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午後の授業が終了すると、幸いにもメルティが絡んでくることもなかったので、零次は崇城と連れ立って直帰できた。のんびりとコーヒーを飲んでいた沙羅に、かくかくしかじかと事情を説明する。
「いいわよー。零次の魔法ライフの役に立つなら、力になってあげようじゃない」
あっさりと承諾した。自分の要望を聞いてもらえたにも関わらず、崇城は呆れたような目で沙羅を見ていた。
「この前も聞きましたけど、彼が危険に遭うかもしれないのに、協力するんですか?」
「メルティ先生を信頼しているんだってば」
「あいつのことをよく知りもしないでしょう?」
「まあ、そうだけどさ。委員長さんは人付き合いするのに、心から信頼できるって思うようになるまで、何もかも疑ってかかるわけ?」
「……そんなことはないですけど」
「でしょ? 第一印象で、あたしはメルティ先生を信頼に足る人間だって判断した。それでいいじゃない。細かい理屈なんてないのよ。それに雪街ってあなたの上司、いいこと言ったと思ったからさ」
「いいこと、ですか」
「若いうちは、もっと青春しな。戦いだのなんだの、そんなのは大人の仕事だって。安全なところから見物するくらいが、ちょうどいいわよ」
このあたりは、さすがに年長の貫禄といったところか。崇城はそれ以上の論を交わそうとはしなかった。
「わかりました。でも絶対に安全なんてものは、この世にあり得ないんですから。深見くんに何かあっても、私の責任じゃないですからね」
「ん、了解。それで、どんなゲームにしたいの?」
そう聞かれた途端、崇城はモジモジしはじめる。
「や、やっぱり可愛いのがいいです。可愛い猫とひたすらまったりできるようなのが」
「っていうと育成系かな。わかる?」
「わからないです」
「なるほど、本当に初心者なんだね。……よし、ちょっと思いついた。お望みどおり、一ヶ月もあれば完成させるよ」
沙羅は仕事部屋に引っ込んでいった。こうなったら夕食まで出てこないだろう。
「あれだけの注文で、本当にゲームが作れるの?」
「自慢じゃないけど、姉さんは優秀なクリエイターだよ。そして姉さんのおかげで僕は毎日不自由なく生活させてもらってる。好きなことでお金を稼いで家族を養う――すごいことだよね、よく考えたら。僕もいつかは独立して、そうならなきゃいけないんだけど。崇城さんは……もう独立しているわけだよね」
「そうね。父も母も別の土地で任務に当たってる。重要な用事でもないかぎり連絡を取り合うこともないし」
「じゃあ、家族で団欒したりは……」
「ここ数年、記憶にないわ」
「あ、でも同僚と一緒に遊びに行ったりするよね?」
「……そういうのもないわよ」
「ええ?」
「なによ」
「IMPOに友達はいないの? みんな仕事仲間っていうだけで」
「しょ、しょうがないでしょ! 私はメルティ監視の任務を受けるまで、本部のあるヨーロッパにいたの! こっちには同年代の子がまるでいないし。……向こうにはそこそこいたんだからね? 友達って呼べる程度に仲のいい子は」
ぷいっ、と顔を背ける崇城。
日本の高校に潜り込んだメルティを監視させるには、同じ日本人の年頃の少女――つまり崇城が最適だった。その人選には雪街も大きく関わったはずだ。結果として崇城は両親とも親しい友人とも別れ、不慣れな土地での生活を余儀なくされた。
彼女は決して口には出さないだろうが――孤独を抱えている。
雪街はそれを理解して、あのような提案をしたのではないか。
「学校のみんなとは、友達になろうとは思わない?」
「任務が終われば、もう二度と会うこともない人たちよ」
「二度と会わない……か。でもそれは関係ないんじゃないかな」
「どうしてよ」
「僕も転校する前の友達とは、たぶん二度と会う機会はないと思う。だけど、友達でなくなることはないよ。ずっと心の中に思い出がある」
「……」
「今のクラスメイトとは、卒業までせいぜい一年半の付き合いになるかな。でもこの短い間で、できるだけ仲良くなりたい。そして一生の友達といえる人を作ろうと思ってるんだ」
「そう。せいぜい頑張ればいいじゃない」
しばらくはこんな風に、素っ気ない態度だろう。
急がず焦らず……でいければいいが、巧遅は拙速にしかずという言葉もある。所詮自分は平凡で、完璧とはほど遠い男子高校生。当面はスピード重視で攻めるべきだ。
「友達だけじゃなくて、恋人も作りたいんだけどね」
「ま、またそんなこと言って……!」
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