・「歩いてきみははじまった」

 ヒトは歩きながら自分を作ってきた。種としてのヒトがそうだし、個人としてのぼくもそうだった。歩けば歩くほど、身も心も削れてくる。その削れた跡がヒトとぼくを造形し、ヒトもぼくも地球のさまざまな土地になじんできたのだと思う。ヒトがどうはじまったかはぼくは覚えていないがアフリカの熱帯雨林から草原への進出がその背後にあったとすれば、森の枝から手を放し草原に立ち上がったときヒトはヒトとなった。歩くという癖も、遠くを見る癖も、そのときついた。視覚も筋肉もそれで鍛えられた。そして莫大な情報を得るようになり地平線があればそれをめざすようになった。未来があれば歩いてゆくようになった。一緒に歩きませんか。

 

・時の幹、樹木』

 種子が発芽を決意する

 そのときからもう植物は移動しない

 いま決めたそのおなじひとつの地点で

 灰色の風が吹くときも

 まる