皆様こんにちは、ニコ生D&D解説担当の塚田です。今回のこのコーナーは、技能チャレンジについてお話ししようと思います。
『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第4版で新登場した技能チャレンジは、情報収集・長行軍・複雑な罠の解除など、戦闘以外のすべてのシーンを同一の枠組みでシンプルに処理できる良いシステムです。ただし、汎用性の高さと引き換えにルールブックの説明が抽象的すぎるきらいがあり、また、個別の状況にあてはめるにはDMのコツや慣れが必要だったりします。以下のアドバイスが、技能チャレンジがどうもピンとこないとか、どうすれば面白いセッションにつながるのか分からないというDMの皆さんの(そしてプレイヤーの皆さんにも)お役に立てば幸いです。
細かい話の前に
以下の文章はすでに技能チャレンジの基本的な構造(複雑度や主要技能といったルール用語含む)を理解している方向けに書かれています。ふだんはプレイヤー専門の方も、まずは『ダンジョン・マスターズ・ガイド』の技能チャレンジ関連のページをざっと読んでみてください。
また、ここで扱う技能チャレンジは、9/4放送分の『ベスビア河を下れ』のように、パーティ全員で取り組むべき大掛かりなものに限られています。戦闘中の罠解除のような小規模な説明は特に説明することもないので、最初から視野に入っておりません。
最後に、技能チャレンジというシステムの基本的な部分は『ダンジョン・マスターズ・ガイド』(DMG)で述べられていますが、これは本当に骨組みしか書かれていません。技能チャレンジの活用法については、『DMG2』または『ルールズ・コンペンディウム』がたいへん参考になりますので、なるべくいずれかのルールブックをご覧ください。
技能チャレンジと戦闘の対比
さて、ようやく本題に入りましょう。技能チャレンジを面白くするために、技能チャレンジをいくつかの要素に分割し、それぞれの要素に何が必要かを考えていこうと思います。そして、その際には戦闘におけるさまざまな要素と対比することで見通しがぐっと良くなります。以下の表をご覧ください。
1.目的:ほとんどの場合、戦闘の目的は「目の前の敵を倒すこと」という自明なものです。これが嫌いなプレイヤーはまずいないでしょうし、積極的に貢献しようとしない人も少ないはずです。
いっぽう技能チャレンジでは、目的が抽象的で分かりにくかったり、プレイヤーから見て魅力に欠けていたり、「自分にできることはなさそうだから専門家に任せて見物しておこう」という人が現れたりするケースが少なくありません。これでは面白い技能チャレンジなど望むべくもないでしょう。
逆に言うと、目的を具体的にはっきりと提示し、プレイヤーがやってみたいと思うような(少なくとも、「お話を前に進めるためにはこれをやる必要があるよなあ」と納得できるような)、そしてすべてのPCに何かしら貢献できることがあるようなものにすることで、技能チャレンジを楽しめる可能性は格段に大きくなります。
2.成功の度合い:戦闘には全滅~完勝まで、さまざまな成功/失敗の段階があります。しかも、必ずしも完勝が一番楽しいとは限らないのが面白いところです。敗色濃厚な局面から力を尽くして辛勝にこぎつけたり、楽勝のはずの相手に出目の悪さで思わぬ苦戦を強いられたりといった体験の方が、順当な勝利よりも記憶に残っているという人も多いでしょう。
この点は技能チャレンジもまったく同じです。「3回失敗する前にn回成功したか否か」だけでなく、大成功から大失敗まで複数の成功段階を用意したり、得られる成果や消耗するリソースに変化をつけることも技能チャレンジの楽しさに貢献するでしょう。
また、やや裏技になりますが、PCたちの失敗回数に応じて結果の演出だけを変えるのもありです。1回も失敗せずに成功した場合はPCたちの大活躍を描写し、2回失敗したギリギリの成功の場合は苦労を重ねてようやく成果を得たというように演出することで、(得られるゲーム的利益がまったく同じであっても)プレイヤーたちにゲーム世界で自分のキャラクターが「生きて活動している」感覚を強く与えることができるでしょう。
3.手段の多様性:戦闘においては、各PCは豊富な行動の選択肢の中から最適と思えるものを選ぶことができます。どの手を打つのが最も効果的か、あれこれ頭を悩ませている瞬間が、戦闘で(さらにはTRPGセッション全体において)一番楽しいという人も多いでしょう。
いっぽう技能チャレンジでは、DMから提示された技能判定を淡々とこなすだけになってしまうことが少なくありません。適宜ロールプレイを挟んで面白く進めることができるのなら、これでも一向にかまいません。ですが、できることならプレイヤーには「この技能判定を成功させるにはどうしたらよいか」ではなく、「この目的を達成するためにはどの能力を使えるか」と考えてもらった方が、より楽しい技能チャレンジになるはずです。
また、行動の選択肢を技能だけに限定しないことも重要です。例えば、技能チャレンジの目的が長行軍であれば移動系の儀式は大いに役立つでしょう。他にも、パワーやクラス能力などにも(技能判定へのボーナス以外の形で)戦闘外のタスクに役立つものは数多くあります。こういった要素は戦闘能力に比べて使える機会が少ないので、プレイヤーは積極的に活用法を考えるべきですし、DMも提案されたら寛容に効果アリと認めたほうが楽しいセッションになります。これによって技能チャレンジが(DMの想定以上に)簡単に成功してしまったとしても、大した問題ではありません。
4.視覚要素:3版以降のD&Dの戦闘はマップとミニチュアを使うことがほぼ必須となっており、これによって参加者全員が「ゲーム世界で起こっていること」を把握しやすく、また認識のズレが生じにくくなっています。地形や位置関係はもちろんのこと、卓上からモンスターのミニチュアが1つまた1つ減っていくことでプレイヤーたちが勝利に近づいていることを実感できるというのも利点です。
いっぴう技能チャレンジにはこの手の視覚的要素が組み込まれていないため、プレイヤーたちはしばしば自分たちがどの程度目的に近づいているのか分からなくなったり、どういう手段が選べるのか忘れてしまったりします。ここを補うのがDMの腕の見せ所です。パワーポイントなどのソフトウェアを使ってカラフルなフローチャートを作れるなら、ぜひそうしましょう。旅行ならば地図を準備し、PCたちがどれだけ過酷な行軍を行なっているのかイメージしてもらいましょう。また、以下のようなアスキーアート的マップを用意するだけでも、プレイヤーの理解を大きく助けます(9/4放送分の『ベスビア河を下れ』で使用したマップの原案です)。準備の時間が取れない/スキルが無い場合は、技能チャレンジの目的や技能をプリントアウトしてプレイヤーに配るだけでも、口頭で説明するのとは全然違ってきます。
ルートマップ
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
1 4―7 11―13
/ \ / \ / \
始 3―5―8―9―洞 15
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2 6 12―14 17―終
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16
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
(数字が示しているのは地図上の各地点を示しています。必要に応じてイベントを配置するなどして、地点間を移動している感じを演出できます。実際のセッションではトランプによりイベントを提示していました)
以上、技能チャレンジを楽しく進めるためのアドバイスをお送りしました。今回の『ミスタラ英雄戦記』シリーズでは、これからもボス戦以外のシーン(戦闘含む)を技能チャレンジ的に演出することが何度かあると思います。それでは、次回以降の配信もお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹
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