エアコンのぬるい空気が眠気を誘う教室。

お昼休みのふんわりした空気に、とろとろとまどろみながらイツキくんはダルそうに机にもたれた身体を起こします。

『……ライブの疲れがまだ残っているのかな?』

腕や肩、太ももに残る疲労に、熱気にあふれたライブがよみがえります。小さなステージで、身体いっぱい使ったパフォーマンス、沸きあがる歓声、そして“あのコール”――

『ぼ、僕、ツバサちゃんのほっぺに…

ちゅ、ちゅ、ちゅーしちゃったんだよね……』

白くて、柔らかくて、ほのかに赤みをおびた、ツバサちゃんのほっぺたが間近に……。

 

「――ツキ、

お~い、イツキ!

イ ツ キ !!」

イツキ「うわぁあっ!」

ツバサ「おわっ!? ビックリした!」

 

気づけば、目の前にツバサくんの顔。

 

ツバサ「なにボケっとしてんだよ?

  はやく弁当食べないと昼休み終わっちゃうぞ?」

イツキ「あ…もうこんな時間か」

ツバサ「最近、ボーっとしてること多いよな?」

イツキ「そ、そんなことない…よ?」

 

のぞき込むように近づくツバサくんの顔に、重なるのはツバサちゃんの笑顔。

『うぅ…ツバサとツバサちゃん……似てる?

ライブのことを何度も思い出しちゃうのもツバサと一緒にいるから…なのかな??』

そこまでわかっていて、いまだに気づかないイツキくん。でも、戸惑っているのは彼だけではないようで……

『イツキ…オレのこと見てボケーっとしてるし…。

も、もしかして、いいかげんオレだってバレたのか!?

――なら、こないだのチューって!????』

おたがいに顔を見合わせながら、次の言葉に迷う二人――先制を仕掛けたのは積極性にまさるツバサくんでした。

 

ツバサ「そ、そういや~イツキ

  CherryLips』ってアイドル知ってるか?」

イツキ「ぶはっ!?!?」

 

ツバサくん、大胆なキラーパス!

間隙を突かれたイツキくんは必死にとりつくろい態勢の立て直しを試みます。

 

イツキ「ちぇ、ちぇりーりっぷす??

  し、知らないなぁ~? あはははは…」

 

『も、も、もしかして僕がアイドル活動していること

バレた!?』

あれあれ? 大胆すぎたパスはツバサくんの思惑とは大きく外れた方向に突き刺さり、ゲーム展開は思わぬ心理戦の様相に!?

 

イツキ「ど、どうしたの? とつぜんアイドルの話とか??」

ツバサ「今朝、ちかくで配られてた冊子に

記事が載っててーーーほら、ここ」

 

ツバサくんの切り札はクリスマス特集と銘打たれた街の情報誌。駅前の商店街の情報に混じって、サンタ風コスチュームの2人の“アイドル”の写真が掲載されています。

 

ツバサ「ご町内注目のアイドルユニットーーだって」

イツキ「へ、へぇ~~そうなんだ~

  ほかのページにはナニが載っているの?」

ツバサ「隣はメイドカフェの紹介かな?

  ――でも、いまはこっち見てくれてよ。

  CherryLipsの二人、オレたちと名前が一緒なんだよ。

  気になるだろ?」

イツキ「ぜ、ぜんっぜん!! ままま、まったく!」

ツバサ「そんな、めいっぱい否定しなくても…

  オレはカワイイと思うけどな~」

 

『あああ…オンナのコの恰好してる僕を見ないでぇ~!

絶対バレるぅううう!』

攻める手を休めないツバサくん。しかし、イツキくんが守ろうとしているゴールがそもそも検討ちがいなモノで……。

 

イツキ「ま、まぁ、ツバサちゃんはカワイイんじゃないかな…」

ツバサ「へぇ~、イツキはツバサちゃんが好みかぁ~」

イツキ「ニヤニヤしながら冊子を近づけてくるなっ!

  ちかい、ちかいっ!」

 

ツバサくん、当初の目的をちょっと忘れ気味です。

 

ツバサ「で?で?

どんなところがいいと思うんだよ?」

イツキ「え? そ、それはーー

  見た目もとびっきりカワイイと思うんだけど…」

ツバサ「うん、うん」

イツキ「明るくて天真爛漫ってカンジのところとか…」

ツバサ「なるほどぉ」

イツキ「ちょっと、お茶目なとことか…

  ご、強引に見えても、いろいろとこっちのことを

  考えてくれるところとか……」

ツバサ「へ、へぇ…」

イツキ「なにより、ライブ中のパフォーマンス!

  キラキラした笑顔でその場の空気を

  パッと華やかにしちゃうんだ!

  本当にすごいよね!」

ツバサ「お、おぅ…」

 

あれれ、いつの間にか攻守逆転?

 

イツキ「――って、友だちが、

  友だちが言ってた!」

ツバサ「そ、そっか、友だちが…ね」

イツキ「あれ? ツバサ、なんか顔紅いよ?」

ツバサ「いいから、早く弁当食べきっちゃおうぜ!

  昼休み終わっちゃうぜ!」

イツキ「う、うん」

 

『イツキのヤツ、ほ…本人を目の前にしてぇ……。

ま、この様子ならまだ気づいてないな……はぁ…』

あわててお弁当を頬張るイツキくんの様子を見ながら、ほっとしたような、どこか残念なような、ツバサくん。

でも…イツキくんにも思うところはあるようで……。

『こうして改めて写真と見比べると……

ツバサとツバサちゃん……たしかに似てる…なぁ』

 

 

[つづく]

 

ストーリー:恵村まお・わたび和泉 / 脚色:Col.Ayabe