後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ
【書評】第1回:和久井みちる『生活保護とあたし』

安倍晋三政権において、経済・金融政策に対して注目と期待が集められていますが、懸念事項も少なくありません。その一つが、生活保護を中心とした社会保障政策です。

特に生活保護については、昨年4~5月に、ある芸人の親族が生活保護を受給しているという一部週刊誌の報道と、それを煽った、片山さつきをはじめとする自民党の一部政治家の言動により、「不正受給」バッシングが起こり、「生活保護受給者の堕落した生活!」などとばかり主張したいような報道が続出。『週刊現代』に至っては、所謂「新型うつ病」と並んで、現代の「楽をしたい」という悪しき風潮として語られました。

しかし、実際には、生活保護は、受給までも高いハードルがたくさんあり、またそこからの脱却についても様々な困難が伴います。その点を本書はよく説明しています。著者や鬱病にかかって退職したあと生活保護を受給、現在は受給をしておりません。ただ、著者が福祉事務所に情報の開示を求めたところ、受給までの2週間の間に、なんと70ページほどにも及ぶ調査資料が出てきて、それだけ徹底的な調査が行われていたといいます。

さらに第3章では生活保護受給者の生活の様子が書かれており、低所得者ほど高コストな生活が強いられるばかりでなく《監視されている感》(p.66)にも晒されます。第4章にはケースワーカーの置かれた現状、第7章にはバッシング報道による悪影響について論じられており、読みやすい文章も相俟って、生活保護受給者の置かれた状況に関して、「こういうのもある」ということがよく書かれていると思います。

生活保護受給者に限らず、不利な状況に置かれた人を「既得権者」として歪んだ視線で採り上げてバッシングするという方法は、むしろ社会の不寛容さを増やしてしまう結果につながりかねません。そして残念ながら、このような態度は、一部の政治家や暴力的な「運動」、さらにはロスジェネ系の論客に至るまで見られます。そのようなことを、本書は認識させてくれます。

反面本書は、データがほとんど出てこない分、政策を考える際のツールとしての有用性が若干犠牲になっていると思います。この点に関しては、著者も関わっている生活保護問題対策全国会議『間違いだらけの生活保護バッシング』(明石書店)をおすすめしたい。他にも生活保護関連書籍としては、地域(北海道、特に釧路市)に特化したレポートなら本田良一『ルポ 生活保護』(中公新書)、学術的な研究なら阿部彩ほか『生活保護の経済分析』(東京大学出版会)がいいでしょう。

あけび書房、2012年12月、1,400円(税抜き)。

【今後の掲載予定:書評(不定期配信)】
第2回:浜田宏一『アメリカは日本経済の復活を知っている』講談社、2012年12月
第3回:山口智美ほか『社会運動の戸惑い』勁草書房、2012年10月
第4回:今野晴貴『ブラック企業』文春新書、2012年11月/出井智将『派遣鳴動』日経BP社、2010年5月
第5回:牧野智和『自己啓発の時代』勁草書房、2012年3月/漆原直行『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』マイナビ新書、2012年2月

奥付
後藤和智の若者論と統計学っぽいブロマガ「【書評】第1回:和久井みちる『生活保護とあたし』」
著者:後藤 和智(Goto, Kazutomo)
発行者:後藤和智事務所OffLine
発行日:2013(平成25)年2月25日
連絡先:kgoto1984@nifty.com
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