後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ

第25回:【政策+科学・統計】青少年政策の発言分析(予告編)

2013/07/25 23:20 投稿

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後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
第25回:【政策+科学・統計】青少年政策の発言分析(予告編)

さて、今回のブロマガは、予定を変更して、「コミックマーケット84」(2日目)で第2新刊として出す予定の同人誌の予告編を配信いたします。第1新刊のフリーソフト「R」解説本『R Maniax』は既に製作を終了しており、通販予約もメロンブックスにて受付中ですが(詳しくは近況参照)、夏コミではさらに、第2新刊として『都条例メディア規制の形成――平成日本若者論史8』(仮題)という同人誌を刊行する予定です。

同書は、2009年から2010年にかけて行われた、東京都の第28期「青少年問題協議会」の専門部会の議事録に対してテキストマイニングを行い、2010年に提出され、「非実在青少年」なる概念が話題になった東京都青少年健全育成条例の改正案や、その後再提出されて可決された同条例の改正案の形成に強く影響を与えたと考えられるこの協議会においてどのようなことが語られたかを検討する同人誌です。この協議会については、同条例の改正案の提出前から、人選や発言が主にネット上で話題になっており、特に「誕生学」なるものの創設者である大葉ナナコは条例案に反対する人をさも精神に異常があるかのように決めつけたりしたことなどが問題視されました。

今回の同人誌は、この協議会の発言を統計的に解析し、東京都の青少年政策の形成過程において小さくない位置を占めているこの協議会においてどのようなことが論じられたかを統計的・定量的に解析し、協議会の議論の性質を解き明かそうというものです。私もこの分析を進めるにあたって、協議会における多数の問題ではないかと思われる発言に遭遇しましたが、それらの発言は協議会全体の中でどのような地位を占め、また誰によって発せられているのかや、あるいは協議会の人選に問題がないかを裏付けることにより、青少年政策の現在に対して一石を投じられるのではないかと考えております。
第28期東京都青少年問題協議会:http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_seisyokyo.html

分析に際しては、議事録を発言毎にテキストファイルにし、形態素解析ツールを用いて分析を行います。形態素解析にはフリーの形態素解析ソフト「MeCab」と、それをフリーの統計ソフト「R」上で動かすためのパッケージ「RMeCab」を使いました。このブロマガでは、予備分析として第1回の専門部会の議事録に関する簡単な分析を報告したいと思います。

第1回の発表では、東京都の青少年・治安対策本部(青山課長)による部会の方針についての説明が行われたあと、児童ポルノ問題の専門家として知られる後藤啓二(ちなみに後藤は協議会の名簿には入っていないのですが、部会にはほぼ毎回のように出席します。おそらく2010年の参議院議員選挙の出馬に際して協議会を脱退したものと考えられます)の発表、そして後藤の発表に関するやりとりが行われています。この青山と後藤、そして部会長で主に進行役を務めている前田雅英の3者の発言における単語を分析したものが表1となります。表1では、主に青山の発言に見られる単語、主に後藤の発言に見られる単語、両者の発言に見られる単語、そして前田の発言に特徴的な単語の3つに分けています。

これを見ると、青山の発言によく見られる単語は、「子ども」「情報」「青少年」「有害」「ネット」「フィルタ」などといった具合に、主に東京都の青少年政策や専門部会の方針を話すものとなっております。他方で後藤によく見られる単語としては、「児童」「ポルノ」「禁止」といった児童ポルノ及び関連法制に関する発言が多く見られますが、他方で「日本」「国際」などといった、後藤の従前の主張である「日本は児童ポルノ大国として国際的に問題視されている」というものがここでも発言されている様が裏付けられるわけです。また「民主党」が入っていますが、これは当時自民党が提出していた児童ポルノ禁止法の改正案に対して、民主党が修正案と出していたもので、自民党の案にあった「単純所持」が削除されていることを問題視したものでしょう(「単純」も「所持」も後藤が発した単語として特徴的に多くなっている)。
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次にN-gramという手法を使い、特定の単語のあとにどのような単語が使われているかを分析します(特に2単語の場合はバイグラム、3単語の場合はトリグラムと呼ばれる)。ここでは名詞・動詞・形容詞・副詞(あくまでもMeCabでの分類結果)を対象に、再び青山・後藤・前田の3者に対して特徴を見てみました。その中で注目に値するのが、後藤における発言の中で「被写体」-「する」-「れる」-「子ども」というつながりが6回も見られたことで、これも後藤が児童ポルノの「有害性」を主張する従前のロジックを用いていることの現れと言えるでしょう。
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今回は簡単な分析にとどめておきますが、同人誌全体では、このようにN-gramなどを用いたテキストマイニングを行い、発言者ごとの傾向や、あるいはトピック(単語)ごとに使われている単語の分析を行う予定です。

最後になりますが、この専門部会の副会長である加藤諦三について説明しておきます。加藤は精神科医として若年層に対する著書や発言も多く、若者論に関する著書もいくつか出しており、その認識は日本及び青少年が「劣化」したという認識に支えられています。また加藤は議事録ではまとめとして登場することも多いです。第1回部会での加藤の発言は1つだけですが、特徴的な傾向として、「傾向」という言葉が11回出てきますが、そのほとんどが下の引用文中のものです。

―――――
非常に難しいと思うのは、同性愛の場合でも、少女に対する性愛の傾向でも2つの意見があると思うんですけれども、1つは、健全な情緒的成熟をしていない結果であるというものと、もう一つは、そういうことではなくて遺伝的にそういう資質を持っていると。そこら辺のところで、僕はどっちだかよくわからないんですけれども、反対をする人たちに対しても、こういうことなんだよと。

非常に単純な一つの例で言うと、フロムが人間の傾向としてネクロフィラスな傾向とバイオフィラスな傾向と2つ対立していると。例えば、死体を見るとか、死体に関心があるとか、死のほうに非常に関心がある。ですから、ちょっと児童ポルノと違うかもしれませんけれども、ナチスの幹部なんかが死体を見て恍惚としていると。死体を見ること自体がエクスタシーだというようなものというのはあるわけです。そうすると、そういうネクロフィラスな傾向とバイオフィラスな傾向とある。人間はバイオフィラスな傾向のほうに成長しなければいけないんだ。これはみんなが納得しているかどうかは別として。
―――――

この引用文中では加藤は自分たちの方針に反対するものに対して《健全な情緒的成熟をしていない結果であるというものと、もう一つは、そういうことではなくて遺伝的にそういう資質を持っている》と述べており、最初から異常と決めつけており、なおかつ反対意見が出ていない(まとめだから出される可能性も低いという見方もあるかもしれませんが)ので、やはり加藤にしても、このような偏った認識で青少年問題を考えていると見なさざるを得ないと思います。

後藤啓二が報告しているとおり、この第1回部会のテーマは児童ポルノでした。第2回以降はしばらく携帯電話やSNSに関する話(蛇足ですが、第5回における携帯電話事業者やSNS事業者へのヒアリングは、最早後藤と新谷珠恵によるつるし上げと言ってもいいものです)になって、その後漫画の話に戻ることになりますが、この協議会で何が語られたのか、夏コミの第2新刊ではっきりさせたいと思います。

【今後の掲載予定:定期コンテンツ(原則として毎月5,15,25日更新予定)】
第26回:【思潮】東浩紀と「批評」市場の問題(2013年8月5日配信予定。「おでかけライブin山形111」のサークルペーパーとして配信します)
第27回:【科学・統計】ビッグデータ幻想/【書評】夏の書評祭り『自殺のない社会へ』『生活保護リアル』ほか(2013年8月15日配信予定。「コミックマーケット84」のサークルペーパーとして配信します)
第28回:【政策】現代学力政策概論(第1回:全国学力テスト)(2013年8月25日配信予定。「仙台コミケ209」のサークルペーパーとして配信します)
第29回:【科学・統計】レビュー系サイト・同人誌のための多変量解析入門(最終回:テキストマイニング)(2013年9月5日配信予定)
第30回:【思潮】「草食系男子」論とは何か(第3回:非モテ――「当事者」の語りとそれがもたらした爪痕)(2013年9月15日配信予定)

【近況】
・「おでかけライブin山形111」にサークル参加します。
開催日:2013年8月4日(日)
開催場所:山形ビッグウイング(山形県山形市)
アクセス:JR各線「山形」駅よりバス、またはJR奥羽本線・仙山線「羽前千歳」駅より徒歩20分程度
スペース:「H」ブロック08

・「コミックマーケット84」2日目にサークル参加します。
開催日:2013年8月11日(日)
開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区)
アクセス:ゆりかもめ「国際展示場正門」駅より徒歩3分程度、または東京臨海高速鉄道りんかい線「国際展示場」駅より徒歩5分程度
スペース:東館「R」ブロック19b

・「第9回東方紅楼夢」にサークル参加します。
開催日:2013年10月13日(日)
開催場所:インテックス大阪(大阪府大阪市住之江区)
アクセス:大阪市営南港ポートタウン線「中ふ頭」駅より徒歩3分程度、または大阪市営地下鉄中央線「コスモスクエア」駅より徒歩15分程度
スペース:未定

・本年9月中旬に、日本図書センターより5年ぶりの商業新刊が刊行されます。内容としては戦後の若者論の歴史をたどるものとなります。

・「コミックマーケット84」の第1新刊『R Maniax――フリーの統計ソフト「R」を使いこなす本』の通販予約受付がメロンブックスにて開始されました。また夏コミ当日にスペースでも頒布します。告知ページから書誌情報やサンプル(pixiv)を見ることもできます。
告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11575471627.html
メロンブックス予約ページ:http://shop.melonbooks.co.jp/shop/detail/212001063053

・「サンシャインクリエイション60」新刊の『「働き方」を変えれば幸せになれる?――平成日本若者論史7』のKindle版がリリースされました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00DKCYYJ8/

・「第10回博麗神社例大祭」新刊の『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』と『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』がメロンブックス、とらのあな、COMIC ZINで発売中です。またいずれも電子版もメロンブックスDLで配信中です。詳しくは告知ページをご覧ください。
『古明地さとりの自己形成論講義――市民のための「自己」をめぐる社会科学講座』告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524050938.html
『新・幻想論壇案内――東方Project系「評論・情報」コンテンツの新たな展開』告知ページ:http://ameblo.jp/kazutomogoto/entry-11524045526.html

(2013年7月25日)

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ・第25回「【政策+科学・統計】青少年政策の発言分析(予告編)」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年7月25日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
チャンネルURL:http://ch.nicovideo.jp/channel/kazugoto
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