異常なほど大量の食べ物を食べ、それを自分で吐き出してしまう摂食障害、過食嘔吐。
食欲がコントロールできないだけと思われがちですが、実は過食嘔吐の背景には心の傷を抱える人が多いんです。
過食嘔吐を克服し3年が経った今でも、たまに過食衝動におそわれます。
私が過食嘔吐をしていた話
私が過食嘔吐を覚えたのは、高校生の頃です。
全寮制の高校だったので、親元を離れての共同生活でした。
そこで私を待っていたのは、「独りぼっち」。
入学早々恋愛関係のもつれで、女子から無視されてしまったんです。
全寮制だったので、朝昼晩寮の食堂で食事をとらなければならなかったのですが、もちろん一緒に食べてくれる友達がいません。
私はいつも食堂から持ち帰ったパンやおにぎりを、寮の部屋で1人で食べていました。
ひとりでさみしく食事をとっていくうちに、食べる量はどんどんエスカレート。
女子から無視され、高校での居場所がなくなった私の唯一のストレス発散が、食べることだったんです。
1回の食事で大盛り焼きそば、おにぎり3個、パン4つ、カップラーメン、ポテチ、チョコ2袋、くらいは当たり前。
半年経つ頃には、スーパーで買い込んだ5,000円分の食べ物を、たった1日で完食していました。
授業中も部活中も、頭の中は食べ物のことばかり。お腹いっぱいで苦しくても、食べたくなくてもひたすら食べ物を口に運ぶ。食べてる最中だけは、友達がいないさみしさを紛らわせられる。
今思えばこの頃の私は過食症におちいっていたんです。
過食から過食嘔吐へ
半年間毎日とんでもない量を食べていたら、太らないわけがありません。
気がつくとたった半年で、私は6kgも体重が増えていました。
制服が入らなくなり、さすがに焦りを覚え始めた頃に、ネットで「過食嘔吐」について知りました。
それまで摂食障害という言葉も知らず、ましてや自分が過食症になっているとも思っていなかったのですが……
過食症の症状があまりにも自分と当てはまり、過食症患者が太っていく焦りから過食嘔吐を始めてしまうことも知りました。
このとき私の頭をよぎったのは
「なんだ、吐けばいいんだ」。
今思うと浅はかなのですが、もうこの頃には食欲のコントロールが全くできず、健康的なダイエットなど選択肢に入っていませんでした。
その後ネットで吐きやすくなる方法をたくさん調べました。
食べる順序や吐きやすい食べ物、指を何本つっこめばいいか、吐きやすい角度はどれくらいか……
吐くのは苦しくてつらかったのですが、吐いた後は体重が元通りになるので、私はすぐに過食嘔吐を繰り返すようになりました。
たくさん食べても大丈夫なんだ。
嘔吐によって、救われた気持ちになっていました。
吐くために食べるように
嘔吐を覚えてからの私は、さらに食べる量が増えました。
私は大体吐くのに20分程度かかっていたので、時間がない朝と昼は吐くのを我慢しました。
そのかわり学校が終わって寮に戻ると、まっさきに楽なスウェットに着替え、目の前に大量の食べ物を広げむさぼるように食べました。
味わうこともなくただ機械的に口に食べ物を運び、コーラをがぶ飲み。
10分ほど待って胃を落ち着かせてからトイレにかけこみ、胃液が出るまで吐き続けました。
胃がからっぽになってすっきりしたら、また部屋で食べ始め、お腹いっぱいになったらまた吐く。
食べては吐く、の繰り返し。
おもちなどのモチモチした食べ物は吐きにくい、辛い食べ物は吐いたときにのどが痛くなるからさける、ごはんは納豆と一緒に食べると吐きやすい……
この頃にはもう、吐くために食べるようになっていました。
高校入学から1年が経つ頃には女子との関係もふつうに戻り、友達もたくさんできていました。
ですが過食嘔吐は完全に癖になり、自分では止めることができなくなっていたんです。
3年間続いた過食嘔吐
結局高校3年間、私はずっと過食嘔吐を繰り返していました。
痩せるために嘔吐をしていたはずなのに、私はなぜかどんどん体重が増えていっていました。
おそらく10人前近く食べても、完全に嘔吐できたのは8人前くらいだったんだと思います。
2人前の食べ物は胃に残るからその分体重は増える。
結局高校を卒業する頃には、10kg近く体重が増えていたと思います。
怖くて体重計に乗っていなかったので、正確な数値はわからないのですが……
また、高校生の間生理は1度もきませんでした。手の甲は吐きダコで汚なく、顔は常にむくんでいました。
1時間で2万近くするカウンセリングを受けたり、自分なりに食事制限をしてみようとしましたが、どれも過食嘔吐の衝動をおさえることはできませんでした。
過食嘔吐からの解放
高校の3年間続いた過食嘔吐ですが、終わりは案外あっさり来ました。
単純に過食嘔吐する暇がなくなったんです。
大学生になっても最初の頃は過食嘔吐をしていました。
ですが授業、サークル、バイト、慣れない1人暮らしと、高校の時とは比べものにならないくらい忙しくなったんです。
目まぐるしい大学生活の中で、過食嘔吐する頻度は圧倒的に減っていきました。
また、忙しい日々の中で、自分の体型や体重に対するこだわりが薄れていったことも要因のひとつ。
自分の体型を気にするよりも先に、やらなきゃいけないことがたくさんあったんです。
だからちょっと高カロリーなものを食べても「まあいいや」と自分を許せるように。
大学に入って1年が経つ頃には、過食嘔吐はほとんどしなくなっていたと思います。
現在大学4年生。過食嘔吐をやめてから3年が経ちます。
過食嘔吐をやめたからといって痩せたわけではないし、今でも自分の体型は気になります。
ストレスがたまるとどうしてもたくさん食べたくなってしまうし、たまに吐いてしまうことがあるのですが……
生理はちゃんと来ているし、適切な量の食事を楽しめる時もある。
少しずつ、「吐くために食べる」のではなく「生きるために食べる」ことができるようになっている気がします。
過食嘔吐を責める必要はない
私は高校の同級生から無視されたことがきっかけでしたが、過食嘔吐になるきっかけは人それぞれ。
ただ共通するのは、心にひびが入ってしまったということ。
そしてそのひびを修復するため、なんとかごまかすため、見えないふりをするために、過食嘔吐という手段を選んでしまっただけなんです。
私は過食嘔吐していた過去を後悔していません。
高校生活の有限な時間をむだにしてしまったし、お金もかかったし、体重も増えてしまった……
一時期は「どうして過食嘔吐なんて始めちゃったんだろう」とものすごい自己嫌悪に苦しみました。
それでも過食嘔吐をしていなかったら、私の心はつらい現実に耐えられず、壊れてしまっていたかもしれません。
当時の私にとって、過食嘔吐が唯一の「心を守る術」だったんです。
そうやって自分を許せるようになってから、いっきに心が軽くなりました。
自分を許すことが、治療の第一歩
きっと過食嘔吐をする人は、それが唯一の自己防衛だから。
でもいつしか過食嘔吐は、精神的にも肉体的にも自分の負担になってきてしまいます。
そうなった時に、過食嘔吐する自分を責めたり後悔するのではなく、過食嘔吐をするようになったきっかけを考えてみては。
つらいプロセスだし、もしかしたら専門家の助けが必要かもしれません。
でも過食嘔吐のきっかけを探り出し、「私は過食嘔吐することで、なんとか自分の心を守ってこれたんだ」と思えるようになれば、心が軽くなるはず。
過食嘔吐する自分を許すことが、治療の第一歩になるんです。
「自分を許す」からといって、過食嘔吐をやめる必要はありません。
無理にやめようしてもなかなか難しいのは、私がよくわかります。
ただ、過食嘔吐する自分を許せるようになると、ちょっとしたきっかけが治癒につながる可能性が高くなると思います。
私の場合は忙しくなったことが克服のきっかけでした。彼氏ができたことや、料理の楽しさに目覚めたことがきっかけで過食嘔吐を克服した人もいます。
治るきっかけは人それぞれ。焦って過食嘔吐を治そうとする必要はないと思います。
治そうとすればするほど過食衝動は強くなってしまうし、治せない自分をどんどん嫌いになってしまうからです。
もちろん命の危険があるので、早く治療するにこしたことはないのですが……。
ですが1度きりの人生、どうせなら楽しく過ごしたいもの。
過食嘔吐も含めて自分を愛してあげて、過食嘔吐とうまく付き合いながら生きていくのだってありだと思います。
「今日もたくさん食べて吐いちゃった。まあいいや、その代わりにお気に入りの入浴剤で半身浴するぞ! 」
そんな心がまえでハッピーに過ごしているうちに、気づいたらいつのまにか過食嘔吐をしなくなっていた、なんてことがあるかもしれません。
written by 町田真琴
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