エムレイはそそくさとその場を離れた。
「割って入ってくださりありがとうございました、エリオン。そして、エイロヌイ様。」メリサラが礼を述べる。
「あのね」やはり無頓着にエイロヌイは言う。

エイロヌイ:「フェイワイルドの外に行ってみたいのだけど」
メリサラ:「外に、ですか? 大変危険かと思いますが」
エイロヌイ:「大丈夫、タランがいるわ」

 主の背後ではそのタランが必死でメリサラに「止めて!」とサインを送っている。メリサラはそっと(すまなそうに)侍従の必死の視線から目を逸らした。

メリサラ:「一応、近く調査隊をまた派遣しますが……」
エイロヌイ:「調査隊! それです!! ねえ、エリオンもそう思うわよね?」

 傍若無人さはもはや無邪気さすら感じさせるほど。
 このようにして半ば巻き込まれるように、エリオンはエイロヌイと共に調査隊に参加することになった。


このシーンのうらがわ

 なお、本編では二人の腕前を拝見、とメリサラが可愛がっているクマ相手にそれぞれが技を披露+ルール説明をするシーンがあったのだが……。

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エリオン:なんて言えば一番カッコいいか考えててハズしちゃった!

 だの、

エイロヌイ:ではこの場所からレイディアント・デリリウム/惑乱の煌めき。きらびやかな光がクマに向かっていく!

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エイロヌイ:大丈夫大丈夫、[一日毎]パワーだから半減ダメージ入る!

 と言う有様だったのでバッサリとカットする。



DM:というわけで結局、二人は次の調査隊の第二陣として派遣されることになりました。
エイロヌイ:ぶーぶー。
DM:「私たち先発隊が危険を排除してます。私たちの調査報告と合わせ、ネヴァーウィンターの森を見るだけ見て戻るのです」とはメリッサからです。皆さんが巨樹の腹にあいた洞をくぐり抜けると見慣れたフェイワイルドの風景が一変します。光り輝くおぼろの森から日の差さぬ暗い物質界の森へ。
エリオン:ついに、来たか。
DM:そして、同時に鼻をつく異臭。
エリオン&エイロヌイ:!?
DM:見回せばあたり中に血飛沫、血溜まり。
エイロヌイ:「なんのお祭りかしら」
エリオン:「エイロヌイ様、我々はどうやら大変なところに踏み込んでしまったようですよ。まわりに気を付けて!」
エイロヌイ:わくわく。
エリオン:というか、メリサラさんはどこに!?

 しかし、そこには先発隊の生き残りも、その死体も残されてはいなかった。
 血溜まりに足を浸したのか、赤黒い足跡は残っている。それは大きなネズミの足跡のように見えた。さらに調べると血痕の中に1つきらりと光るものがあった。竪琴のような紋章をつけたピンである。

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エリオン:「先遣隊はこんなものは持っていなかった。これがここであったことの手がかりだな……」

 惨劇のありさまに眉をひそめ、エリオンはかたわらの聖騎士へと振り向いた。そして息を呑む。

エイロヌイ:「……これが、人間の世界」

 ハマドライアドは天を仰ぎはらはらと涙を流していた。
 それは、あたかも時雨に濡れる百合のよう。
 エリオンはかけるべき言葉を見いだせなかった。
 光と魔法溢れる世界から、このように薄汚い世界へ踏み込み、そして同胞の惨劇に直面する。
 その衝撃はいかばかりであろうか?
 寄り添い支えようと踏み出したとき、次の言葉が届いた。

エイロヌイ:「これが……これこそが外界って感じよね(嬉)!! 」
全員:『えーっ!!』

 嗚呼、花が美しくあり続けられるのは、言葉を話さぬがゆえかも知れぬ。

 それはさておき。
 この事件をそのままフェイワイルドに伝えたならば、エムレイたち強行派はますますその勢いを強めるだろう。そして、怒りに猛ったエルフ達による大攻勢が行なわれれば、惨劇はこれとは比べものにならない。メリサラの意を思えば、それだけは避けねばならなかった。

エリオン:「状況を調査してからでないとフェイワイルドには戻れませんね……」
エイロヌイ:「もちろんそうよ! 務めを果たさなければならないわ。そして、もっと外界の下卑たところ、猥雑なところを見たいの」
エリオン&タラン:「はぁ……」
エイロヌイ:「さあ、一番近い人里にいきましょう。たしか、ネヴァーウィンターと言ったはず。あなたたちもそう思うでしょう♪」
 
 かくして、麗人二人+αはネヴァーウィンターを目指したのである。


J.D.の記憶

 あなたの持つ一番古い記憶は名付けの儀のこと。父と母の不安そうな表情である。自分の名前について疑問を抱かなかったわけではない。しかし、あんな表情を両親にさせたくなかったから、自分の名前について深く問うことをあなたはしなかった。
 あなたの名はジェイド。“J.D.”と綴る。もちろん仮の名前である。
 あの時、父と母から聞いたまことの名は“まだ”誰にも語ってはいない。
 語るべきときは、いずれ訪れるはずだ。

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 あなたはサン家という貴族の一員として育った。
 サン家は“壮麗な都”ウォーターディープにて商業を担う一族である。あなたの父レオンは、サン家の人々や施設を守る衛士の差配を任される武辺の士であり、幼い頃からあなたの廻りには鋼があった。
 母イザベルは優しく、弟は病弱だがあなたを慕い――。

エリオン:あ、病弱な弟のキャラが被りますね。
若月 from 外野:ならここは元気な妹で!

 ――妹は元気で、しばしばあなたとともにいたずらを働き、庭師に叱られた。庭師の息子のサムが参加することで、あなたたちのいたずらは見つかりにくくなったが、見つかったときにはもっとひどい目にあったのだった。
 
 次に良く覚えているのははじめて正式に剣を握った時のことだ。10歳の春のことである。
 師は女性だった。短く切り揃えた黒髪の下の相貌は、潮風に晒されてはいたが凛々しく麗しかった。ウォーターディープの海の守りはだいぶ昔からミンターン島の軍船に頼っている。彼女もやはりミンターン島の兵士で、名はサビーヌと言った。サン家での客分の中で最も腕の立つ剣士だった。
 彼女は、あなたに練習用の木剣を渡して言った。
「この剣は、私の故郷。ミンターン島に生える木で作ったものだ。強い潮風にさらされ、とても固く、しなやかになる。お前はこの剣のように固く、しなやかにならねばならぬ、そのために私は厳しき潮風となろう」
 父が続ける。
「サン家の剣は、騎士の剣。一族や友人、仲間や部下を守るための剣だ。そのことを忘れるな。倒すことに逸るな。守るために、戦え」
 父の言葉はあなたの考える英雄の姿とは食い違っていたが、それでもやはり嬉しく、あなたは剣を握ったのだった。

 月日が流れていく。
 屋敷の中庭で、木蓮の花が開き、散る。
 母と妹があなたの稽古を廊下から眺めている。
 庭師とサムが打ち込みの人形を作ってくれた。その人形が代替わりして行く。そのたびにあなたの背も伸びて行く。
「八方に目を配れ……構えろ、ジェイド!」
 あなたは“堅実な攻撃の構え/ポイズド・アソールト”の構えをとる。そして、巧妙な位置取りで周囲を牽制し、注意をそらす。“防衛のオーラ/ディフェンダー・オーラ”という技である。
「よし、少しはマシになったな。お前の剣は仲間を守るための剣だ……どうだ?」
 すう、とサビーヌが踏み込み、あなたのかたわらを通り抜けようとする。
 ――やらせはしない。
 あなたは剣を振り払う。

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 木剣はあなたの手をすっぽ抜け、庭木を剪定していたサムが悲鳴を上げた。
「……その油断、いずれお前の命を奪うかも知れないな」
 師の言葉にあなたは兜の下で顔を赤らめる。
「ジェイド、仲間を探せ。一つの剣は、折れたらそれまでだ。だがもう一人、剣を持つ者がいれば、お前が次の武器を抜く間、敵を引き留めてくれる。肩を並べ、背中を預けるに足る仲間をさがせ」
 ――あなたにはあるのですか?
 問うたのは、自分には仲間と言える者がいないと気づいたためである。彼女は遠く空を眺めて答えた。
「ある、守るべきものがな」
 それが彼女から受けた最後の稽古であった。
 数日後、彼女は姿を消した。なんの前ぶれも別れの言葉もなかった。

 再び月日は流れ、17歳の誕生日。
 あなたが成人を迎えるその日は朝から雪が降っていた。妹は母と一緒に台所にこもっており、祝いの菓子を焼いている。
 あなたは父と共におり、そこでこれまで秘められていた事実を告げられた。
 すなわち――、
 あなたはレオン、イザベルの実の子供ではない。
 あなたはかつてネヴァーウィンターを統治していた一族の末裔だ。
 あなたの母親は、ネヴァーウィンターが大災害に見舞われたときに逃げ出したが、逃避行の間に傷を負い、あなたを産んですぐに死んだ。そこで彼女を保護していたサン家のレオン、父があなたを引き取り育てたのだ。

 ――やはりか。
 あなたはそう思った。
 愛されていなかったというわけではない。だが、父や母の表情の中にあった不安の正体が明かされた真実により明らかになった。あれは、いずれ自分が彼らの元を去ることへの不安であったのだ。
 最初、あなたは何をすべきかわからなかった。ネヴァーウィンターはあなたに取って遠い異国の地であり、わざわざそこに行くべき理由などあるようには思えなかった。あなたは今のままでもこのウォーターディープで楽で贅沢な人生を続けてゆけるはずなのである。

「これからどうするべきかはお前が決めろ。だが、一つ願いがある。せめて成人の誓いだけは私の元で行なってくれ。その姿を私に見せてくれ」


このシーンのうらがわ

 このタイミングで視聴者にアンケートが提示される。
 これはジェイドがこれまでどのように、そしてこの先どのように生きていくかを信仰する神に誓うと言う形を取る。そのうえで選択肢は三つ。

1):“高潔なる怒り”トームに誓う。ジェイドの属性は“秩序にして善”、護り手
 「自分は騎士として育てられた。弱者を守るのは当然だ」
2):“幸運の女王”タイモラに誓う。ジェイドの属性は“善”、野心がある
 「身寄りのない自分が己の運命を切り開くのに必要」
3):“敵を打ち砕きしもの”テンパスに誓う。属性は“中立”、バトルマニア
 「剣に天賦の才があり、腕を磨くのが楽しい」

 視聴者の選択は……。


 あなたは父に答えた。
「私は“幸運の女王”タイモーラに誓います。今日この日までこのように生きてこれたのも、父上と母上のようにすばらしい方の元で育てられたのも、タイモーラの御心のなせる業。私はそのことを、神に、そして父上と母上に感謝します」
「過去のことを知らせずにおくこともできた。だが、お前は真実を知った上で生き抜く力があると私たちは信じているし、お前がネヴァーウィンターの血族であってもこれまで共に生きてきた月日が嘘になるわけではない。お前は私たちの家族だ。子宝に恵まれなかった我が家にお前が来てくれたのも、タイモーラの思し召しだったのかもな……」

 そのとき、部屋の戸口から兵士が息も荒く転がり込んできた。
 肩口には太矢が突き立っており、顔の色は青白く、だらだらと汗を流している。
「レオン様、何者かがこの屋敷に!」
 倒れ込む兵士をあなたは支える。太矢を抜くと傷口と矢尻が紫色に染まっていた、毒である。そして、悲鳴と炎の爆ぜる音。
 庭師が炎を消そうとし、息子のサムが襲撃者達に立ち向かっていた。襲撃者達は無造作に矢を射かけ、二人は倒れた。
 あなたは剣を抜き、父を守ろうとする。が、それよりも早く、父が襲撃者とあなたとの間に立ちはだかる。襲撃者は長いナイフを抜いていた。フードとスカーフに隠れていたが、その肌は黒く、すみれ色の瞳が炎に映えていた。
 襲撃者の素早い一撃を父が阻む、そして一撃。
「私が守るのはお前だ。早く、ネヴァーウィンターにゆけ!」
 炎はあっという間に屋敷に廻っていった。

 あなたの姿が、ネヴァーウィンターに続く高道の上で見つかるのはそれから十数日後である。
 あなたがどのようにして襲撃を生き延びたのか。
 あなたの両親、妹、友人のサムがどうなったのか。 
 そして、あの襲撃者達はいったい何ものであるのか。
 それはまだ(書き手である私にも)明らかにされていない。これは先の冒険であなた自身にによって語られるのを待つしかない。

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ジェイドのキャラシート

 いずれにしろ、あなたはネヴァーウィンターにやってきた。
 旅塵にまみれたあなたの表情は暗い。
 ウォーターディープからネヴァーウィンターまでの逃避行で、幾度となくあなたはサビーネの言葉、「お前には仲間が必要だ」という言葉を実感していた。人は一人では、生きてゆけないのである。路銀も底をつきつつある。
 何一つ当てはないが、あなたはこの街の門をくぐった。

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