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【2】

「お、崇城さん?」
「心配したよ! もういいの?」
「ええ……」
 およそ一週間ぶりに姿を見せた委員長に、クラスメイトたちは揃って笑顔を作った。一足早く登校し席に着いていた零次も、彼女が隣に座るのを満面の笑みで迎える。
「おはよ、崇城さん」
「ふん」
 顔を背けられてしまった。しかしこんなにもいい気分になれたのは久しぶりだった。
 ――崇城朱美とコンビを組みたい。その申し出は意外なことに、あっさりと雪街から承諾された。もちろん崇城本人は大反対で、烈火のごとく怒っていた。
「ふざけたこと言わないで! わけわからないわ!」
「僕も君と一緒に戦いたいんだ。先生は僕を戦場に連れて行って見物させるつもりだけど、何もしないで見ているっていうのもなんだし」
「なーるほどね。動機はなんであれ、零次が魔法バトルにもっと深く関わりたいっていうなら、私は歓迎だよ!」
「だ、だいたい戦うってどうするつもり? この前だって、うろちょろするしかできなかったくせに」
「それはこれから考えるよ」
「話にならないわ」
「っていうかさ、崇城さんも一緒に考えてほしいんだ。僕を、エターナルガードの防御力を利用してやるくらいの気持ちでさ」
「面白いことを言うなあ、坊主。俺も賛成したくなったぞ」
 一本杉がニヤニヤしながら後押しする。崇城は助けを求めるように雪街を見た……。
「ふむ、捨て置くには惜しい提案だな」
「神楽さんまで……! 強力なマジックアイテムを持っているとはいえ、彼はド素人ですよ?」
「私も以前なら、戯れ言だと一蹴したのだろうがな。効率よく犯罪者を制圧できれば、それに勝ることはない」
 個人としての思惑はどうあれ、雪街は組織の幹部として判断しているらしかった。深見零次には使い道があるかもしれぬと。
「朱美、お前に新たな指令を与える。深見零次と協力し、エターナルガードの使い道を研究するのだ。明日からはまた学校に行って、ともに時間を過ごせ」
「そんな……」
「それに朱美、お前はまだ若い。その歳で修行ばかりの生活を送るというのは、いささか問題だと思っていたところだ」
「……神楽さんだって、そうだったんでしょう? だからこそ、かつては若手で一番と言われるほど強くなって、こうして日本支部を任されるようになって」
「ああ。だがな、犠牲にしてきたものがある。青春というやつだ」
 崇城にとって、その単語はあまりに予想外だったらしい。口元が硬直して、二の句が継げないでいた。
「IMPOの戦士として生きるなら、人並みの日常を送ることは諦めろ……ずっとそう言われていたが、私は疑問に思っている。両立できるなら、それに越したことはあるまい。魔法使い以前の人間形成に大きな影響を及ぼすことも考えられる」
「いいこと言うね、神楽。戦うことしか知らない人生なんて、つまらないものさ! もっと私を見習うといい!」
「いや、先生は見習っちゃダメでしょ!」
 唇を噛みしめて、崇城は上司を見返す。答えがわかっているだろうに、問いを投げかける。
「命令、なんですか」
「命令だ。私のようなつまらない人間にならないために、必要なことだ」
 ――そうして崇城は、再び学校という日常に溶け込むことになった。
 しばらく彼女との関係はギクシャクするだろう。しかし零次にとって理想の展開。何事も言ってみるものだと自画自賛したくなる。
 ホームルーム開始のチャイムが鳴り響き、メルティが勢いよく入ってきた。
「やー、いいんちょ久しぶりだね! しばらく会えなくて寂しかったぞ!」
「……どうしてああも白々しいことを、平然と言えるわけ?」
「まあまあ」
 零次はやっといつもの、自分の学校生活が戻ってきたという感じがした。きつい顔をしていても彼女の横顔は美しいし、何よりその制服姿は、他の誰よりも素敵だった。
 先生がどんな策を弄しようとも、僕が好きなのは崇城さんだ。そのことにずっと変わりはない――。
「ところで、そろそろ文化祭の出し物を決めなくちゃいけないね。放課後に提案してもらうから、みんな考えておいて!」
「へえ、文化祭か。御笠くん、いつやるの?」
「十一月の中旬だよ。あと二ヶ月くらいだな」
 転校前の学校でも同じ時期にあった。文化とはいうものの、喫茶店だのおばけ屋敷だの縁日じみた金魚すくいだの、お遊戯の範疇を出ない出し物ばかりだが、細かいことはどうでもいい。
 みんなで協力して、ひとつのイベントを成功させる。その過程こそが大事なのだ。
「崇城さんはどんな出し物がいい?」
「なんだっていいわよ」
 ぷくっと膨れっ面で言うのが、また可愛かった。