北島秀一・山路力也・山本剛志 共同責任編集
【目次】
□クロスレビュー「必食の一杯」
■連載コラム(第4回)
『ラーメンの憂鬱』〜麺を知ろうとしないスープ屋(山路力也)
『教養としてのラーメン』〜ラーメンとは何かを、ラーメンでないものから考える(山本剛志)
□告知/スケジュール
■編集後記
■巻頭コラム
『ラーメン屋の人手不足を考える』
ラーメン屋の人手不足が止まらない。人手不足による臨時休業、長期休業、閉店すらも珍しくない。一方で「今日は人手不足のため、店主一人で営業します」という店も出てきて、客席やメニューを絞って営業していたりする。
人手不足の問題は、ラーメン屋、飲食業に限らず全国的な問題である。飲食業を始めとするサービス業では、給料が安く拘束時間が長いというイメージがついていて、更に人手不足感を高めている。
個人店主の小規模ラーメン屋の場合、更に難しい問題がある。労働集約型なので利益を上げやすい構造であると同時に、一人当たりの作業の幅が大きい。それを教えるべき店主も忙しいので、店の営業中にOJTというわけにもいかず、働き始めたものの何をしていいか分からず、そこでお店の期待通り働けなかったり、トラブルが発生してしまったりする事になる。
こういう話をしていると、店主の側から「自分が働いていた頃は、長時間勤務で休日なしで働いて安い月給でも普通だった。最近の若者は根性が足りないんじゃないか」という意見も聞こえてくる。その面がないとは言わないが、一つ誤解している所がある。今、ラーメン店で働こうとしている人が、そもそも自分で独立する意識を持っているとは限らない事である。自分が店主になる為でなく、一定時間を働いて、必要な時に休みを取りたい。そう考えている人に、店主がこれまでの修業で高めてきた水準まで働かせようとしても、「無理です」と言われて仕事に来なくなるだけである。
面接の時は「何でもやります」と元気に宣言してくれたかもしれない。ただ、最近は「面接の時は"何でもやる"とアピールする事」というテクニックが知れ渡ってしまっている。そうしないと採用されない、と言われているからである。
かの「ワタミ」創業者の渡辺美樹氏も、宅配便でのアルバイトから、相当の苦労を重ねて一大企業に育て上げた。しかし、その苦労を押し付けるかのように、非常識な働かせ方をさせていた。正社員の立場を守りたかった新入社員を過労死させて、いまや「ブラック企業」の代名詞になってしまった。「働き方」と「働かせ方」のミスマッチは悲劇である。
働き手が集まらないと言われる今、大事なのは働く人の「働かせ方」を細かく確認する事である。単に働けばいいと思っている人と、修業してラーメン店を開きたいと思っている人とでは、働かせ方は変えなければいけない。採用面接で、本音を聞き出さないと意味がない。また、ラーメン店同士のネットワークを人材活用に繋げている例もあると聞く。あちこちの店を転々として問題を起こす人もいるかもしれないが、それぞれの店の特徴を知っているだけに、自分の店にマッチした人材の発掘への参考になるかもしれない。
大規模チェーン店でもない限り、人事のプロを雇うわけにはいかず、店主が応募者の人となりを判断しなければならない。苦労も多いと思うが、うまくいけば店が飛躍するきっかけになる。味づくりより難しい「人づくり」にも力を注いでいただければと願っています。
□クロスレビュー「必食の一杯」
一杯のラーメンを三人が食べて語る。北島、山路、山本の三人が、今最も注目しているラーメン店の同じ一杯をクロスレビュー。それぞれの経験、それぞれの舌、それぞれの視点から浮かび上がる立体的なラーメンの姿。今回は10月22日、神楽坂にオープンした『中華そば田中屋』の「中華そば」を山路と山本が食べて、語ります。
「中華そば」780円