後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第10回:【政策】若者雇用戦略を総括する/第2回・若者雇用戦略を検証する
サマリー:
民主党政権下でとりまとめられた「若者雇用戦略」の総括シリーズ第2弾。今回は2012年6月12日に合意された「若者雇用戦略」に見られる視点を検証する。
若者雇用戦略総括シリーズ第2弾は、2012年6月12日に合意された「若者雇用戦略」を見ていこうと思うのですが…その前に、この「若者雇用戦略」をはじめとする、2010年代の若年雇用言説を基礎作った海老原嗣生のデータの扱いが、法政大学の上西充子によって批判されていますね。これについては一両日中に配信する「コミティア103」のサークルペーパーで詳しく述べようと思いますが、海老原の言説は、メディアが「ロスジェネ」的な言説に食傷気味であり、何らかのバックラッシュを求めていて、そこで海老原が魅力的に見えたからではないかという疑いを持っています。そもそも海老原における、若年労働言説を一概に「若者かわいそう論」として単純化した時点で今回のような結末に陥ったのは必然ではないかと思います…さすがにここまで酷くなるとは思いませんでしたけど。
話を戻します。今回採り上げる「若者雇用戦略」は、雇用戦略対話若者雇用第6回WGで合意されたものです(ちなみに私が登壇したのは第5回WGです)。
若者雇用戦略(リンク先PDF注意):http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/dai8/siryou1.pdf
ただ、この全部で15ページにわたる「戦略」、細部においてはそれなりにまともなものが見られるとしても、やはり全体としては「若者」を特別視し、若年雇用問題を「若者論」的な視点で解決していこうという視点や、あるいは特定の就業形態に対する徒な決めつけなどが目立つ内容となっています。例えば、「戦略」p.2及びp.11には「フリーター半減」という文字がありますが、そもそもフリーターは本当に「好ましくない」就業形態なのか、本当に好ましくないのだとしたらどう修正すべきなのか、そこを通り越して単純にフリーターを「好ましくない」ものと決めつけている感があります。
ちなみにフリーターの現時点での「好ましくない」点とは、責任の所在が曖昧であったり、あるいは収入や社会保障などに不安があったりすることだと思いますが、これらの点を修正しようとする気概は、この「戦略」には見られません。ただこれには感慨深いものがあり、例えば日本共産党などの一部の政党は「フリーターの正社員化」などを掲げていたりしますが、これについても同様で、徒にフリーターという存在そのものが「悪」と決めつけられて、内部で解決すべき問題が素通りされている。フリーターが悪いのではなく、収入が低いことや不安定が悪いということが、見過ごされているような気がします。
それから、この「戦略」には、不況の構造的な問題を若者に解決してもらおう、という視点が見え隠れします。p.13の「地域における起業等の推進」の、例えば就農の推進などもそうなのですが、《ベンチャーに挑戦する人材を鍛え》という物言いは特にそうで、若い世代が「挑戦」しないから地域の疲弊や新しい産業などが生まれないのだ、という認識が見え隠れします。
結局この「戦略」で無視されているのは、若年層の置かれている労働環境を直視しない、要するに景気とか賃金とか安定性とか社会保障とかについての問題点を素通りしたまま、若年層の心理の問題をあげつらうことに終始していること。そしてそのような認識は、「戦略」の最初のほう(p.2)、《対症療法から中長期戦略へ》という物言いがそれを象徴しています。起草者にとっては、景気とか労働環境の問題などは単なる「対症療法」であって、その根本を解決するような「中長期戦略」こそが必要だという認識なのでしょう(それこそ第5回でこのWGから駄々をこねて逃げた藤原和博みたいに)。
しかし、そのような「中長期戦略」という幻想を持ち続けて、基本的な解決策をないがしろにしてきたことこそ、若年雇用問題の無視できない問題点ではないのでしょうか。そしてそれは、昨今の若手論客の言うような、「僕たちは経済というものに縛られない新しい世代なんだ!」という通俗的な世代論ともつながります。すなわち、現代の若年層を論ずるときに、「経済」という問題が素通りされる構造が若者論には存在し、この「戦略」もまたそれを追従する形となっている。そしてこのような構造はここ10年くらいに突然降ってわいたものではなく、戦後の若者論の流れで蓄積されてきたものであることを忘れてはなりません。
この「戦略」で評価できる点があるとすれば、それは就業支援の拡充でしょう。しかし全体として、若年層を「問題」のある存在として決めつける一方で、若年層に構造的な問題の解決を引き受けさせようとする。このようなアンビバレントな態度が臆面もなく押し出されていることが問題だと思うのです。
(次回はブロマガ第14回に掲載予定。次回の内容はWG第1~3回の議事録の検証の予定です。)
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第11回:【思潮+政策】ロスジェネ系雇用規制緩和論者の俗流新自由主義を批判する(2013年2月15日掲載予定)
第12回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読むために(第2回)(2013年2月25日掲載予定)
第13回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(第2回)(2013年3月5日掲載予定)
【今後の掲載予定:書評(不定期配信)】
第1回:和久井みちる『生活保護とあたし』あけび書房、2012年12月
第2回:浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』講談社、2012年12月
第3回:山口智美ほか『社会運動の戸惑い』勁草書房、2012年10月
第4回:出井智将『派遣鳴動』日経BP社、2010年5月
【近況】
・「コミックマーケット83」新刊の『紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special』ですが、好評につき重版し、とらのあな・COMIC ZINに補充しました。また、電子版がメロンブックスDLにて販売中です。下記の告知ページをご覧下さい。
http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11422949903.html
・同じく「コミックマーケット83」新刊の『社会の見方、専門知の関わり方――俗論との対峙から考える』がCOMIC ZIN専売にて委託販売中です。
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=14728
・「コミックマーケット80」(2011年夏コミ)で出した『青少年言説Commenatries――後藤和智/後藤和智事務所OffLine発言集』を、ニセ科学関係、政策論関係を中心に再編集した普及版『青少年言説Commenatries Lite』がKindleストアで販売中です。筆者の2010年頃の思考の集大成となっています。是非ともお買い求め下さい。また、電子書籍の新シリーズとして、書き下ろしの「平成日本若者論史Plus」を始めます。第一弾として、『ロスジェネ・メディアの世代認識:『AERA』に見るロスジェネ世代の特別視と他世代への攻撃性に関する考察』の配信を開始しました。さらに、2月10日頃には、第2弾となる『「ニート」肯定言説の甘い罠』の刊行も予定しております。
Amazonの著者セントラルはこちらです。
http://www.amazon.co.jp/後藤-和智/e/B004LUVA6I
・なお、今後参加予定の同人誌即売会は、3月3日の「おでかけライブ in 山形109」、3月17日の「EVENT JACK 気仙沼」、3月24日の「杜の奇跡20」、4月28日の「超文学フリマ in ニコニコ超会議2」、5月26日の「第10回博麗神社例大祭」です(気仙沼以外は申し込み済みで当落待ち。気仙沼は申し込み予定)。
(2013年2月5日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第10回「【政策】若者雇用戦略を総括する/第2回・若者雇用戦略を総括する」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年2月5日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice
第10回:【政策】若者雇用戦略を総括する/第2回・若者雇用戦略を検証する
サマリー:
民主党政権下でとりまとめられた「若者雇用戦略」の総括シリーズ第2弾。今回は2012年6月12日に合意された「若者雇用戦略」に見られる視点を検証する。
若者雇用戦略総括シリーズ第2弾は、2012年6月12日に合意された「若者雇用戦略」を見ていこうと思うのですが…その前に、この「若者雇用戦略」をはじめとする、2010年代の若年雇用言説を基礎作った海老原嗣生のデータの扱いが、法政大学の上西充子によって批判されていますね。これについては一両日中に配信する「コミティア103」のサークルペーパーで詳しく述べようと思いますが、海老原の言説は、メディアが「ロスジェネ」的な言説に食傷気味であり、何らかのバックラッシュを求めていて、そこで海老原が魅力的に見えたからではないかという疑いを持っています。そもそも海老原における、若年労働言説を一概に「若者かわいそう論」として単純化した時点で今回のような結末に陥ったのは必然ではないかと思います…さすがにここまで酷くなるとは思いませんでしたけど。
話を戻します。今回採り上げる「若者雇用戦略」は、雇用戦略対話若者雇用第6回WGで合意されたものです(ちなみに私が登壇したのは第5回WGです)。
若者雇用戦略(リンク先PDF注意):http://www.kantei.go.jp/jp/singi/koyoutaiwa/dai8/siryou1.pdf
ただ、この全部で15ページにわたる「戦略」、細部においてはそれなりにまともなものが見られるとしても、やはり全体としては「若者」を特別視し、若年雇用問題を「若者論」的な視点で解決していこうという視点や、あるいは特定の就業形態に対する徒な決めつけなどが目立つ内容となっています。例えば、「戦略」p.2及びp.11には「フリーター半減」という文字がありますが、そもそもフリーターは本当に「好ましくない」就業形態なのか、本当に好ましくないのだとしたらどう修正すべきなのか、そこを通り越して単純にフリーターを「好ましくない」ものと決めつけている感があります。
ちなみにフリーターの現時点での「好ましくない」点とは、責任の所在が曖昧であったり、あるいは収入や社会保障などに不安があったりすることだと思いますが、これらの点を修正しようとする気概は、この「戦略」には見られません。ただこれには感慨深いものがあり、例えば日本共産党などの一部の政党は「フリーターの正社員化」などを掲げていたりしますが、これについても同様で、徒にフリーターという存在そのものが「悪」と決めつけられて、内部で解決すべき問題が素通りされている。フリーターが悪いのではなく、収入が低いことや不安定が悪いということが、見過ごされているような気がします。
それから、この「戦略」には、不況の構造的な問題を若者に解決してもらおう、という視点が見え隠れします。p.13の「地域における起業等の推進」の、例えば就農の推進などもそうなのですが、《ベンチャーに挑戦する人材を鍛え》という物言いは特にそうで、若い世代が「挑戦」しないから地域の疲弊や新しい産業などが生まれないのだ、という認識が見え隠れします。
結局この「戦略」で無視されているのは、若年層の置かれている労働環境を直視しない、要するに景気とか賃金とか安定性とか社会保障とかについての問題点を素通りしたまま、若年層の心理の問題をあげつらうことに終始していること。そしてそのような認識は、「戦略」の最初のほう(p.2)、《対症療法から中長期戦略へ》という物言いがそれを象徴しています。起草者にとっては、景気とか労働環境の問題などは単なる「対症療法」であって、その根本を解決するような「中長期戦略」こそが必要だという認識なのでしょう(それこそ第5回でこのWGから駄々をこねて逃げた藤原和博みたいに)。
しかし、そのような「中長期戦略」という幻想を持ち続けて、基本的な解決策をないがしろにしてきたことこそ、若年雇用問題の無視できない問題点ではないのでしょうか。そしてそれは、昨今の若手論客の言うような、「僕たちは経済というものに縛られない新しい世代なんだ!」という通俗的な世代論ともつながります。すなわち、現代の若年層を論ずるときに、「経済」という問題が素通りされる構造が若者論には存在し、この「戦略」もまたそれを追従する形となっている。そしてこのような構造はここ10年くらいに突然降ってわいたものではなく、戦後の若者論の流れで蓄積されてきたものであることを忘れてはなりません。
この「戦略」で評価できる点があるとすれば、それは就業支援の拡充でしょう。しかし全体として、若年層を「問題」のある存在として決めつける一方で、若年層に構造的な問題の解決を引き受けさせようとする。このようなアンビバレントな態度が臆面もなく押し出されていることが問題だと思うのです。
(次回はブロマガ第14回に掲載予定。次回の内容はWG第1~3回の議事録の検証の予定です。)
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第11回:【思潮+政策】ロスジェネ系雇用規制緩和論者の俗流新自由主義を批判する(2013年2月15日掲載予定)
第12回:【思潮】「デジタルネイティブ」論を批判的に読むために(第2回)(2013年2月25日掲載予定)
第13回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(第2回)(2013年3月5日掲載予定)
【今後の掲載予定:書評(不定期配信)】
第1回:和久井みちる『生活保護とあたし』あけび書房、2012年12月
第2回:浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』講談社、2012年12月
第3回:山口智美ほか『社会運動の戸惑い』勁草書房、2012年10月
第4回:出井智将『派遣鳴動』日経BP社、2010年5月
【近況】
・「コミックマーケット83」新刊の『紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special』ですが、好評につき重版し、とらのあな・COMIC ZINに補充しました。また、電子版がメロンブックスDLにて販売中です。下記の告知ページをご覧下さい。
http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11422949903.html
・同じく「コミックマーケット83」新刊の『社会の見方、専門知の関わり方――俗論との対峙から考える』がCOMIC ZIN専売にて委託販売中です。
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=14728
・「コミックマーケット80」(2011年夏コミ)で出した『青少年言説Commenatries――後藤和智/後藤和智事務所OffLine発言集』を、ニセ科学関係、政策論関係を中心に再編集した普及版『青少年言説Commenatries Lite』がKindleストアで販売中です。筆者の2010年頃の思考の集大成となっています。是非ともお買い求め下さい。また、電子書籍の新シリーズとして、書き下ろしの「平成日本若者論史Plus」を始めます。第一弾として、『ロスジェネ・メディアの世代認識:『AERA』に見るロスジェネ世代の特別視と他世代への攻撃性に関する考察』の配信を開始しました。さらに、2月10日頃には、第2弾となる『「ニート」肯定言説の甘い罠』の刊行も予定しております。
Amazonの著者セントラルはこちらです。
http://www.amazon.co.jp/後藤-和智/e/B004LUVA6I
・なお、今後参加予定の同人誌即売会は、3月3日の「おでかけライブ in 山形109」、3月17日の「EVENT JACK 気仙沼」、3月24日の「杜の奇跡20」、4月28日の「超文学フリマ in ニコニコ超会議2」、5月26日の「第10回博麗神社例大祭」です(気仙沼以外は申し込み済みで当落待ち。気仙沼は申し込み予定)。
(2013年2月5日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第10回「【政策】若者雇用戦略を総括する/第2回・若者雇用戦略を総括する」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年2月5日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
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著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
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