「前の日に酒を飲んでいい結果が出た試しがないので」と、前日のお酒を断って対局に臨んだ前田が抜群のスタートを決めた。
子で2局続けてアガリを決め、迎えた東3局の親。猿川がドラのトイツのホンイツ、押川のリーチを受けながら前田もリーチ。
だが、半荘1回でトップのみが勝ち上がる最強戦では、2万5千点程度のリードは決してセーフティではない。このシステムは一般の麻雀やプロのリーグ戦と違い、局が進むにつれ戦闘不能に陥る打ち手が生まれるところに特徴がある。戦いに参加できる打ち手が1人減り、2人減り…。最終的にはトップめと、2着めもしくはラス親との一騎打ちとなることが多いのだ。だからどんなにリードが大きくても安心できない。だが、なぜか全員に手が入らないままラス前まできてしまった。ただ、ラス前に押川が次の手をアガって状況が変わった。
B卓は木原浩一・鈴木たろう・和泉由希子・瀬戸熊直樹という全員プロの組み合わせとなった。
とりわけ、注目を浴びたのが鈴木たろうだ。サイバーエージェントカップで鈴木達也に敗れたものの、その達也が近代麻雀プレミアリーグ後期でも優勝し、規定により最強戦ファイナルの出場権はサイバーエージェントカップ2位のたろうに渡った(サイバーエージェントカップについてはこちら)。
しかも、たろうは直前にマカオで開催された世界麻雀大会で準優勝し、「乗っている」という雰囲気が漂っていた。
東2局で満貫、さらにトップ目で迎えた南1局1本場では親で粘る木原からリーチ・一発・の6400を決め、リードを広げた。
だが、その和泉をたろうの一発が襲う。
親のたろうのタブリーに対し、安全牌のない和泉がを捨てただけ。それが親倍の放銃になってしまう。まさに「一寸先は闇」、積み上げてきたリードが一瞬にして崩壊した。このアガリでトップ目に立ったたろうはオーラス、ラス親の瀬戸熊との一騎打ちとなった。
お互い最強戦ファイナルには5年連続の出場。特に、「今年こそ」を思いを強く持っていた瀬戸熊は和泉の先行にもたろうの一撃にも動じず、じっと好機を伺っていた。
南4局1本場。お互いアガリトップの局面で、先に待ちでたろうがリーチ。これに瀬戸熊が追いついた。
だが、次巡瀬戸熊が掴んだのはだった。これでB卓の勝ち上がりがたろうに決まった。
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重たい場が多い中、リーチ・ツモ・・ドラ1をアガった魚谷がトップ目で東場を折り返す。
日本一勝ちたがりの女流プロ・魚谷は、一昨年ファイナル決勝卓で惜敗した悔しさを何が何でも晴らしたい。だが南3局、そんな魚谷の思いを、「勝つ気しかしない」最高位・近藤が打ち砕く。
南3局 北家・近藤のアガリ
2つのカンで3フーロしている近藤がこの局の主導権を握っているのは明白。これに飛び込んだのがトップ目の魚谷だった。魚谷の手はドラがあったとはいえイーシャンテン。この放銃に首をかしげた人もいるだろう。だが、これは近藤がいち早くトイツ手に決め打ったことが生んだ副作用だった。近藤は3巡目にのトイツがありながらを捨て、そこからトイトイ仕掛けに出た。
これが魚谷のミスリードを誘発。いわゆる「5の早切り」で、69はシュンツ受けには危険だが、シャンポンは考えづらい。近藤の手がトイトイと読み、受けの可能性が薄いと読めるからこそ、逆にハマってしまったのである。
この放銃で全員にトップの可能性のあるオーラスに突入。ここで6400逆転条件の魚谷が4巡目にチートイツドラ2のテンパイを入れた。
絶テンの単騎待ちを模索し、その牌を着実に選び続けた魚谷の勝利は濃厚かに思えた。が、その絵が合うことはなく流局。この局、いち早く撤収を決めた近藤が次局のチャンスを生かし、4つ巴の争いを制して決勝卓の切符をもぎ取った。
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そしてD卓。柴田吉和・鈴木達也・藤田晋・高橋凌の並びで開始した。
まず、飛び出したのが現最強位の藤田である。
高橋の満貫ツモを自身の親番で4000オールを決めて差し返す。さらに着実にアガリを重ねリードを広げ、そのまま南3局の親まで4万点台を維持。今年も本番1週間前に3日間の麻雀合宿を行い、トップ取り麻雀をひたすら打ち続けた。その成果が顕れたかのような展開である。最後の親を大過なく流し、あとはラス親・高橋を封じ込めればいい、という状況。
だが、そこへ役満十段・柴田が一撃を決めた。
トップめ藤田の親っかぶりを狙ったフリテンリーチが見事に成就(下段記事参照)。これでトップ目に立った柴田は、藤田やラス親高橋の猛攻を交わし、決勝卓に進む。アマチュア最強位・高橋の決勝卓への夢は、さらに藤田最強位の連覇はここで潰えた。
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鳳凰位・十段位・最高位、そして元最強位の4人が揃うという最強戦史上最もハイレベルな組み合わせとなった。先行したのが前田。たろうのピンズ一色の仕掛け、さらに近藤の単騎リーチを受けながら、次のテンパイを入れる。
リーチの近藤に無スジのを静かに通し、ヤミテン。一発勝負の対局で、この手なら6000オールを狙って追っかけたい気持ちは当然あるはず。だが、前田はヤミに構えた。
この選択がズバリ当たった。直後、柴田がを抜き前田の親満のアガリとなった。
これで先行した前田。その雀風は守りを固めつつ一撃を狙うスタイルだ。だからこそ前田にこれ以上加点させてはいけない。相手3人は絶えず攻め続け、前田を前に出させないことだ。東3局は近藤、東ラスはたろうがツモアガリを決め、少しずつ前田の点数が削られた。
これで前田・近藤の一騎打ちの様相を呈してきた。だが、このアガリで追いついたラス親・近藤の勝利を信じたファンも多かったに違いない。初期の最強戦の顔だった飯田正人プロが亡くなって以降、近藤は麻雀のスタイルを変えた。麻雀の理の部分を封印し、飯田プロの「感性の麻雀」を磨いたのである。今年はそれが一気に本格化し、誰に聞いても「今の近藤さんは手がつけられない」という言葉が返ってくる。それほど今の近藤は乗っているのである。
だが、前田もこのアガリで火がついたのか、親で連荘を重ね、再びミサイルをぶっ放した。
南2局1本場 東家・前田
並びかけてきた近藤を一気に突き放す6000オール。前田が一気に最強位に近づいた。そしてオーラス。近藤の逆転条件は親ハネツモか前田からの満貫直撃である。
前田「こういう状況の捨て牌読みは当てになりませんが、役満狙いの2人が国士模様だったので、は山か近藤プロだと思い、その近藤プロからの出を逃したくないの。ドラのも2枚出なので、ここは勝負のリーチをかけました」
だが、近藤の手がテンパイする前に前田がを引き寄せ、新最強位の誕生となった。
前田「まずはホッとしました。タイトルを獲った時はいつもそうですけど、喜びよりもホッとします。今回の最強戦は応援してくれる人達の為に戦うと決めていたので、その思いに応えられたことが嬉しかったです」
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直前に打でカンチャンターツを払ったが、すぐに裏目のツモ。ここで柴田はフリテン受けになるピンズを残し、受けのターツを払っていく。ドラが必要な状況であるのは明らかだが、どういう思考でこの決断に至ったのだろうか?
前田「1巡目の暗槓で新ドラが乗らなかったため、リーチツモのアガリを強く意識した手組みをしました。また、あの点数状況では、ツモか藤田さん直撃以外のアガリは全く頭にありません。先にを捨てたのは678の三色+ドラ引きの可能性を考えたからです。そこからのツモですが、はドラ受けになるので選択肢になく、三色を意識すれば落としです。打以降もオリないので『先にを引いて三色めができないかな』と考えていましたね」
想定していた理想形
ドラ 槓ドラ
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