後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第48回:【思潮】「ヤンキー」論の奇妙な位相――なぜ不毛な議論が繰り返されるのか
4月27日に開催される「仙台コミケ216」の新刊として『「ヤンキー」論の奇妙な位相――平成日本若者論史9』を刊行します。同書は、現在若年層の消費を論ずる言説において流行している「ヤンキー」論について、現在の若者論の成立の歴史と、テキストマイニングによる分析を通じて批判するものです。今回はその第1章の第1節をサンプルとして配信します。
同書の詳細情報:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11834272689.html
第2章のサンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107677
―――――
近年の若年層、そして彼らを対象とした消費のキーワードとして「(マイルド)ヤンキー」という表現が流行している。これは若者論についていくつかの著作がある、博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平によって広められているものだ。原田は2014年1月に『ヤンキー経済――消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書、2014年)という著作を上梓し、主に東京多摩地方や神奈川などの「地元志向」の若年層がこれからの新しい消費の主役になる、としている。
最初にこの本について筆者としての見解を述べておくと、あまりにも問題の多いものと言うほかない。例えば同書においては原田は容易に「マイルドヤンキーは」という特徴を述べるが、それについての統計的根拠があまりにも杜撰である。原田は同書第3章において20~22歳の若年層に対して調査したと言うが、そもそもその調査票の集計自体が《「さとり世代」特有のネットワークを活かし》(原田曜平[2014]p.96)という極めて不透明なものであり、また分析に際しても他の年代、ないし社会階層との比較がない。
このような若者論において「比較」の対象は、そもそも筆者が自分の世代の特徴(だと勝手に思い込んでいること)となり、それ故若い世代と筆者の世代(現実には筆者)の「違い」について驚いてみせる表現が頻出するが、原田の著書はそのような表現が繰り返される。特に第1章においては、兵庫県においてあまり離れていないところに引っ越した若い夫妻が、近い場所なのに「アドベンチャー」と形容したことについて《なにを大げさな……とも思いますが》(原田、前掲p.38)、東京のお台場から石神井に帰ってきて「地元は落ち着く」と言った若い世代に対して《私からすれば、「同じ東京だし、それほど距離も離れていないのに……」》(原田、前掲p.54)などというように、主観的に「違い」を強調する表現が見られるが、果たして客観的な研究においてそれが許されていいのかについては疑問を持たざるを得ない。
原田は自らが若い世代に近い立場にあり、そして若い世代を「理解」していることを強みに、上の世代の若者論に反論し、新たな「若者」像を提示しようとする。しかし『ヤンキー経済』に限らず、原田の言説においては、自らの認識を客観的に検証するという過程がまったく見当たらず、他の研究の参照もせいぜいメディアでよく採り上げられるような若者論程度にとどまっている。このようなある種の若者擁護論としての「マイルドヤンキー」論、そして原田の言説に対して、本書は批判を加え、そもそも若者擁護論という行為それ自体の問題を見ていくことが目的である。
ところでここで一つの疑問が生じる。なぜ原田は「ヤンキー」という言葉を使ったのかということだ。実を言うと、若い世代の「ヤンキー」化というテーゼは、ひとり原田によって生み出されたものではない。ある種の文化論的な若者論の過程で、「ヤンキー」という言葉が使われ、そしてそのその枠組みを原田は(どこまで意識的かはさておくとして)明らかに借用している。
非学術的な若者文化論を中心とする文化批評(以下、「批評」とする)の世界では、2008年頃より「ヤンキー」という概念が、主に若い女性の文化、特に「ケータイ小説」の分析において使われてきたからだ。その嚆矢となるのが、速水健朗の『ケータイ小説的。――「再ヤンキー化」時代の少女たち』(原書房、2008年)と見なして差し支えないだろう。その後文化論界隈では「ヤンキー」に関する著作が複数出ており、その一つの集大成として五十嵐太郎:編著『ヤンキー文化論序説』(河出書房新社、2009年)や、斎藤環『世界が土曜の夜の夢なら――ヤンキーと精神分析』(角川書店、2012年)が挙げられるだろう。
この概念が再び注目されたのは2012年の末である。2012年12月16日に衆議院議員総選挙が行われ、3年3ヶ月の民主党政権が落ち、政権党が再び自民党に移った。それをめぐる言説の中で、2012年12月26日の朝日新聞に掲載された、『世界が土曜の夜の夢なら』の著者である斎藤が「自民党はヤンキー政党だ」という趣旨の発言が話題になった。斎藤はこの「ヤンキー社会の拡大映す」というインタビューの中で、《自民党は右傾化しているというより、ヤンキー化しているのではないでしょうか》(斎藤環[2012b])と述べ、自民党がいかに「ヤンキー」的であるかと言うことを述べている。さらに民主党についても《民主党議員を見ても、選挙に強い人はヤンキー度が高い》(斎藤、前掲)ということを述べ、「ヤンキー」という概念に依拠して政治を語っている。しかし、その根拠はまったく示されていない。
さらにこの頃から「ヤンキー」が、速水などの若者文化論に代表される「批評」言説を消費する層(同人誌即売会「文学フリマ」などで評論系の同人誌を出している層や、「はてなダイアリー」などに見られるオタク論、サブカルチャー論系の「論客」など)において頻繁に使われるようになった。代表的なのは、ツイッターのまとめサイト作成ツールの一つ「Togetter」において作成された「オタクが作ってヤンキーが消費」(http://togetter.com/li/439913、2013年)や、「はてなダイアリー」のエントリー「あなたは本当にオタクですか?/オタクとサブカル、ヤンキーと体育会系」(http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20120829/1346240287、2012年)などが挙げられる。だが、これらの言説の多くは、「ヤンキー」という存在をある種の劣った存在、あるいは既存のものを消費するだけの存在として捉えることが多く、特に自らがクリエイティブだと思い込んでいる層(「論客」的志向の強いオタク層など)に対しては憎むべき存在、というように映るのだろう。
「ヤンキー」論は若者論においてもそのプレゼンスを高めている。2013年には『週刊現代』(講談社)に「ご存知でしたか 日本人の9割がヤンキーになる 1億総中流の時代はよかったなぁ」(「現代ビジネス」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37682 に転載)という記事が掲載され、斎藤もこの記事には登場している。しかしこの記事は全編に根拠と言えるものがなく、ただ「ヤンキー」論で有名な識者(斎藤の他に五十嵐太郎も)に語らせているだけのものである。さらに2014年より「(マイルド)ヤンキー」論を積極的に載せているニュースサイト「ハフィントン・ポスト日本版」の記事「マイルドヤンキー賞賛とその先にあるもの、、、」(http://www.huffingtonpost.jp/gen-shibayama/mild-yankee_b_5005067.html、2014年)についても、ネット上の「格差」論や、あるいは同時に話題になっている「低学歴」論を引きつつ、これからの社会に起こる「分断」を論じているものの、その「分断」に対する認識が、マーケティング言説で語られるようなものを超えていないというのは問題だろう。
現在の「ヤンキー」論の基礎を形成したと言える斎藤においても、2014年に、過去に行われた「ヤンキー」というキーワードをベースにした対談集『ヤンキー化する日本』(角川Oneテーマ21、2014年)や、さらにこれの補完的な立場と言える與那覇潤との「ダイヤモンドオンライン」での対談連載(http://toyokeizai.net/articles/-/33736 など、2014年)において政治、社会分野に進出してきている。
ここまで来ると、最早「ヤンキー」論それ自体が、若い世代を中心とする「自分とは違う」社会集団・階層の特徴を一気に説明してくれる「無敵の概念」として流通し、劣化言説を誘発していると見るのが適切であろう。これらの議論は、「自分とは違う」社会集団・階層を「分断」し、それに対して「理解していること」を強みとして強調すること(原田曜平)や、それに対して本質的に劣っているというレッテルを貼り、批判あるいは象徴的脅威として祭り上げる(斎藤環、『週刊現代』など)というものとなっている。前者は主に若者擁護論として発せられ、後者は若年層を含む社会批判として用いられる。
しかしこれらの言説は共通した問題を孕んでおり、そしてそれこそが「ヤンキー」論の持つ問題点であるということだ。そしてその問題点は、日本において消費されてきた多くの「日本人論」、そして1990年代後半以降に猖獗を極めた劣化言説の問題点を、ほぼそのまま継承している。本章では「ヤンキー」論を読む上で覆い隠されている前提としての議論を若者論を中心に眺めつつ、「ヤンキー」論で盛り上がることの問題について見ていきたい。
第49回:【書評】春の書評祭り(2014年5月5日配信予定/「仙台コミケ216」「Comic1☆8」「第十八回文学フリマ」のサークルペーパーとして配信します。)
第50回:【思潮】オタク論に社会を語らせてはいけないこれだけの理由(2014年5月15日配信予定/「第11回博麗神社例大祭」のサークルペーパーとして配信します。)
第51回:【政策/科学・統計】青少年政策の計量分析2:概要版(2014年5月25日配信予定/「SUPER ADVENTURES 72」「杜の奇跡22」のサークルペーパーとして配信します。)
(※「「艦これ」遠征の評価・改二」の発表は、都合によりしばらく延期とします。)
【近況】
・「第11回博麗神社例大祭」新刊『風見幽香の幻想郷開発計画――市民のための経済学の基礎』の情報を公開しました。またメロンブックスにて委託販売の予約も開始されました。表紙はサークル「世は並べて事も無し」の一代大佐氏です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11830148761.html
サンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107811
委託(メロンブックス):http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001071985
・「仙台コミケ216」新刊『「ヤンキー」論の奇妙な位相――平成日本若者論史9』の情報を公開しました。また電子版をKindleにて配信予定です。
情報ページ・第1章サンプル:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11834272689.html
第2章サンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107677
・「第8回東方名華祭」併催イベント「幻想郷フォーラム2014」新刊の『香霖堂の社会思想ゼミ――市民のための「社会」をめぐる思想講座』がメロンブックスにて発売中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11795422870.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42211933
通販ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001071156
電子版:http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000170807
・「海ゆかば2」新刊の『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』がメロンブックスにて委託販売中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11755408226.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41109949
通販ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001070288
電子版:http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000170590
・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:
・常見陽平氏が発行する早稲田大学・慶應義塾大学学生向けフリーペーパー「アスユニ」に論考「「慶應SFC的なるもの」とは何か」を寄稿しました。こちらでも「第18回文学フリマ」にて配布します。
・「仙台コミケ216」にサークル参加予定です。
開催日:2014年4月27日(日)
開催場所:夢メッセみやぎ(宮城県仙台市宮城野区)
アクセス:JR仙石線「中野栄」駅より徒歩20分程度/仙台東部道路「仙台港」インターチェンジより車で5分程度/宮城交通バス「仙台港フェリーターミナル」行きまたは仙台市営バス306系統「(賀茂皇神社経由)キリンビール」行き「夢メッセみやぎ前」下車すぐ
スペース:「G」ブロック20
・「Comic1☆8」にサークル参加予定です。
開催日:2014年4月29日(火祝)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅下車すぐ/東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度
スペース:「ね」ブロック41a
・「第十八回文学フリマ」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月5日(月祝)
開催場所:東京流通センター(東京都大田区)
アクセス:東京モノレール「流通センター」駅下車すぐ
スペース:未定
・「第11回博麗神社例大祭」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月11日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:前掲
スペース:「ぬ」ブロック13b
・「杜の奇跡22」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月25日(日)
開催場所:仙台市情報・産業プラザ(宮城県仙台市青葉区)
アクセス:JR各線「仙台」駅下車徒歩2分程度/仙台市地下鉄南北線「仙台」駅下車徒歩5分程度
スペース:未定
・「古明地こんぷれっくす」にサークル参加予定です。
開催日:2014年6月8日(日)
開催場所:京都市勧業館みやこめっせ(京都府京都市左京区)
アクセス:京都市営地下鉄東西線「東山」駅より徒歩8分程度
スペース:未定
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
(2014年4月26日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第48回:【思潮】「ヤンキー」論の奇妙な位相――なぜ不毛な議論が繰り返されるのか
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年4月26日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice
第48回:【思潮】「ヤンキー」論の奇妙な位相――なぜ不毛な議論が繰り返されるのか
4月27日に開催される「仙台コミケ216」の新刊として『「ヤンキー」論の奇妙な位相――平成日本若者論史9』を刊行します。同書は、現在若年層の消費を論ずる言説において流行している「ヤンキー」論について、現在の若者論の成立の歴史と、テキストマイニングによる分析を通じて批判するものです。今回はその第1章の第1節をサンプルとして配信します。
同書の詳細情報:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11834272689.html
第2章のサンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107677
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近年の若年層、そして彼らを対象とした消費のキーワードとして「(マイルド)ヤンキー」という表現が流行している。これは若者論についていくつかの著作がある、博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平によって広められているものだ。原田は2014年1月に『ヤンキー経済――消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書、2014年)という著作を上梓し、主に東京多摩地方や神奈川などの「地元志向」の若年層がこれからの新しい消費の主役になる、としている。
最初にこの本について筆者としての見解を述べておくと、あまりにも問題の多いものと言うほかない。例えば同書においては原田は容易に「マイルドヤンキーは」という特徴を述べるが、それについての統計的根拠があまりにも杜撰である。原田は同書第3章において20~22歳の若年層に対して調査したと言うが、そもそもその調査票の集計自体が《「さとり世代」特有のネットワークを活かし》(原田曜平[2014]p.96)という極めて不透明なものであり、また分析に際しても他の年代、ないし社会階層との比較がない。
このような若者論において「比較」の対象は、そもそも筆者が自分の世代の特徴(だと勝手に思い込んでいること)となり、それ故若い世代と筆者の世代(現実には筆者)の「違い」について驚いてみせる表現が頻出するが、原田の著書はそのような表現が繰り返される。特に第1章においては、兵庫県においてあまり離れていないところに引っ越した若い夫妻が、近い場所なのに「アドベンチャー」と形容したことについて《なにを大げさな……とも思いますが》(原田、前掲p.38)、東京のお台場から石神井に帰ってきて「地元は落ち着く」と言った若い世代に対して《私からすれば、「同じ東京だし、それほど距離も離れていないのに……」》(原田、前掲p.54)などというように、主観的に「違い」を強調する表現が見られるが、果たして客観的な研究においてそれが許されていいのかについては疑問を持たざるを得ない。
原田は自らが若い世代に近い立場にあり、そして若い世代を「理解」していることを強みに、上の世代の若者論に反論し、新たな「若者」像を提示しようとする。しかし『ヤンキー経済』に限らず、原田の言説においては、自らの認識を客観的に検証するという過程がまったく見当たらず、他の研究の参照もせいぜいメディアでよく採り上げられるような若者論程度にとどまっている。このようなある種の若者擁護論としての「マイルドヤンキー」論、そして原田の言説に対して、本書は批判を加え、そもそも若者擁護論という行為それ自体の問題を見ていくことが目的である。
ところでここで一つの疑問が生じる。なぜ原田は「ヤンキー」という言葉を使ったのかということだ。実を言うと、若い世代の「ヤンキー」化というテーゼは、ひとり原田によって生み出されたものではない。ある種の文化論的な若者論の過程で、「ヤンキー」という言葉が使われ、そしてそのその枠組みを原田は(どこまで意識的かはさておくとして)明らかに借用している。
非学術的な若者文化論を中心とする文化批評(以下、「批評」とする)の世界では、2008年頃より「ヤンキー」という概念が、主に若い女性の文化、特に「ケータイ小説」の分析において使われてきたからだ。その嚆矢となるのが、速水健朗の『ケータイ小説的。――「再ヤンキー化」時代の少女たち』(原書房、2008年)と見なして差し支えないだろう。その後文化論界隈では「ヤンキー」に関する著作が複数出ており、その一つの集大成として五十嵐太郎:編著『ヤンキー文化論序説』(河出書房新社、2009年)や、斎藤環『世界が土曜の夜の夢なら――ヤンキーと精神分析』(角川書店、2012年)が挙げられるだろう。
この概念が再び注目されたのは2012年の末である。2012年12月16日に衆議院議員総選挙が行われ、3年3ヶ月の民主党政権が落ち、政権党が再び自民党に移った。それをめぐる言説の中で、2012年12月26日の朝日新聞に掲載された、『世界が土曜の夜の夢なら』の著者である斎藤が「自民党はヤンキー政党だ」という趣旨の発言が話題になった。斎藤はこの「ヤンキー社会の拡大映す」というインタビューの中で、《自民党は右傾化しているというより、ヤンキー化しているのではないでしょうか》(斎藤環[2012b])と述べ、自民党がいかに「ヤンキー」的であるかと言うことを述べている。さらに民主党についても《民主党議員を見ても、選挙に強い人はヤンキー度が高い》(斎藤、前掲)ということを述べ、「ヤンキー」という概念に依拠して政治を語っている。しかし、その根拠はまったく示されていない。
さらにこの頃から「ヤンキー」が、速水などの若者文化論に代表される「批評」言説を消費する層(同人誌即売会「文学フリマ」などで評論系の同人誌を出している層や、「はてなダイアリー」などに見られるオタク論、サブカルチャー論系の「論客」など)において頻繁に使われるようになった。代表的なのは、ツイッターのまとめサイト作成ツールの一つ「Togetter」において作成された「オタクが作ってヤンキーが消費」(http://togetter.com/li/439913、2013年)や、「はてなダイアリー」のエントリー「あなたは本当にオタクですか?/オタクとサブカル、ヤンキーと体育会系」(http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20120829/1346240287、2012年)などが挙げられる。だが、これらの言説の多くは、「ヤンキー」という存在をある種の劣った存在、あるいは既存のものを消費するだけの存在として捉えることが多く、特に自らがクリエイティブだと思い込んでいる層(「論客」的志向の強いオタク層など)に対しては憎むべき存在、というように映るのだろう。
「ヤンキー」論は若者論においてもそのプレゼンスを高めている。2013年には『週刊現代』(講談社)に「ご存知でしたか 日本人の9割がヤンキーになる 1億総中流の時代はよかったなぁ」(「現代ビジネス」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37682 に転載)という記事が掲載され、斎藤もこの記事には登場している。しかしこの記事は全編に根拠と言えるものがなく、ただ「ヤンキー」論で有名な識者(斎藤の他に五十嵐太郎も)に語らせているだけのものである。さらに2014年より「(マイルド)ヤンキー」論を積極的に載せているニュースサイト「ハフィントン・ポスト日本版」の記事「マイルドヤンキー賞賛とその先にあるもの、、、」(http://www.huffingtonpost.jp/gen-shibayama/mild-yankee_b_5005067.html、2014年)についても、ネット上の「格差」論や、あるいは同時に話題になっている「低学歴」論を引きつつ、これからの社会に起こる「分断」を論じているものの、その「分断」に対する認識が、マーケティング言説で語られるようなものを超えていないというのは問題だろう。
現在の「ヤンキー」論の基礎を形成したと言える斎藤においても、2014年に、過去に行われた「ヤンキー」というキーワードをベースにした対談集『ヤンキー化する日本』(角川Oneテーマ21、2014年)や、さらにこれの補完的な立場と言える與那覇潤との「ダイヤモンドオンライン」での対談連載(http://toyokeizai.net/articles/-/33736 など、2014年)において政治、社会分野に進出してきている。
ここまで来ると、最早「ヤンキー」論それ自体が、若い世代を中心とする「自分とは違う」社会集団・階層の特徴を一気に説明してくれる「無敵の概念」として流通し、劣化言説を誘発していると見るのが適切であろう。これらの議論は、「自分とは違う」社会集団・階層を「分断」し、それに対して「理解していること」を強みとして強調すること(原田曜平)や、それに対して本質的に劣っているというレッテルを貼り、批判あるいは象徴的脅威として祭り上げる(斎藤環、『週刊現代』など)というものとなっている。前者は主に若者擁護論として発せられ、後者は若年層を含む社会批判として用いられる。
しかしこれらの言説は共通した問題を孕んでおり、そしてそれこそが「ヤンキー」論の持つ問題点であるということだ。そしてその問題点は、日本において消費されてきた多くの「日本人論」、そして1990年代後半以降に猖獗を極めた劣化言説の問題点を、ほぼそのまま継承している。本章では「ヤンキー」論を読む上で覆い隠されている前提としての議論を若者論を中心に眺めつつ、「ヤンキー」論で盛り上がることの問題について見ていきたい。
第49回:【書評】春の書評祭り(2014年5月5日配信予定/「仙台コミケ216」「Comic1☆8」「第十八回文学フリマ」のサークルペーパーとして配信します。)
第50回:【思潮】オタク論に社会を語らせてはいけないこれだけの理由(2014年5月15日配信予定/「第11回博麗神社例大祭」のサークルペーパーとして配信します。)
第51回:【政策/科学・統計】青少年政策の計量分析2:概要版(2014年5月25日配信予定/「SUPER ADVENTURES 72」「杜の奇跡22」のサークルペーパーとして配信します。)
(※「「艦これ」遠征の評価・改二」の発表は、都合によりしばらく延期とします。)
【近況】
・「第11回博麗神社例大祭」新刊『風見幽香の幻想郷開発計画――市民のための経済学の基礎』の情報を公開しました。またメロンブックスにて委託販売の予約も開始されました。表紙はサークル「世は並べて事も無し」の一代大佐氏です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11830148761.html
サンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107811
委託(メロンブックス):http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001071985
・「仙台コミケ216」新刊『「ヤンキー」論の奇妙な位相――平成日本若者論史9』の情報を公開しました。また電子版をKindleにて配信予定です。
情報ページ・第1章サンプル:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11834272689.html
第2章サンプル:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43107677
・「第8回東方名華祭」併催イベント「幻想郷フォーラム2014」新刊の『香霖堂の社会思想ゼミ――市民のための「社会」をめぐる思想講座』がメロンブックスにて発売中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11795422870.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=42211933
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電子版:http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000170807
・「海ゆかば2」新刊の『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』がメロンブックスにて委託販売中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11755408226.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41109949
通販ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001070288
電子版:http://www.melonbooks.com/index.php?main_page=product_info&products_id=IT0000170590
・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:
・常見陽平氏が発行する早稲田大学・慶應義塾大学学生向けフリーペーパー「アスユニ」に論考「「慶應SFC的なるもの」とは何か」を寄稿しました。こちらでも「第18回文学フリマ」にて配布します。
・「仙台コミケ216」にサークル参加予定です。
開催日:2014年4月27日(日)
開催場所:夢メッセみやぎ(宮城県仙台市宮城野区)
アクセス:JR仙石線「中野栄」駅より徒歩20分程度/仙台東部道路「仙台港」インターチェンジより車で5分程度/宮城交通バス「仙台港フェリーターミナル」行きまたは仙台市営バス306系統「(賀茂皇神社経由)キリンビール」行き「夢メッセみやぎ前」下車すぐ
スペース:「G」ブロック20
・「Comic1☆8」にサークル参加予定です。
開催日:2014年4月29日(火祝)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅下車すぐ/東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度
スペース:「ね」ブロック41a
・「第十八回文学フリマ」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月5日(月祝)
開催場所:東京流通センター(東京都大田区)
アクセス:東京モノレール「流通センター」駅下車すぐ
スペース:未定
・「第11回博麗神社例大祭」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月11日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:前掲
スペース:「ぬ」ブロック13b
・「杜の奇跡22」にサークル参加予定です。
開催日:2014年5月25日(日)
開催場所:仙台市情報・産業プラザ(宮城県仙台市青葉区)
アクセス:JR各線「仙台」駅下車徒歩2分程度/仙台市地下鉄南北線「仙台」駅下車徒歩5分程度
スペース:未定
・「古明地こんぷれっくす」にサークル参加予定です。
開催日:2014年6月8日(日)
開催場所:京都市勧業館みやこめっせ(京都府京都市左京区)
アクセス:京都市営地下鉄東西線「東山」駅より徒歩8分程度
スペース:未定
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
(2014年4月26日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第48回:【思潮】「ヤンキー」論の奇妙な位相――なぜ不毛な議論が繰り返されるのか
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年4月26日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice
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