皆様こんにちは。生放送では解説を担当しております、D&D翻訳チームの塚田与志也と申します。このコーナーでは、セッション前のシナリオ準備段階でDM(ダンジョン・マスター)の柳田と私が話し合った内容や、細かなルールとテクニックなどについて書いていく予定です。セッションに当たってどんなことを考えているのか、そのためにどんな対策をしているのかを示すことで、皆様のプレイングの助けになればと思います。
さて、今回はオリジナル・モンスターの作り方を扱います。8/28放送のセッションに登場したゴブリン・ウォー・マシーンのデータは、当然ながら『モンスター・マニュアル』などのルールブックには載っていません。今回のこのコーナーでは、我々がウォー・マシーンを作成した過程を元に、オリジナル・モンスターを作成する際のアドバイスを提示しようと思います。
既存データの活用と改造元モンスターの選びかた
DMG(『ダンジョン・マスターズ・ガイド』)シリーズにはオリジナルのクリーチャーを0から作り上げるためのガイドラインも載っていますが、既存のモンスターを改造した方がはるかに手間が少なくてすみます。このウォー・マシーンも、同じく12レベルの精鋭・暴れ役であるフレッシュ・ゴーレムのデータをもとに、パワーその他を少し変えただけですが、全然違ったモンスターに見えるでしょう? 極端な話、データはまったくいじらずに描写とパワーの名前を変えるだけでも、プレイヤーにはそうそうバレません。
まず、作りたいモンスターのレベルと役割を決めましょう。戦闘遭遇に出していいモンスターのレベルについてはDMGに基準が載っています。役割については、各役割の説明を呼んで、モンスターのイメージに最も近いものを選びます。ボス的な立ち位置ならば精鋭や単独にすることも検討してみましょう。
改造元のモンスターを選ぶ際も、一番重要なのはレベルと役割(精鋭や単独などの副次的な役割も含む)です。『モンスター・マニュアル』シリーズの巻末にはレベルと役割別の表がついているので、これを眺めて適切なモンスターを選びましょう。レベルと役割が完全に一致していれば、面倒な計算の手間を大きく省くことができます。もちろん、作りたいモンスターのイメージに合わせて数字を多少いじってもかまいません。
データの変更点
では、我々がゴーレムを改造した手順を順番に説明していきましょう。サイズ分類、起源、キーワードなどは半自動的に決まるものなので、書き換えは簡単です。ゴブリンが特に冷気に強い理由はないので、[冷気]への抵抗は削除しました。
フレッシュ・ゴーレムらしさ(さらに元をたどれば“フランケンシュタインの怪物”らしさ)を出すための特徴2つはゴブリンにそぐわないので削除し、新たな特徴を2つ持たせました。まず、全周囲視覚(乗り込んでいるゴブリンがあちこちを見張っている)はビホルダーから持ってきたものです。
「このモンスターはこういうことができそうなんだけど、それをゲーム的に処理するためには何て書けばいいんだ?」などと頭を悩ますよりも、他のクリーチャーやクラスのパワーや特徴を“移植”した方がずっと楽です。
一方、「みんなで押すんだ!」の特徴はオリジナルです。強敵として登場させたモンスターが、PCたちの能力でバッドステータスを与えられ、無力化されてサンドバッグになる――D&Dに限らず、TRPGのマスター経験者なら1度や2度は身に覚えがあるシチュエーションだと思います。このような状況に対する一番簡単な対応策は、「このモンスターにはこれこれの状態異常は無効」としてしまうことですが、これには危険が伴います。得意技を封じられたプレイヤーはさぞがっかりするでしょうし、悪くすると「どうせボスには状態異常が効かないから、レベルを上げて自己強化や支援をかけて物理で殴ればいい」のような面白みの欠ける戦闘になりかねません。
そこでお勧めなのが、この「みんなで押すんだ!」の特徴のように、何らかのコストを払って状態異常に対抗する能力を持たせることです。可能であれば、単に「これこれのコストを支払って~状態を終了させる」というルール処理だけを書くのではなく、「追加のゴブリンが頑張ってウォー・マシーンを押している」のような描写や演出を考えておきましょう。
次は作りたいモンスターのイメージに合った攻撃を考え、それを搭載します。逆に元データのパワーのうち、イメージにそぐわないものは削除します。攻撃パワーはモンスターの個性が最も現れやすい部分なので、特に力を入れましょう。今回は『ダンジョン&ドラゴンズ ミスタラ英雄戦記』の演出を再現するという明確な目的があったので、それを元にゴーレムのパワーを変更しました。
攻撃パワーを新規作成する場合は、DMGの『モンスターのカズタマイズ』と『レベル別の難易度とダメージ』表(この表にはアップデートがあるのでご注意ください)を基準にします。なお、生放送の際にはウォー・マシーンが重傷になった際の“オイルが漏れた!”パワーがクリティカルして大惨事になりましたが、あれは我々が数値設定をミスしたせいです。『レベル別の難易度とダメージ』表の数字は、そのモンスターが1ラウンドの間に与えるダメージの合計値(=標準アクション、マイナー・アクション、即応アクション、オーラの自動ダメージ等をすべて合算したもの)と考えるべきものなのですが、設計段階ではその点を見落としておりました。ここで公開するデータはその反省を生かし、トリガー型アクションのパワー2つのダメージが抑え目になっています。
最後に、DMGなどでも繰り返し述べられていることですが、モンスターのデザインは理論だけで完成するもの(サイエンス)ではなく自分の感性に基づくべきもの(アート)です。オリジナル・モンスターのデータが出来上がったら、一晩置いてから見直したり、自分のところのPCたちを想定して模擬戦闘をしてみるなど、必ず微調整を施しましょう。
以上、オリジナル・モンスターを作成するときの指針でした。今シリーズでは原作再現のために自作モンスターがたびたび登場することになると思います。詳しくは次回以降の配信をお楽しみに!
『水曜夜は冒険者!:マスタリングのうらがわ』
著:塚田与志也
監修:柳田真坂樹
コメント
コメントを書く