後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第41回:【思潮/科学・統計】2014年成人の日社説分析速報
念願の番組の1つに(声は出せませんでしたが)出演できましたよ!1月13日、TBSラジオにて放送の「荻上チキ・Session-22」!同日の番組で、本年の成人の日社説13紙ぶんのレビュー+総評を提供させていただきました。そしてそれをめぐって荻上チキ、飯田泰之、松谷創一郎の各氏が話をしてくださったりといろいろと嬉しい時間を過ごさせていただきました!しかも今回の依頼をいただいたきっかけが、昨年の「杜の奇跡20」で出した同人誌『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷――平成日本若者論史5』という、なぜか商業新刊である『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を差し置いての抜擢であるという。同人誌がきっかけでラジオのコメント提供、というのはかなり珍しいと思います。
「荻上チキ・Session-22」http://www.tbsradio.jp/ss954/ (バックナンバーはポッドキャストにて配信中)
もうFree Talkはこれしかありませんよね!というわけで、ラジオで使った2014年の成人の日の社説13紙+有料サービスのため当日のレビューができなかった(後でniftyのデータベースから取得した)中国新聞の、計14紙ぶんに対して、テキストマイニングによる分析を行ってみたいと思います!それぞれの社説に対するレビューは最後のページに掲載します(掲載にあたり、中国新聞のレビューを追加しました)。
そもそも私がなぜ成人の日の社説の分析を行おうと思ったかというと、第一に2001年の成人式報道が私にとって若者論に興味を持つきっかけの大きなひとつであったこと、第二に2012年に朝日新聞が「尾崎豊を知っているか」などというわけのわからない「社説」を掲載したことで、成人の日の社説がどのような変化を遂げてきたのかと言うことに興味を持ったからです。
今回の「荻上チキ・Session-22」に関して見られたツイッター上での書き込みを見ると、「そもそも若い世代は新聞を読まない」とか、「社説なんて所詮は上の世代の論説委員の自己満足だ」というありきたりな「レガシーメディア批判」が見られました。しかし、成人の日の社説というものは、むしろ(それ故に?)若い世代ではなく、現在の若者論がどのようになっているかというものをかなり如実に反映しているのです。そのため、分析や研究の対象としては、かなり無視できないものと言えるのではないか、というのが私の考えです。
『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷』では、20年ぶんの社説の分析だったため、切りが良かったので4年ごとに区分をわけました。1994~1997年を第1期としております。そうすると、この時期の流れに対して、同書で行った25項目の採点に関してはかなりの差が出ており、またテキストマイニングにおいてもいくらかの差が見られました。1998~2001年にあたる第2期は、若年層を中心に「劣化」をベースに語られるようになり、この時期から西日本新聞を皮切りに、社説においても若年層を問題視するようになりました。そしてその傾向は2002~2005年の第3期、「荒れる成人式」が大々的に報じられるようになって爆発します。しかし2006~2009年の第4期になると、労働問題などを意識したようなものが現れますが、2010~2013年の第5期では、低成長世代論に基づくような「緩やかな(俗流)若者擁護論」が多数を占めるようになります。このあたりは、同書を参照していただければ。
『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷』http://www.amazon.co.jp/dp/B00DC8G04W/
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=15815
さて本年ぶんのテキストマイニングによる分析ですが、比較のため2012・2013年のものと一緒にテキストマイニングを行うこととします(全43社説)。読んだ上で判断すると、本年の傾向としては(あと3年分見ないと2014~2017年の第6期の評価ができないのですが)基本的に2013年とそれほど変わっていません。新しいトピックも「さとり世代」とかネット選挙とかがありますけど、それでも使っている社説はごく一部であり、大筋での傾向は違いがないというのが実感でした。
それでは単語ごとに集計するとどうなるでしょうか。ここでは、名詞・動詞・形容詞・副詞・接続詞について、単語ごとの形態素解析及びN-gramによる解析(N-gramとは、複数の単語のつながりについて集計するもの。N=2,3,4とした。N=5でも分析を行ったが特筆すべきものはなかったため取り除いた)を行って集計してみました(なお、数字や助数詞を含むものは原則として除いた)。
単語レベルの集計でも、2014年と、2013年・2012年では取り立てて大きな違いは見られませんでした。違いがある程度見られるところを挙げると、例えば単語では「投票」が、2014年では17回でしたが、2012・13年では1桁台でした。これは、中国新聞を中心に、2014年には久々に「投票」の重要性を述べた社説が複数あったことが影響していると思います。ただコメントでも述べたとおり、神奈川新聞のような煽り方とか、あるいは中国新聞のように若い世代に対して述べるというのはどうかとは思いますけどね…。
もう一つ、N-gramからわかったことなのですが、2014年の社説は、新成人が「生まれた年代」についての言及が複数見られました(「生まれる-1-9-9」は1990年代生まれ、「失う-れる-2-0」は「失われた20年」に対応か)。これは、本年の社説において、先ほど述べたような「さとり世代」というものに代表される世代論が再び巻き返しの傾向にあることを示唆しているように思えます。
最後に、単語の頻度について正規化を行い、クラスター分析によって社説を分類しました。まずよくわかるのは、中日新聞が完全に独自路線であるということですね。クラスター分析で分類しても、他の社説の近くに分類されることはなく、中日だけで塊を形成しています。また、本年のベストとして指定した日経新聞と、2013年の個人的にベストである朝日新聞は同じグループに配属されています。ただ「尾崎豊」で悪い意味で話題をかっさらった2012年朝日もこのグループですが…。あと意外なことに、2014年西日本新聞もこのグループに含まれました。
また2014年の琉球新報や神奈川新聞、中国新聞といった「投票」の大切さを訴える社説はグラフの左のほうに固まりました。また、ここ3年の毎日新聞は、若い世代の「関係の狭さ」や自己のありかたを問題視する傾向があり、そのためかなり近いところに固まっています(ついでに、毎日の3年分の近くに配置された2012年信濃毎日新聞も同じような内容だったり)。
成人の日の社説というと、「どうせ若い奴は誰も読まない」とか言われますけど、成人の日の社説は、むしろ若者論の現状を示す指標としては大いに役立つものであると考えます。単語レベルでも、現在の傾向、そして将来見られるであろう傾向がある程度示されているのだと思います。是非とも「分析の対象」としての成人式報道や、成人の日の社説というものの重要性に、目を向けてくださいますと幸いです。
提出したコメント(番組サイト掲載ぶんは少し修正されています)
・総評
「成人の日の社説は当時の若者論の反映である」という考えは揺るがなかった。若い世代の「安定志向」を前提にした「緩やかな若者擁護論」的な傾向は昨年から続き、「さとり世代」という表現も見られた。しかし成人の日こそ、若者論という枠組みそのものに疑問を投げかけるようなものを期待したい。
・読売新聞「堅実さと柔軟な発想求めたい」
若い世代に「奮起」を促す内容で、成人の日の社説としてはここ20年来の伝統的なものと言える。ただ、この社説のように安直に「先進的な若者」を礼賛することは、むしろ「先進的でない若者」への批判を強めてしまう懸念がある。
・朝日新聞「成人の日に―逆境をチャンスに変える」
「ふくしま復興塾」の紹介。若い世代による「先進的」な取り組みを紹介するものでも、安直な礼賛ではなく、地域のつながりまで掘り下げて紹介したことは評価したい。ただ最後のほうで「拡大主義とは違った価値観」とまとめてしまうのは、「地域に根ざした取り組み」への評価として適切ではないだろう。
・毎日新聞「成人の日 「いいね」だけでいい?」
若い世代にたいして「広い情報・視座に触れよ」という内容になっているが、それはメディア自身にこそ投げかけられるべき内容であり、成人の日の社説の「祝辞」的なものとして適切かどうか。和合亮一の誌が紹介されているが、むしろ、若い世代にとって身近な雇用の問題を扱った方がいい。
・産経新聞「「仮免」の今は大いに学べ」
「徒弟制度のあった過去とない現在」を比較して現在の20歳は「仮免」であると述べるものの、若い世代の就業について、どちらかと言えば悪い方向を採り上げて、「過去」を理想化するような議論は、本当に「社説」として行うべきものなのか、大いに疑問である。
・日本経済新聞「若者たちの「外向き志向」を生かそう」
他紙がもっぱら「内向き」「さとり世代」と述べる中で、敢えて若い世代の「外向き」志向についてデータなどを交えて紹介し、安直な若者論を戒めている。このような社説は昨年の朝日新聞にも見られたが、成人の日こそ、メディアや社会の「若者」への視点を問い直すという試みは大いに評価したい。
・東奥日報(2014年1月12日)「未来を切り開く気概を」
地方紙にありがちな「箴言」系の社説(採り上げられているのはやなせたかしと谷川俊太郎)で特に採り上げるべきところはない。
・岩手日報「羽ばたこう「幸せ」世代」
若い世代は「自分は幸せ」だという評価をしているとし、それを肯定的に紹介する内容。だが、このような世代論も、バッシング系の世代論の表裏一体でしかないことには注意を促しておきたい。今回見た社説で最も現在の「若者論の気分」を反映しているものかもしれない。
・神奈川新聞「1票の重さ心に刻もう」
選挙の重要性を若い世代に説くのは成人の日の社説としてここ20年来伝統的なもの。だが《例えば徴兵制が導入されるかもしれない。その時、あなたは戦争に行く覚悟はありますか?》という「脅し」的な文言が唐突に現れるのは政治不信を若い世代に押しつけたい欲望が透けて見える。
・中日新聞「カンタ!大人の歌を」
中日新聞お得意の映画(ないし文学)の紹介。特筆すべきものはない。
・神戸新聞「挑戦を後押しする社会に」
若い世代の「苦境」に理解を示し、「安定志向」を問題視するものの、全体として薄味。
・山陽新聞「「さとり世代」の皆さんへ」
「さとり世代」という、安直な世代論をもって若い世代の特徴を「説明」してしまうような議論はまず問題ではないか。《皆さんが育った時代背景を正しく理解することは、上の世代にとっても必要なことだ》というが、そもそもの世代論の枠組みそのものを問い直すような議論がほしい。
・西日本新聞「閉塞感破れ「さとり世代」」
岩手日報や山陽新聞と同じような世代論に基づく社説。山陽より問題点は薄いものの、途中に増税志向的な文言が見られるのは減点対象。若い世代を特殊化したあとに「時代を切り拓くのはやはり若者である」というのも「若者」幻想の投影でしかないだろう。
・琉球新報「沖縄の未来 共に築こう」
沖縄の雇用に関するデータや普天間飛行場問題など、地方紙としての問題意識に特化した、いい意味で地方紙らしい社説と言える。
サークルペーパーのために加筆
・中国新聞「18歳成人 若い意思反映させよう」
全国紙・地方紙含めて珍しく、成人年齢の引き下げについて言及したもの。その意気はよしとしても、主に若い世代に対して「考えろ」というのは社説としての役割をはたしているか疑問。むしろ社会の側に若い世代への見方を改める提言をしたほうがよかったのではないか?
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第42回:【思潮】「若者の右傾化」はなぜ問題視されるようになったのか(2014年2月5日配信予定:「海ゆかば2」「コミティア107」のサークルペーパーとして配信します。)
第43回:【科学・統計】センター試験国語で若者の言語能力は測れません!(2014年2月15日配信予定)
第44回:未定(2014年2月25日配信予定)
【近況】
・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717450615.html
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717449750.html
・「海ゆかば2」新刊の『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』の予約がメロンブックスにて受付中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11755408226.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41109949
予約ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001070288
・「こみっく☆トレジャー23」にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月19日(日)
開催場所:インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)
アクセス:大阪市交通局南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩3分程度
スペース:5号館「ケ」ブロック14a
・「海ゆかば2」(艦隊これくしょんオンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月26日(日)
開催場所:大田区産業プラザPiO(東京都大田区)
アクセス:京急本線・空港線「京急蒲田」駅より徒歩3分程度
スペース:「う」ブロック37
・「コミティア107」にサークル参加予定です。
開催日:2014年2月2日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩すぐ、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度
スペース:「S」ブロック26b
備考:二次創作関係作品を頒布しません。また、商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を頒布予定です。
・「東方紅楼夢9.5 遠野物語」にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月2日(日)
開催場所:あえりあ遠野(岩手県遠野市)
アクセス:JR釜石線「遠野」駅から徒歩10分程度/釜石自動車道「宮守」インターチェンジから車で30分程度
スペース:未定
※JR釜石線「遠野」駅は、東北新幹線「新花巻」駅から快速列車で40分程度、普通列車で1時間程度。
・「幻想郷フォーラム2014」(東方Project情報・評論系オンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月30日(日)
開催場所:名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)(愛知県名古屋市港区)
アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「金城ふ頭」駅より徒歩5分程度/伊勢湾岸自動車道「名港中央」インターチェンジより車で5分程度
スペース:未定
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
(2014年1月25日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第41回:【思潮/科学・統計】2014年成人の日社説分析速報
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年1月25日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
Facebook…
個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice
第41回:【思潮/科学・統計】2014年成人の日社説分析速報
念願の番組の1つに(声は出せませんでしたが)出演できましたよ!1月13日、TBSラジオにて放送の「荻上チキ・Session-22」!同日の番組で、本年の成人の日社説13紙ぶんのレビュー+総評を提供させていただきました。そしてそれをめぐって荻上チキ、飯田泰之、松谷創一郎の各氏が話をしてくださったりといろいろと嬉しい時間を過ごさせていただきました!しかも今回の依頼をいただいたきっかけが、昨年の「杜の奇跡20」で出した同人誌『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷――平成日本若者論史5』という、なぜか商業新刊である『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を差し置いての抜擢であるという。同人誌がきっかけでラジオのコメント提供、というのはかなり珍しいと思います。
「荻上チキ・Session-22」http://www.tbsradio.jp/ss954/ (バックナンバーはポッドキャストにて配信中)
もうFree Talkはこれしかありませんよね!というわけで、ラジオで使った2014年の成人の日の社説13紙+有料サービスのため当日のレビューができなかった(後でniftyのデータベースから取得した)中国新聞の、計14紙ぶんに対して、テキストマイニングによる分析を行ってみたいと思います!それぞれの社説に対するレビューは最後のページに掲載します(掲載にあたり、中国新聞のレビューを追加しました)。
そもそも私がなぜ成人の日の社説の分析を行おうと思ったかというと、第一に2001年の成人式報道が私にとって若者論に興味を持つきっかけの大きなひとつであったこと、第二に2012年に朝日新聞が「尾崎豊を知っているか」などというわけのわからない「社説」を掲載したことで、成人の日の社説がどのような変化を遂げてきたのかと言うことに興味を持ったからです。
今回の「荻上チキ・Session-22」に関して見られたツイッター上での書き込みを見ると、「そもそも若い世代は新聞を読まない」とか、「社説なんて所詮は上の世代の論説委員の自己満足だ」というありきたりな「レガシーメディア批判」が見られました。しかし、成人の日の社説というものは、むしろ(それ故に?)若い世代ではなく、現在の若者論がどのようになっているかというものをかなり如実に反映しているのです。そのため、分析や研究の対象としては、かなり無視できないものと言えるのではないか、というのが私の考えです。
『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷』では、20年ぶんの社説の分析だったため、切りが良かったので4年ごとに区分をわけました。1994~1997年を第1期としております。そうすると、この時期の流れに対して、同書で行った25項目の採点に関してはかなりの差が出ており、またテキストマイニングにおいてもいくらかの差が見られました。1998~2001年にあたる第2期は、若年層を中心に「劣化」をベースに語られるようになり、この時期から西日本新聞を皮切りに、社説においても若年層を問題視するようになりました。そしてその傾向は2002~2005年の第3期、「荒れる成人式」が大々的に報じられるようになって爆発します。しかし2006~2009年の第4期になると、労働問題などを意識したようなものが現れますが、2010~2013年の第5期では、低成長世代論に基づくような「緩やかな(俗流)若者擁護論」が多数を占めるようになります。このあたりは、同書を参照していただければ。
『統計学で解き明かす成人の日社説の変遷』http://www.amazon.co.jp/dp/B00DC8G04W/
COMIC ZIN:http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=15815
さて本年ぶんのテキストマイニングによる分析ですが、比較のため2012・2013年のものと一緒にテキストマイニングを行うこととします(全43社説)。読んだ上で判断すると、本年の傾向としては(あと3年分見ないと2014~2017年の第6期の評価ができないのですが)基本的に2013年とそれほど変わっていません。新しいトピックも「さとり世代」とかネット選挙とかがありますけど、それでも使っている社説はごく一部であり、大筋での傾向は違いがないというのが実感でした。
それでは単語ごとに集計するとどうなるでしょうか。ここでは、名詞・動詞・形容詞・副詞・接続詞について、単語ごとの形態素解析及びN-gramによる解析(N-gramとは、複数の単語のつながりについて集計するもの。N=2,3,4とした。N=5でも分析を行ったが特筆すべきものはなかったため取り除いた)を行って集計してみました(なお、数字や助数詞を含むものは原則として除いた)。
単語レベルの集計でも、2014年と、2013年・2012年では取り立てて大きな違いは見られませんでした。違いがある程度見られるところを挙げると、例えば単語では「投票」が、2014年では17回でしたが、2012・13年では1桁台でした。これは、中国新聞を中心に、2014年には久々に「投票」の重要性を述べた社説が複数あったことが影響していると思います。ただコメントでも述べたとおり、神奈川新聞のような煽り方とか、あるいは中国新聞のように若い世代に対して述べるというのはどうかとは思いますけどね…。
もう一つ、N-gramからわかったことなのですが、2014年の社説は、新成人が「生まれた年代」についての言及が複数見られました(「生まれる-1-9-9」は1990年代生まれ、「失う-れる-2-0」は「失われた20年」に対応か)。これは、本年の社説において、先ほど述べたような「さとり世代」というものに代表される世代論が再び巻き返しの傾向にあることを示唆しているように思えます。
最後に、単語の頻度について正規化を行い、クラスター分析によって社説を分類しました。まずよくわかるのは、中日新聞が完全に独自路線であるということですね。クラスター分析で分類しても、他の社説の近くに分類されることはなく、中日だけで塊を形成しています。また、本年のベストとして指定した日経新聞と、2013年の個人的にベストである朝日新聞は同じグループに配属されています。ただ「尾崎豊」で悪い意味で話題をかっさらった2012年朝日もこのグループですが…。あと意外なことに、2014年西日本新聞もこのグループに含まれました。
また2014年の琉球新報や神奈川新聞、中国新聞といった「投票」の大切さを訴える社説はグラフの左のほうに固まりました。また、ここ3年の毎日新聞は、若い世代の「関係の狭さ」や自己のありかたを問題視する傾向があり、そのためかなり近いところに固まっています(ついでに、毎日の3年分の近くに配置された2012年信濃毎日新聞も同じような内容だったり)。
成人の日の社説というと、「どうせ若い奴は誰も読まない」とか言われますけど、成人の日の社説は、むしろ若者論の現状を示す指標としては大いに役立つものであると考えます。単語レベルでも、現在の傾向、そして将来見られるであろう傾向がある程度示されているのだと思います。是非とも「分析の対象」としての成人式報道や、成人の日の社説というものの重要性に、目を向けてくださいますと幸いです。
提出したコメント(番組サイト掲載ぶんは少し修正されています)
・総評
「成人の日の社説は当時の若者論の反映である」という考えは揺るがなかった。若い世代の「安定志向」を前提にした「緩やかな若者擁護論」的な傾向は昨年から続き、「さとり世代」という表現も見られた。しかし成人の日こそ、若者論という枠組みそのものに疑問を投げかけるようなものを期待したい。
・読売新聞「堅実さと柔軟な発想求めたい」
若い世代に「奮起」を促す内容で、成人の日の社説としてはここ20年来の伝統的なものと言える。ただ、この社説のように安直に「先進的な若者」を礼賛することは、むしろ「先進的でない若者」への批判を強めてしまう懸念がある。
・朝日新聞「成人の日に―逆境をチャンスに変える」
「ふくしま復興塾」の紹介。若い世代による「先進的」な取り組みを紹介するものでも、安直な礼賛ではなく、地域のつながりまで掘り下げて紹介したことは評価したい。ただ最後のほうで「拡大主義とは違った価値観」とまとめてしまうのは、「地域に根ざした取り組み」への評価として適切ではないだろう。
・毎日新聞「成人の日 「いいね」だけでいい?」
若い世代にたいして「広い情報・視座に触れよ」という内容になっているが、それはメディア自身にこそ投げかけられるべき内容であり、成人の日の社説の「祝辞」的なものとして適切かどうか。和合亮一の誌が紹介されているが、むしろ、若い世代にとって身近な雇用の問題を扱った方がいい。
・産経新聞「「仮免」の今は大いに学べ」
「徒弟制度のあった過去とない現在」を比較して現在の20歳は「仮免」であると述べるものの、若い世代の就業について、どちらかと言えば悪い方向を採り上げて、「過去」を理想化するような議論は、本当に「社説」として行うべきものなのか、大いに疑問である。
・日本経済新聞「若者たちの「外向き志向」を生かそう」
他紙がもっぱら「内向き」「さとり世代」と述べる中で、敢えて若い世代の「外向き」志向についてデータなどを交えて紹介し、安直な若者論を戒めている。このような社説は昨年の朝日新聞にも見られたが、成人の日こそ、メディアや社会の「若者」への視点を問い直すという試みは大いに評価したい。
・東奥日報(2014年1月12日)「未来を切り開く気概を」
地方紙にありがちな「箴言」系の社説(採り上げられているのはやなせたかしと谷川俊太郎)で特に採り上げるべきところはない。
・岩手日報「羽ばたこう「幸せ」世代」
若い世代は「自分は幸せ」だという評価をしているとし、それを肯定的に紹介する内容。だが、このような世代論も、バッシング系の世代論の表裏一体でしかないことには注意を促しておきたい。今回見た社説で最も現在の「若者論の気分」を反映しているものかもしれない。
・神奈川新聞「1票の重さ心に刻もう」
選挙の重要性を若い世代に説くのは成人の日の社説としてここ20年来伝統的なもの。だが《例えば徴兵制が導入されるかもしれない。その時、あなたは戦争に行く覚悟はありますか?》という「脅し」的な文言が唐突に現れるのは政治不信を若い世代に押しつけたい欲望が透けて見える。
・中日新聞「カンタ!大人の歌を」
中日新聞お得意の映画(ないし文学)の紹介。特筆すべきものはない。
・神戸新聞「挑戦を後押しする社会に」
若い世代の「苦境」に理解を示し、「安定志向」を問題視するものの、全体として薄味。
・山陽新聞「「さとり世代」の皆さんへ」
「さとり世代」という、安直な世代論をもって若い世代の特徴を「説明」してしまうような議論はまず問題ではないか。《皆さんが育った時代背景を正しく理解することは、上の世代にとっても必要なことだ》というが、そもそもの世代論の枠組みそのものを問い直すような議論がほしい。
・西日本新聞「閉塞感破れ「さとり世代」」
岩手日報や山陽新聞と同じような世代論に基づく社説。山陽より問題点は薄いものの、途中に増税志向的な文言が見られるのは減点対象。若い世代を特殊化したあとに「時代を切り拓くのはやはり若者である」というのも「若者」幻想の投影でしかないだろう。
・琉球新報「沖縄の未来 共に築こう」
沖縄の雇用に関するデータや普天間飛行場問題など、地方紙としての問題意識に特化した、いい意味で地方紙らしい社説と言える。
サークルペーパーのために加筆
・中国新聞「18歳成人 若い意思反映させよう」
全国紙・地方紙含めて珍しく、成人年齢の引き下げについて言及したもの。その意気はよしとしても、主に若い世代に対して「考えろ」というのは社説としての役割をはたしているか疑問。むしろ社会の側に若い世代への見方を改める提言をしたほうがよかったのではないか?
【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第42回:【思潮】「若者の右傾化」はなぜ問題視されるようになったのか(2014年2月5日配信予定:「海ゆかば2」「コミティア107」のサークルペーパーとして配信します。)
第43回:【科学・統計】センター試験国語で若者の言語能力は測れません!(2014年2月15日配信予定)
第44回:未定(2014年2月25日配信予定)
【近況】
・「コミックマーケット85」新刊の『統計同人誌をつくろう!――調べて、分析して、書きたい人のために』『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム――市民のための統計学Special2』が、メロンブックス・とらのあな・COMIC ZINにて委託販売中です。詳細は各同人誌の情報ページをご覧ください。
『統計同人誌をつくろう!』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717450615.html
『改訂増補版 紅魔館の統計学なティータイム』情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11717449750.html
・「海ゆかば2」新刊の『提督のための統計学――艦隊決戦統計解析論序説』の予約がメロンブックスにて受付中です。
情報ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11755408226.html
サンプル(pixiv):http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41109949
予約ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001070288
・「こみっく☆トレジャー23」にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月19日(日)
開催場所:インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)
アクセス:大阪市交通局南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩3分程度
スペース:5号館「ケ」ブロック14a
・「海ゆかば2」(艦隊これくしょんオンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年1月26日(日)
開催場所:大田区産業プラザPiO(東京都大田区)
アクセス:京急本線・空港線「京急蒲田」駅より徒歩3分程度
スペース:「う」ブロック37
・「コミティア107」にサークル参加予定です。
開催日:2014年2月2日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩すぐ、東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩3分程度
スペース:「S」ブロック26b
備考:二次創作関係作品を頒布しません。また、商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』(日本図書センター)を頒布予定です。
・「東方紅楼夢9.5 遠野物語」にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月2日(日)
開催場所:あえりあ遠野(岩手県遠野市)
アクセス:JR釜石線「遠野」駅から徒歩10分程度/釜石自動車道「宮守」インターチェンジから車で30分程度
スペース:未定
※JR釜石線「遠野」駅は、東北新幹線「新花巻」駅から快速列車で40分程度、普通列車で1時間程度。
・「幻想郷フォーラム2014」(東方Project情報・評論系オンリーイベント)にサークル参加予定です。
開催日:2014年3月30日(日)
開催場所:名古屋市国際展示場(ポートメッセなごや)(愛知県名古屋市港区)
アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線「金城ふ頭」駅より徒歩5分程度/伊勢湾岸自動車道「名港中央」インターチェンジより車で5分程度
スペース:未定
・日本図書センターより5年ぶりの商業新刊『「あいつらは自分たちとは違う」という病――不毛な「世代論」からの脱却』が刊行されました。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。
Amazon:http://www.amazon.co.jp/dp/4284503421/
楽天ブックス:http://books.rakuten.co.jp/rb/12468953/
(2014年1月25日)
奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第41回:【思潮/科学・統計】2014年成人の日社説分析速報
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2014(平成26)年1月25日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
著者ウェブサイト:http://www45.atwiki.jp/kazugoto/
Twitter:@kazugoto
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個人:http://www.facebook.com/kazutomo.goto.5
サークル:http://www.facebook.com/kazugotooffice
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