4回目のそのまえに

 水曜夜は冒険者――場所はおなじみ、東京は新宿のHobby Japan会議室より。カメラが回り始めると、そこにはいつもの面々と、そしてマップにしては何やら3Dで大掛かりなものが……そう、船。

DM:「今日、みなさんに乗っていただく飛空艇ですよ。船首楼と船尾楼つき。厚紙にカラーコピーしてペーパークラフトで作りました」

 安全優雅な空飛ぶ船は……何故か、いや、もちろん、マップ仕様。あれやこれやはさておいて、まずはカプコン版のほうの『ミスタラ英雄戦記』にて本日のセッションで遊ぶステージからの“今回予告”。

 画面には飛空艇の勇姿が一瞬映し出され、次の瞬間には「敵だー!!」の台詞。まぁ、そういうことになりますよね。降りそそぐ火球、乗り込んでくるシャドーエルフの剣士に厄介なハーピー、そしてどうやら重要人物っぽい謎のシャドーエルフ……。

 ちなみに今回はフルメンバー揃っての空の旅になりました。みんなやっぱり飛空艇には乗ってみたかったんだとか、さすがに空路を使うような旅の先にどこかで合流するのは無理があるから全員揃って今日のセッションに臨めてよかったよかったとか。


アエングモアの上空にて


 グラントリ公子、マラキー・ドゥ・マライの持ち船――といってもこれは、グラントリの魔法の粋を集めた、空を行く船である――は、ゆっくりと地上を離れ、そして一路アエングモアはラフィールトン市を目指して航行してゆく。操船はすべて乗員たちが行ない、英雄一行は客人扱い。おそらくは怪物どもが徘徊しているのであろう一帯を悠々と飛び越え、アエングモアの森の上空までことなく来かかったところで……

DM:「敵だー!!」

 突如甲板に無数の火球が飛来し、炸裂した。このままではていのいい的である。乗員たちは船首楼か船尾楼のどちらかに退避。英雄たちもひとまず甲板から移動して、船首楼にはエルカンタール、アーズ、グレルダンにメギス。船尾楼にはブラントとローズマリー。ひといきついて状況を確認すると、飛空艇は敵に取り囲まれている。艇の周囲を無数のワイバーンが飛び回り、その背にはシャドーエルフの魔道士がまたがっていて火球の呪文を撃ち込んでくるのだ。それだけではない。武器を抜き放ったシャドーエルフの剣士どもも次々に艇に乗り移ってくる。大半は雑魚だろうが、隊長格の連中はかなり腕が立ちそうだ。さらに上空から叩きつけるような強風が吹きつけた。頭を低くして見上げた目に映るのは、半ば鳥、半ば女の姿の怪物が、棍棒を片手に巨大な翼を広げて艇の真上を舞う姿。ハーピーだ――名前だけは聞いたことがあるが、こんな巨大な亜種が存在したとは。


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 戦闘態勢取れ、と、船長の命令が飛ぶ。低い轟音とともに、艇の周囲10フィート(2マス・3m)に安全ネットが展開する。これなら万が一、戦っている最中に甲板の柵を越えて艇外に転落してしまっても、地上に落ちることはない……そこが艇から10フィート以内の場所であれば。

 敵がシャドーエルフであることを見て取ったエルカンタール、微かに頬を引きゆがめると、物も言わずに弓を引き絞った。一呼吸のうちに放たれた2本の矢は、過たず剣士どものなかでも隊長格の1人の身体に突き立つ。

シャドーエルフの剣士:「貴様……裏切り者め!」

エルカンタール:「同族扱いしてもらっては困るんだよ――木々を裏切ったものは木々に裏切られるがいい」

 表情の消えたエルカンタールの唇がそう呟くと同時に、飛空艇の甲板の板が急に持ちあがった――ように、見えた。木材の中に安らっていた木の命が目覚める。森の木々だったころのことを思い出す。樹齢何百年の節くれだった木の根が甲板を這いまわり、敵の脚を絡め捕る。からみつく根(エンタングリング・ルーツ)の技である。

 そのさまは上空のハーピーからもはっきりと見えた。そうか、腕前も厄介なら立場も厄介というわけだな。まずはあの弓使いからか――翼ある生物とは思えないような地響きを立てて、ハーピーは甲板に舞い降りた。いっぱいに広げた翼で風を巻き起こしながらエルカンタールの立つ船首楼に近づいてゆく。が。

アーズ:「させるかッ」

 同じく船首楼にいたアーズ、2、3歩下がって距離を取ったかと思うと、つけた助走の勢いもろともハーピーめがけて突っ込んだ。大きく薙ぎ払った剣は船首楼に巡らされたフェンスごと、ハーピーの胸元をざっくりと切り裂く。息もつかせずもう一撃。斬った勢いを殺さずにさらにもう一撃。伝説の剣士の渾身の技(ミシック・スレイヤーのアクション)が炸裂する。「なんと、本当に厄介なのはこのチビか」と、ハーピーはアーズへ鉤爪を伸ばしかけるが、

グレルダン:「愚か者め、太陽神の御心により、貴様はこの私が地獄に送ってくれる!」

 禿頭の司祭の大音声が、ハーピーを叱咤した。具体的には伝説の道:バトル・チャプレンのクラス特徴、戦闘詠唱によりハーピーをマークした。ゆるり、とハーピーの顔が――混乱した表情を半ば浮かべながら、そちらを向く。

 ハーピーは船首楼の連中がなんとかするだろう。ということで、船尾楼に退避していたブラントは、それ以外の無礼者どもを片づけることにした。無造作に立ちあがると、ちょうど目の前に乗り込んできた隊長格のシャドーエルフにつかつかと歩み寄り

ブラント:「貴様、この船をなんと心得る」

別に答えを聞く気はないのでそのまま大鎚を思い切り振り抜いた。それで文字通り、1人片付いた。哀れなシャドーエルフは、武器を一振りする間も与えられないまま、柵を破り、展開していた安全ネットも越えて消えていった。

 乗り込んだものの、このままでは斬りたてられて終わりだ。シャドーエルフたちは互いに目配せし合う。とりあえず武器を持っている連中は総じて過剰に剣呑だ。だったらまず、魔法使いを片づけてしまおう。呪文さえ紡ぎ終わらなければ、魔法使いはただのヒトなのだから――というわけで、シャドーエルフが2人、少し離れて立っていたメギスの隣に次元飛び(ディメンジョナル・ステップ)の技で出現、滅多打ちにする。が、殺しきれない。――魔術師の不意を討つなら、一撃で仕留めなければ無意味なのだ。襲撃者の目の前で血まみれのメギスの姿が忽然と消える。紡ぎかけていた呪文をすばやく変形させ、不可視化(インヴィジビリティ)したのだ。そのままメギスはシャドーエルフどもの隣をすり抜け、甲板に降りる。

ローズマリー:「あら、あっち大変だわ。ブラント、あなた手伝ってこなきゃ」

 銀の鈴のような声が船尾楼にこぼれた。もちろんローズマリーだ。言いながらブラントの頭上でくるりと一回り。と、竪琴の一番細い糸を爪弾くような音がして、何もない空中から銀の粉がふわりと飛び散り、ブラントを包み込んだ。

ローズマリー:「妖精の粉(ピクシー・ダスト)よ。ブラント、あっちに飛んでけー!」

 それはそれは場違いな楽しそうなくすくす笑い。さもあらん、いかつい顔のブラントが目を丸くして、きらきら光りながらふんわり宙に浮いている。

 船尾楼ではどうも世界の軸が少しばかりずれていたが、船首楼は相変わらず血なまぐさかった。シャドーエルフどもに詰め寄られたグレルダンが呵々大笑しながら鎚鉾を構えてぐるぐる回る。

グレルダン:「どいつもこいつも神威を畏れ、ひれ伏すがいい!! 太陽神は、この我に、勝利を、約束なされたわッ」

 あれは約束された勝利(プロミス・オヴ・ヴィクトリー)をあらかじめ寿ぐ祈祷であった、と、後にグレルダンは得々と語ったものである。ともあれ、徳高き僧侶の発する太陽神の威光に打たれた敵どもの守りはがらあきになり、ハーピーの胸の傷はいっそう深くえぐり取られる。もはや命の半分は削り取られたといったところ。

 そこへエルカンタールの矢が飛ぶ。瞼の上を射切られ、流れる己の血に視界を奪われて、ハーピーはすさまじい金切り声をあげた。広げた翼から羽毛が飛び散る。だが、それは鳥の優しい和毛ではない――怪物の翼から放たれた羽根は、その1枚1枚が鋭い刃なのだ。のた打ち回るように振るった翼だが、恨みが狙いを定めたか、エルカンタールの皮膚を、肉を、羽根のかたちした無数の刃がこそげ取ってゆく。が

グレルダン:「ええい物覚えの悪い鳥女め、ぬしの相手はこの私と言い聞かせたろうが!」

 女怪がさらにエルカンタールに掴みかかろうとした途端、グレルダンの鎚鉾がその鍵爪を打ち据える。と思った瞬間、

アーズ:「ほら、余所見するなよ!」

 グレルダンの足元をすり抜け、大きな剣を振りかざして小さな影が躍り上った。もちろんアーズだ。船首楼の柵ごと体当たりしかねまじき勢いで、小さき英雄の剣はハーピーの喉首を深く抉っていた。それが致命傷になった。喉を破られ、断末魔の声さえあげられぬまま、ハーピーは甲板に崩れ落ちた。


天空の城とテルアリン

 必殺の尖兵のはずの女怪が死んで転がったのを見た途端、敵どもは逃げ腰になった。そのはず、最初の火球が甲板に炸裂してから、心臓がやっと10打つか打たないかのうちにハーピーが死んだのだ。敵の隊列は総崩れになり、算を乱して逃げ散じるかと思った刹那。

「あ……あれは、あれは何だッ」

悲鳴のように叫ぶ声は甲板の乗員のもの。思わず見上げた視線の先で。

 渦巻く黒い雲間から不吉な影のように浮かび――またたくまに雲海に沈んで消えたそれは、まぎれもなく天空の城。そしてそこから一際大きなワイバーンが高笑いとともに飛来する。否、笑っているのは竜に騎乗した――奇ッ怪な鎧をまとった1人のシャドーエルフ。

 その男が一声「アニメイト・デッド!」と叫ぶと、なんということか、甲板に転がっていた乗員の死体が次々と立ち上がる。だが、その形は見る間に腐って溶け崩れ、お仕着せの名残のぼろを僅かに張り付けた骸骨となってゆくのだ。そうして骸骨戦士は、先ほどまでの仲間たちに武器を振りかざして襲いかかってゆくではないか!


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 いったんは敵を撃退したかと思ったが、それから心臓が100打つ暇も寄越さずに現れた奇っ怪なる新手。具体的には小休憩なしの連続遭遇。

 ちなみにこの間PLたちは英気を養うために、おそらく小休憩3回分以上の時間をかけたおやつタイムを取っているのだが。たぶん栗とチョコレートとマロンペーストのケーキと3種のベリーのムース。筆者も配信画面から見ていただけなので正確なところはわからないのだが、それはまぁ、秋らしく、品よく、きれいで美味しそうな。あ、サイズもかなり素敵だった。

ともあれ英雄たちはひとまず船尾側に集結した。

エルカンタール:「奴は……まさか」

 唇をかすかに震わせたエルカンタールに

グレルダン:「知っているのかエルカンタール!?

エルカンタール:「……残念ながら。シャドーエルフの中では知らぬものはない、シャドーエルフの英雄と呼ばれた男。名はテルアリン。身に着けた鎧はなめした蛇の皮を重ね魔法で固めた代物。そして手にした剣は……」

アーズ:「……雷の剣、ブレード・オヴ・ストームスだな。伝承通りだもの、見ればわかる」

 エルカンタールの台詞を奪うようにアーズが言い継いだ。その声音は――なんだかいつもと違ってこわいもののように聞こえた、と、後に吟遊詩人ローズマリーは言ったものである。

 その言葉が消えるか消えないかのうちに、戦いの火ぶたは切って落とされた。

ブラント:「おい、アーズは奴に用があるみたいだ。アーズの前を空けてやれ」

 ブラントがそう言った瞬間、轟音とともに雷撃が周囲を薙ぎ払った。テルアリンの振るう剣に鋳込まれた雷の呪文が炸裂したのだ。エルカンタールとローズマリーが直撃を喰らう。余波を受けたか、ブラントの顔も大きく歪んでいる。

テルアリン:「思い知ったかッ。我こそはシン女王が四天王のひとり、電撃のテルアリン……」

ブラント:「狼藉者が図々しいわ。我が名はブラント、戦神コードの聖騎士にしてマラキー公子殿下の矛先なりッ」

 戦いの混乱の中で、しかしブラントはテルアリンの名乗りに応じる。公子の船に公子の騎士として乗っている以上、無頼の輩に礼で劣るわけにはゆかぬ。が、四天王などと大仰な名乗りにわざわざ返答したのはそこまでで、

アーズ:「貴様……その剣は僕が貰うッ。あんたみたいな邪悪な奴に持たしちゃおけない!」

 アーズの呻くような声を背後に、大鎚を構えたブラントが「この無礼者が」と喉の奥で唸りつつテルアリンめがけて飛びこんでゆく。振りぬいた大鎚はシャドーエルフを掠めて甲板に叩き付けられたが

ブラント:「報いからは逃れられねえってこったッ」

 ブラントの全身から湧き出す黒い冷気。それはテルアリンの全身に絡みつき、精神と肉体を同時にぎりぎりと締め上げる。思うように身動きもならないまま、テルアリンは骸骨戦士どもに下知を飛ばす。このハーフオークを囲んで滅多打ちにしろ。

 と、その時。

 少し離れた場所に、呪文を唱えるメギスの姿がおぼろげに浮かび上がった。

PL若月:「あのー、アイス・ストーム撃とうかと思うんですけど……」

PL堀江:「あ、いいっすよ、ブラントごとやっちゃって下さい」

PL若月:「え、いいんですか」

PL堀江:「だいじょぶだいじょぶ、ブラント死なないし」

というわけで、メギスの姿はみるみるはっきり像を結ぶ。

メギス:「ブラント、すまない。頑張って君には当てないようにするから」

ブラント:「おい、ちょっと待てメギス、何しやがるッ」

 静かに言い終えるとメギスはおもむろに諸手を掲げた。

――吹雪よ来たれ、目の前の者どもを魂ごと氷に閉ざせ。アイス・ストーム!!

 その言葉通り、骸骨戦士の半分が凍り付いて崩れ落ちる。骨の深くを氷の刃に裂かれたか、テルアリンの顔も大きく引き歪む。それを逃すはずがない。氷雪嵐の直撃だけは(実際にはダイスの僥倖、物語的にはおそらくメギスが外そうとしたために)どうやら免れたブラントの足元をすり抜けるようにして、アーズが飛び込んでくる。その雷の剣、貰ったッ。

 ――だってしょうがないじゃない、あの子、あの剣を探すのが仕事なんだもの。ちょっとぐらい目が血走ってたって、ちょっとぐらい台詞は追剥っぽくたって。

 ローズマリーの言葉もなにやら大概ではあるが、ともあれ。

 義憤か、それとも――なんにせよ、渾身の力を込めたアーズの剣はテルアリンの利き腕を深々と断ち、そのまま大きく一文字に鎧ごと胸を切り裂いていた。その一撃でテルアリンの膝がぐらりと傾ぐ。具体的には威勢よく名乗りを上げたラウンドのうちに重傷に追い込まれる。だが、敵もそのままおめおめとやられてはいない。ワイバーンから放たれる火球がハーピーの羽根の刃で既に血まみれのエルカンタールを襲い、シャドーエルフの剣士もアーズに突撃する。が、

ローズマリー:「だから、あたしの前では運命なんていくらでも変わるの!」

 詩人の歌は時空を超えて響く。未来からの警告(プレシェント・ウォーニング)がアーズの耳に届き、小さな剣士の大剣はあらかじめ知らされた敵の軌道を断ち切るように振り抜かれている。さらにローズマリーは声を張り上げ、警告を放つ。

ローズマリー:「みんな、後ろに気をつけて。みんな、後ろに気をつけて!」

 語り手の紡ぐのは英雄譚だけではない。警告の訓話(コーショナリィ・テイル)もまた、吟遊詩人の紡ぐ魔法。

 まだ動ける骸骨戦士を操って、しゃらくさい英雄どもを挟み撃ちにしようとしていたテルアリンが聞き苦しく舌打ちする。妖精のくすくす笑いがそれを打ち消す。

グレルダン:「ほう、卑怯な手を使うつもりだったか。生憎だったな。そこで突っ立って己の愚かさを後悔しておれ」

 畳み掛けるようにグレルダンの神威を借りた叱責がテルアリンの耳を打ち、その動きを鈍らせる。敵の足止めを祈る祈祷(ホールド・フォー)である。そして、声だけではない。

グレルダン:「そいつに思い知らせてやれ」

ブラント:「よしきた」

 無造作にぶちかましたブラントの鉄槌だが、グレルダンの叱咤によってがんじがらめにされていたテルアリンは見事に避けそこなう。そこへエルカンタールも矢を射込む。喉元に突き立つはずだった矢は、わずかに狙いから逸れたが、それでも頸動脈を射切っている。鮮血が吹き出し、シャドーエルフの英雄は今にも倒れんばかりによろめく。

 実のところエルカンタールが外したディスラプティブ・ショットの、それでも半減ダメージをこうむったテルアリンの現時点でのhpは1。

DM:「すいません……あの、ここで強制イベント的に脱出したいんですけど、良いでしょうかね?」

 全員にこやかに「良いわけあるか」と回答。

 詰まるところ、テルアリンがhp1で冒険者たちに囲まれつつあるという卓の上の現実は変わらない。

 破れかぶれのテルアリンは目の前のブラントに斬りかかり、血路を開こうとした。一度目に振るった剣は目標を捉えた。だが、二度目に剣を振りきる前にブラントが反撃していた。打ち所が悪ければ階段から足を滑らせてさえ死にそうだったテルアリンは、あっけなく絶命した。

 後にDMは述懐する。

DM:「こちらとしてはhpが1/4になった辺りで戦闘を離脱して、ゲーム版と同じように距離を取って仕切り直し、必殺技を繰り出してPCを追い詰めて、そこにNPC(テルアリンの兄弟、テルエレロン)が割り込んで、テルアリンは捨て台詞を残し、船を爆破する、ってするつもりだったんですけどね……。

PC達の攻め手が早かった」

 ヒトがゲームマスターをする、というのは、つまりこういうことなのである。


不時着

 襲撃隊の指揮官までが死体になって転がったのを見て、ワイバーンの乗り手たちは今度こそかなわぬことを悟ったらしい。一斉に竜の首をめぐらすと一散に逃げ出し――そして呪文の射程範囲ぎりぎりまで逃れきると、今度は捨て台詞よろしく火球を叩き付けて寄越した。これを一斉にやられては、さすがの飛空艇もひとたまりもない。船体は大きく傾き、

「落ちる!」

「落下速度が速いぞ、なんとか立て直せ!」

 きりもみしながら地上へと急降下してゆく。このまま墜落かと思ったが、さすが一国の公子の船、船体も乗員も一級品だ。危ういところではあったが、艇はそう大破もせず、森――当然、アエングモアの森だ――の真ん中に不時着した。

 なので、英雄たちは地上に落ち着いてから、敵の指揮官の亡骸を落ち着いて改めることができた。蛇革の鎧をまとい、魔法の指輪をはめ、手には嵐の剣、そして懐には――命令書らしき謎めいた紙が1枚。アエングモアの地図と思しき図の中に“大樹”“要塞”の文字が見て取れる。どうやらその地図に示された場所こそ、シャドーエルフどもの本拠地らしい。

 となれば、ラフィールトンまでのんびり大回りしている事態ではない。ここで地上に降りたのも、かえって良かったかもしれぬ。地図が手に入ったのこそ僥倖、このままシャドーエルフどもの本拠地に潜入し、その心臓部を叩き潰さねばならぬ。地図から見て取れる要塞までの道は3つ、さて、どの道をゆくか……というところで、もちろん視聴者にアンケート。


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 結果はB、腐海すなわちアエングモアのキノコの森を直進せよ。

 というわけで。

グレルダン:「太陽光が揺らがぬごとく真っ直ぐ行けと、これこそ神の御心」

 祝福されし司祭が厳かに言い、そうして一行は森を突っ切る最短距離で、大樹要塞を目指すことになった。


DM:「というわけで来週は腐海を直進です。みなさんはもっとも困難な道を選んでしまったかもしれません――が、それはもっともワクワクできる旅程、ということかもしれませんよ?」

 やたら嬉しげなDMの台詞を残して今週はひとまず一段落。大休憩を取る暇はないと宣言され、飛空艇の甲板で短い休憩を取っただけで腐海へと踏み込んでゆく一行。

 来週は……さすがに安全ではなさそうですが、さて、どうぞ、何かの意味で佳き旅を!