完勝の前田が決勝卓一番乗り

 12月12日、ついに最強戦ファイナルの日を迎えた。ニコ生の配信は11時からだが、その準備のため朝早くから出演者や選手たちが会場入りしていた。A卓で打つ選手たちは、自分たちの対局が最初なので、対局開始までの間に前の対局を見ることがない。他の出演者と雑談したりして過ごすだけだ。この独特の、そして異様な雰囲気を楽しめる人はまずいない。「早く麻雀打ちたい」と対局者は皆そう思っていたに違いない。
 そんな複雑な気分から解放され、スタートしたA卓には猿川真寿・石井あや・前田直哉・押川雲太朗が座った。
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「前の日に酒を飲んでいい結果が出た試しがないので」と、前日のお酒を断って対局に臨んだ前田が抜群のスタートを決めた。
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 子で2局続けてアガリを決め、迎えた東3局の親。猿川がドラのpai_s_nan.jpgトイツのホンイツ、押川のリーチを受けながら前田もリーチ。

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 この手を一発で猿川から討ち取り7700。前田が1人抜け出したトップ目に立つ。
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 だが、半荘1回でトップのみが勝ち上がる最強戦では、2万5千点程度のリードは決してセーフティではない。このシステムは一般の麻雀やプロのリーグ戦と違い、局が進むにつれ戦闘不能に陥る打ち手が生まれるところに特徴がある。戦いに参加できる打ち手が1人減り、2人減り…。最終的にはトップめと、2着めもしくはラス親との一騎打ちとなることが多いのだ。だからどんなにリードが大きくても安心できない。だが、なぜか全員に手が入らないままラス前まできてしまった。ただ、ラス前に押川が次の手をアガって状況が変わった。
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押川のアガリ
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 このアガリでラス親の押川が親満ツモで逆転トップの圏内にきた。だが、粘りもここまで。オーラスは前田がアガって決勝卓最初の椅子をつかみ取った(A卓詳細レポートはこちら)。



 B卓は木原浩一・鈴木たろう・和泉由希子・瀬戸熊直樹という全員プロの組み合わせとなった。
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 とりわけ、注目を浴びたのが鈴木たろうだ。サイバーエージェントカップで鈴木達也に敗れたものの、その達也が近代麻雀プレミアリーグ後期でも優勝し、規定により最強戦ファイナルの出場権はサイバーエージェントカップ2位のたろうに渡った(サイバーエージェントカップについてはこちら)。
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 しかも、たろうは直前にマカオで開催された世界麻雀大会で準優勝し、「乗っている」という雰囲気が漂っていた。
 だが、このB卓で先行したのは和泉だった。
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 東2局で満貫、さらにトップ目で迎えた南1局1本場では親で粘る木原からリーチ・一発・pai_s_sha.jpgの6400を決め、リードを広げた。
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 だが、その和泉をたろうの一発が襲う。
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南2局 東家・たろうのアガリ
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 親のたろうのタブリーに対し、安全牌のない和泉がpai_s_sha.jpgを捨てただけ。それが親倍の放銃になってしまう。まさに「一寸先は闇」、積み上げてきたリードが一瞬にして崩壊した。このアガリでトップ目に立ったたろうはオーラス、ラス親の瀬戸熊との一騎打ちとなった。

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 お互い最強戦ファイナルには5年連続の出場。特に、「今年こそ」を思いを強く持っていた瀬戸熊は和泉の先行にもたろうの一撃にも動じず、じっと好機を伺っていた。

 南4局1本場。お互いアガリトップの局面で、先にpai_s_4m.jpgpai_s_7m.jpg待ちでたろうがリーチ。これに瀬戸熊が追いついた。

東家・瀬戸熊の手牌
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 たろうの待ちpai_s_4m.jpgを暗刻にしているので枚数的には五分。アガリ牌を引けないまま9巡が経過。瀬戸熊がpai_s_4m.jpgを引いたが、これは暗槓で放銃回避。

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 だが、次巡瀬戸熊が掴んだのはpai_s_7m.jpgだった。これでB卓の勝ち上がりがたろうに決まった。
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(B卓詳細レポートはこちら



最強位藤田、D卓で惜敗

 C卓は魚谷侑末・近藤誠一・江崎文郎・片山まさゆきの組み合わせで始まった。
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 重たい場が多い中、リーチ・ツモ・pai_s_ton.jpg・ドラ1をアガった魚谷がトップ目で東場を折り返す。
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 日本一勝ちたがりの女流プロ・魚谷は、一昨年ファイナル決勝卓で惜敗した悔しさを何が何でも晴らしたい。だが南3局、そんな魚谷の思いを、「勝つ気しかしない」最高位・近藤が打ち砕く。

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南3局 北家・近藤のアガリ
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 2つのカンで3フーロしている近藤がこの局の主導権を握っているのは明白。これに飛び込んだのがトップ目の魚谷だった。魚谷の手はドラがあったとはいえイーシャンテン。この放銃に首をかしげた人もいるだろう。だが、これは近藤がいち早くトイツ手に決め打ったことが生んだ副作用だった。近藤は3巡目にpai_s_6m.jpgのトイツがありながらpai_s_5m.jpgを捨て、そこからトイトイ仕掛けに出た。

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 これが魚谷のミスリードを誘発。いわゆる「5の早切り」で、69はシュンツ受けには危険だが、シャンポンは考えづらい。近藤の手がトイトイと読み、pai_s_6m.jpg受けの可能性が薄いと読めるからこそ、逆にハマってしまったのである。

 この放銃で全員にトップの可能性のあるオーラスに突入。ここで6400逆転条件の魚谷が4巡目にチートイツドラ2のテンパイを入れた。
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 絶テンの単騎待ちを模索し、その牌を着実に選び続けた魚谷の勝利は濃厚かに思えた。が、その絵が合うことはなく流局。この局、いち早く撤収を決めた近藤が次局のチャンスを生かし、4つ巴の争いを制して決勝卓の切符をもぎ取った。
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(C卓詳細レポートはこちら



 そしてD卓。柴田吉和・鈴木達也・藤田晋・高橋凌の並びで開始した。
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 まず、飛び出したのが現最強位の藤田である。
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 高橋の満貫ツモを自身の親番で4000オールを決めて差し返す。さらに着実にアガリを重ねリードを広げ、そのまま南3局の親まで4万点台を維持。今年も本番1週間前に3日間の麻雀合宿を行い、トップ取り麻雀をひたすら打ち続けた。その成果が顕れたかのような展開である。最後の親を大過なく流し、あとはラス親・高橋を封じ込めればいい、という状況。

 だが、そこへ役満十段・柴田が一撃を決めた。
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南3局 西家・柴田のアガリ
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 トップめ藤田の親っかぶりを狙ったフリテンリーチが見事に成就(下段記事参照)。これでトップ目に立った柴田は、藤田やラス親高橋の猛攻を交わし、決勝卓に進む。アマチュア最強位・高橋の決勝卓への夢は、さらに藤田最強位の連覇はここで潰えた。

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(D卓詳細レポートはこちら



史上最もハイレベルな決勝卓

 決勝戦はたろう・前田・柴田・近藤の並びでスタート。
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 鳳凰位・十段位・最高位、そして元最強位の4人が揃うという最強戦史上最もハイレベルな組み合わせとなった。先行したのが前田。たろうのピンズ一色の仕掛け、さらに近藤のpai_s_nan.jpg単騎リーチを受けながら、次のテンパイを入れる。

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東2局 東家 前田
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 リーチの近藤に無スジのpai_s_2m.jpgを静かに通し、ヤミテン。一発勝負の対局で、この手なら6000オールを狙って追っかけたい気持ちは当然あるはず。だが、前田はヤミに構えた。

前田「先手なら6千オール狙いのリーチをかけるつもりでした。しかし、後手を踏んだうえにpai_s_4m.jpgは山に薄そう。さらにたろうプロが近藤プロのリーチ一発めに躊躇いながら捨てたので、たろうプロの手は打点が安いか愚形かと思いました。pai_s_4m.jpgが出る可能性を下げたくないのでここはヤミテンに構えました」

 この選択がズバリ当たった。直後、柴田がpai_s_4m.jpgを抜き前田の親満のアガリとなった。
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 これで先行した前田。その雀風は守りを固めつつ一撃を狙うスタイルだ。だからこそ前田にこれ以上加点させてはいけない。相手3人は絶えず攻め続け、前田を前に出させないことだ。東3局は近藤、東ラスはたろうがツモアガリを決め、少しずつ前田の点数が削られた。

 南1局では前田以外の3人がぶつかった。親のたろうがタンヤオのカンpai_s_6m.jpg待ちリーチ。これに近藤、柴田が追いついて3人リーチとなる。勝ったのは近藤だった。
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南1局 北家 近藤のアガリ
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 これで前田・近藤の一騎打ちの様相を呈してきた。だが、このアガリで追いついたラス親・近藤の勝利を信じたファンも多かったに違いない。初期の最強戦の顔だった飯田正人プロが亡くなって以降、近藤は麻雀のスタイルを変えた。麻雀の理の部分を封印し、飯田プロの「感性の麻雀」を磨いたのである。今年はそれが一気に本格化し、誰に聞いても「今の近藤さんは手がつけられない」という言葉が返ってくる。それほど今の近藤は乗っているのである。

 だが、前田もこのアガリで火がついたのか、親で連荘を重ね、再びミサイルをぶっ放した。
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南2局1本場 東家・前田
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 並びかけてきた近藤を一気に突き放す6000オール。前田が一気に最強位に近づいた。そしてオーラス。近藤の逆転条件は親ハネツモか前田からの満貫直撃である。

 先にテンパイを入れたのは前田だった。が、役なしの愚形。
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南4局2本場 西家 前田
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 近藤の満直条件があるのでリーチは避けたい。テンパイ取らずの選択もあるかと思われたが、前田はpai_s_8s.jpgを横に曲げ、千点棒を卓上に放った。

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前田「こういう状況の捨て牌読みは当てになりませんが、役満狙いの2人が国士模様だったので、pai_s_7p.jpgは山か近藤プロだと思い、その近藤プロからの出を逃したくないの。ドラのpai_s_nan.jpgも2枚出なので、ここは勝負のリーチをかけました」

 この瞬間、満貫イーシャンテンの近藤は両手首をそれぞれ反対の腕でこするような動作を繰り返していた。いよいよ決着の時か。そんな気持ちで武者震いしていたのだろうか。

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 だが、近藤の手がテンパイする前に前田がpai_s_7p.jpgを引き寄せ、新最強位の誕生となった。

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前田「まずはホッとしました。タイトルを獲った時はいつもそうですけど、喜びよりもホッとします。今回の最強戦は応援してくれる人達の為に戦うと決めていたので、その思いに応えられたことが嬉しかったです」
 普段は会社員勤めをしながら、数少ない休日をプロ連盟の原稿執筆や配信の解説に充てているという前田。最強戦の賞金は、趣味の料理のために高級食材を購入したいと語った。それを食べたとき、はじめて最強位の実感が湧くのかもしれない。

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(決勝卓詳細レポートはこちら



すげえ一打 十段位・柴田吉和プロ

トップまで17800点差のラス前。親のない柴田は1巡目にpai_s_1m.jpgを暗槓。ドラ受けのできるpai_s_8p.jpgをツモったがすでにpai_s_9p.jpgを捨てている。さてどう打つ?

南3局 西家・柴田 7巡目 26100点持ち
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柴田、打pai_s_4s.jpg

 直前に打pai_s_9p.jpgでカンチャンターツを払ったが、すぐに裏目のpai_s_8p.jpgツモ。ここで柴田はフリテン受けになるピンズを残し、pai_s_2s.jpgpai_s_5s.jpg受けのターツを払っていく。ドラが必要な状況であるのは明らかだが、どういう思考でこの決断に至ったのだろうか?

前田「1巡目のpai_s_1m.jpg暗槓で新ドラが乗らなかったため、リーチツモのアガリを強く意識した手組みをしました。また、あの点数状況では、ツモか藤田さん直撃以外のアガリは全く頭にありません。先にpai_s_9p.jpgを捨てたのは678の三色+ドラ引きの可能性を考えたからです。そこからのpai_s_8p.jpgツモですが、pai_s_7p.jpgpai_s_8p.jpgはドラ受けになるので選択肢になく、三色を意識すればpai_s_4s.jpgpai_s_3s.jpg落としです。打pai_s_4s.jpg以降もオリないので『先にpai_s_8m.jpgを引いて三色めができないかな』と考えていましたね」

想定していた理想形

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 この一打のポイントは点数が必要な状況であり、脇からの出に価値がないということ。だからこそフリテンになる可能性があってもドラ受けを残すし、三色目の残るターツは捨てない。柴田にとって打pai_s_4s.jpgは自然な一打だったのだ。