【学園魔法ラノベ】オンリー☆ローリー!

オンリー☆ローリー!〈1〉 Vol.26

2013/12/26 21:00 投稿

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     ***

 その後の五時限目、六時限目をゆるやかに過ごし、週明け初日の授業は終了した。
 またメルティが何か話しかけてくるかと思いきや、ホームルームが終わると零次には目もくれず教室を出て行った。同好会の顧問をいくつもかけもちしているメルティは、放課後もそれなりに忙しい。例の計画が始まったからといって、日常は放棄しない。零次にばかり構っているわけにはいかないのだろう。
 ホッと息をついたのを見て、副委員長の佐伯が聞いてくる。
「どうかしたのかい?」
「あいや、平穏だなあって」
 なんだかんだで、劇的に生活が変わったわけではないことに安堵していた。普通に授業を受けて、休み時間を過ごして、食事して、こうして平和そのものの放課後を迎えているのである。
「メルティちゃんのおかげだよ、きっと」
「そのとおり! あの人が担任になってから、ブルーマンデーなんて縁がないぜ」
 御笠も口を挟んでくる。どこまでもメルティをありがたがり、そして何も知らない彼らを、少しうらやましく思った。
 崇城が帰り支度を終えて席を立つ。
「そういや崇城さんって帰宅部だっけ? メルティちゃんが同好会のメンバーを欲しがってたけど、入ってみたらどう?」
「そうだぜ。青春を謳歌しようぜ」
「佐伯くんも御笠くんも、私のことは気にしないで」
 崇城は颯爽と教室を出て行く。
「深見くんも、まだ部活決めてないんじゃ? どうするんだい」
「えっと……僕も帰宅部のつもりなんだ」
「美術部はいいぞ」
「……それじゃ、また明日」
 振り切って、零次は崇城の後を追った。
 彼がついてくることに、崇城は特に拒否反応は示していない。もっとも世間話を振ることもなく、静かに静かに歩くだけ。
 どこの部にも同好会にも入らず帰宅部と決めたのは、同じく帰宅部で家の近い、このクラス一の美少女とお近づきになりたかったからだ。この機会をできるだけ活用しなければ。結界を張るなどという便利なことはできないので、周りに誰もいなくなるタイミングを見計らい、零次は心持ち小声で話しかけた。
「先生を監視するのは、学校にいる間だけなんだ?」
「放課後以降は、監視してもしなくてもいいと言われているの。上も私の時間を長く奪うようなことは避けたいみたいね。私としても、あんまりあの女に張りついているのは疲れるし」
「じゃあ……学校が終わったら何を?」
「だいたいは訓練の時間に充てているわ。もっと強くならなきゃ」
「警部補ってランクなんだっけ。本物の警察に倣ってるんだ。一番上が警視総監だったりするの?」
「ええ、雲の上の存在ね。私はどこまで強くなれ……」
 崇城はハッとした顔になる。
「こんなことを深見くんと語らって、どうしようっていうの私は。あの魔女のせいで、調子が狂ってるのかしら」
「なんというか……苦労してるよね崇城さん。精神的に」
「放っておいてよ」
「ごめん」
「今、少し口を滑らせちゃったけど、私からはIMPOのこととか……魔法使いの世界のことを教えようって気はないからね。だからそっちから聞こうともしないで。メルティがあなたを巻き込んで娯楽に興じるってこと、まだ納得してるわけじゃないのよ」
「うん、わかってる。あっさり納得した姉さんみたいのが、特殊だと思う」
「メルティを通じて知り得たこと、闇雲にお姉さんに打ち明けたりしないでね」
「……了解」
 零次は少し空しかった。もうちょっと実のある、学生らしい会話がしたい。共通の話題がメルティと魔法のことしかないのはどうにも悲しい……。
「そうだ、猫」
「は?」
 崇城が猫好きなことを思い出した。零次の思考回路は高速稼働し、最適なコンテンツを導き出す。
「ネットの動画ってよく見る?」
「……インターネットはニュースを見る程度にしか使わないけど」
「それはもったいない!」
 零次は道端に立ち止まると、携帯を操作して動画共有サイトにアクセスする。
「ほら、これ」
「……?」
 画面を見せる。猫が土鍋に入って丸まっている様子が映し出されていた。数年前にネット上で一大ブームになり、全国の猫好きのハートを鷲掴みにした動画だ。
「な……」
「どう?」
「な、な、なにこれえ。可愛すぎる……」
 崇城は頬を紅潮させ、食い入るように携帯画面を覗き込む。顔がやたらと接近し、髪の毛の微かにいい香りが漂ってきて、零次はドギマギした。
 十秒ばかりそうしていたが、崇城は我に返ったように零次から離れた。咳払いをして、今のは忘れろと言いたげに厳しい顔つきを向ける。
「そ、そういう可愛い動画が……ネットにはたくさんあるのね」
「パソコンがあるなら、それで見たほうがいいよ」
「……ちょっと急ぎの用を思い出したからお先に」
「一刻も早く帰って見たいんだ?」
「ち、違うわよ! 訓練に決まってるでしょ」
 崇城は競歩の選手かと思うくらい、早足で帰っていく。微笑ましい以外の何ものでもなかった。
 幸せな気分で帰宅すると、姉がずいぶんな上機嫌で出迎えた。
「今日は何かあった?」
「いやあ、はは、崇城さんと近づくには猫が効果的と判明したよ」
「んーなことに興味はない! メルティ先生に何かしてもらったかって聞いてんの」
「……教えないよ」
 崇城との約束をいきなり破るわけにもいかないので、頑として拒否する。ただでさえ今日は、トンデモマジックアイテムを体に埋め込まれた。それもふたつも。とても告白できはしない。
「姉さんは僕を応援だけするって言ってなかった? 魔法のことを知ろうとするのは余計だよ」
「いいじゃん、少しくらい」
「ダメったらダメだよ。先生が相手にしているのは僕だけなんだから。ペラペラしゃべるなって言われてるんだ」
 適当な嘘を織り交ぜて、どうにか追及を逃れた。
 テレビをつけ、夕食の支度をする。賑やかな音声を聞き、忙しなく手先を動かす。その間もメルティのことが、崇城のことが、魔法のことが、頭から離れることはなかった。
 望んで知ったわけではない非日常の世界。
 でも、先生が刺激を与えてくれるというなら、できるだけ楽しもう。そして崇城さんにもっと近づこう……零次は前向きな気持ちを忘れまいと思った。

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