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ツバサ「ワタシも着替えてくるね♪」

イツキ「う、うんっ、いってらっしゃい!」

 

金色のサイドテールをひるがえし、カーテンの奥へと姿を隠すツバサちゃん。「ふぅ」と一息、それは“切り替わり”のスイッチ。

 

ツバサ「あはは…ビックリした。

  まさか半裸のイツキとシズカさんがじゃれてるとは。

  ……ごめん、イツキ

  ちょっと――いやぁ、だいぶ見えてた。

イツキの“オトコのコ”ってトコロが」

 

シズカさんと絡みあうイツキの姿を思い出し、思わず笑ってしまう“ツバサくん”。自分の正体に気づかない、イツキくんの慌てように楽しいやら、申し訳ないやら。

 

ツバサ「とはいえ、“オンナのコ”に着替えてから事務所に

来るのってメンドーなんだよなぁ…時間かかるし」

 

学校の帰り道、イツキくんと別れたツバサくんは回り道をして“ツバサちゃん”にチェンジするのが日課となっていました。

 

ツバサ「でも――、決めちゃったんだもんな。

  『CherryLips』を結成した、

初めてこの姿でイツキに会った、

  あの日に――」

 

苦笑いしながらツバサくんが思い出すのは、あの日のコト――

 

◇◇◇◇◇

 

イツキ「ひゃっ、ひゃじめまして!」

ツバサ「はじめまして?」

 

ファンデーションをのせた頬をうっすら紅潮させて、早口にまくしたてるのは、はじめてのアイドル姿に緊張気味の“イツキちゃん”。同じくアイドル姿の“ツバサちゃん”との初対面なのですが……幼馴染に「はじめまして」とは?

 

イツキ「シシ、シズカしゃんから、一緒にユニットを組む

オンナのコが待っているから会いに行けって

   言われたんだけど……あ、あなたが“ツバサちゃん”?」

ツバサ「う…うん」

イツキ「ぼく……じゃないっ、ワタシ、イツキです!

  ふつっ、フツツカモノですが、よ、よろしくっっっ」

ツバサ「ちょ、ちょっと待って、イツキ!?」

イツキ「ひゃいっ! なんでしょうか!!!」

 

『イツキ…オレだってわかってない!?』

おいおい…シズカさんはどんな説明をイツキにしたんだ(いや、説明をしていないのか?)。

ツバサくんの頭に浮かんだのはイタズラっぽい表情でウィンクする小悪魔シズカさん――「てへぺろ

『イツキもイツキだろ……“ツバサ”って名前を聞いていたのに、なんでわからないんだよ』

さあ、困った…と眉をゆがめるツバサくん。出来損ないのVtuberのような、ぎこちないモーションをつづけるイツキくんに、なんて説明したらいいものか……。

『“オンナのコ”のツバサちゃん……かぁ』

――と、小悪魔シズカさんの横に別の影がチラリ?

『“オンナのコ”のツバサちゃん……?』

 

ツバサ「あっ――」

 

小悪魔シズカさんの影からあらわれたのは小悪魔ツバサくん。

シズカさんより、もっともっと悪い笑みを浮かべてツバサくんの耳元でなにかを囁くのでした。

 

ツバサ「ごめんね★

  ちょっと緊張がピークに達してヘンな声出ちゃった。

  えへへっ。

  ――はじめまして、イツキちゃん!

  ワタシがあなたと一緒にユニットを組むツバサです。

  一緒に素敵なアイドルになろうね♪」

 

◇◇◇◇◇

 

ツバサ「お着替え完了しました~♪

  イツキちゃん、どうかな? おかしなところない?」

イツキ「うん、今日もばっちりだよ」

ツバサ「えへへ、よかった♪」

 

あの日からはじまった不思議なカンケイ。

ここではツバサくんは“ツバサちゃん”――小悪魔の囁きからはじまった不思議な空間。

 

ツバサ「今日はイツキちゃんにプレゼントがあるんだ」

イツキ「プレゼント?」

ツバサ「じゃーん」

イツキ「それって……リップ?」

ツバサ「そう、私のオソロイなのでーす♪」

イツキ「おそろい!?」

ツバサ「ユニット名が『CherryLips』なんだし、

  リップがお揃いだったら素敵でしょ♪」

イツキ「それは…そう、かな?」

 

まだまだメイクに恥ずかしさをおさえられないイツキくん。お揃いと聞いて、思わず目線をそらしてしまいます。

そんなイツキくんの表情に、ふたたび姿を見せた小悪魔ツバサくんがニヤリ。また、よからぬことを囁きます。

 

ツバサ「――じゃあ、塗ってあげるね

イツキ「ええっ!? い、いいよっ、自分でやる!」

ツバサ「ワタシがやりたいの!」

 

ぐいっと鼻先まで顔を近づけて、お願いする“ツバサちゃん”に、イツキくんは従うしかありません。

 

イツキ「う……じゃあ、おねがいします」

ツバサ「は~い♪ じゃ、お口『ん~』ってして」

イツキ「んぅ~~~~」

 

目を閉じ、唇を突き出すイツキくん。

あらわになった肩が緊張でぷるぷると震えて……。

 

ツバサ「あははは、目は閉じなくても大丈夫だよ」

 

ぬりぬりぬり…ぬりぬりぬり…。

『イツキ、すっごく堅くなってるw

こういう反応が楽しくて、ついついからかっちゃうんだよね』

それは小悪魔の囁きではなく、ツバサくんのつぶやき。

『ツバサちゃんが、オレだって知ったら、どんな顔をするのかな、イツキはw』

 

ツバサ「はい、できたよ~」

イツキ「あ、ありがとう」

ツバサ「鏡見て。ほら、ワタシの唇とおんなじ色」

イツキ「ほ、ホントだ。なんか照れくさいね」

ツバサ「……そう?」

 

鏡に映るのは、頬を寄せ合う2人の顔。

『うーん、オトコ同士ではこんなことできないよなぁ』

コロコロとかわるイツキくんの表情が、ツバサくんには楽しくてしかたありません。

『イツキのこんな顔が見られるのなら、まだまだバラすのはもったいないな。もうちょっと続けてみるかw』

 

ツバサ「――ま、オレのことにまったく気づかない

  イツキの天然ぶりは心配になるレベルだけどなぁ……」

イツキ「え? 何か言った?」

ツバサ「ううん★ なんでもないよ!

  それじゃ、今日のライブもがんばろ~!」

イツキ「お、お~~」

 

『次はどんなことをイツキと楽しもうかな?

ふふふ…アイドル・ツバサ、しばらくやめられそうにないな♪』

イツキくんの手をとり立ちあがるツバサくんの表情は、小悪魔そのものなのでした。

 

[つづく]

 

ストーリー:恵村まお / 脚色:Col.Ayabe