その25 武者修行が重なる。(後半)
待ち合わせた場所には腱引きの副代表もいた。副代表は元ボクサーでボクシングジムの現役トレーナーでもあり、腱引きを使って選手の能力を引き上げている。特に1分間のインターバルを有効に使って呼吸をする際に、使用する腱を上手に緩めて3分間のラウンドで上がった呼吸を元に戻し、次のラウンドを優位に闘えるように施術をするのが巧みで選手の信頼を得ている人なのだ。
怪しいおじさんが僕たちをみつけた。「おー」ってやたら元気に手を振ってる。それですぐに握手だ。何か外国人みたいだな。さっそく本題に入る。
「あのさ、俺のやり方は効果があるんだ。それをスポーツに広めようと思う。まずは格闘技の世界から始めようと思うんだ。格闘技の選手は頑張ってる割に可哀想だって思うんだ。鍛えてるくせに鍛え方を知らないから。身体の使い方も知らない。だから頑張って自分の身体を痛めてる。一番可哀想なのは自分でそのことに気がついてないこと。だから結果が出ないともっと頑張ろうって無理してもっと悪くなる。本当はやり方が間違ってるんだ。この意味分かるだろう? 分かると思ったから声をかけたんだ。俺さ、面倒くさいの嫌だから。一人で全部やるの疲れるし無理だろ? だから2人に教えるから手伝ってくれるかい?」
もちろん2人ともOK! それで気になっていた教えてもらう料金はタダだった。同じ目標に進もうってだけだった。それから半年が経った頃、怪しいおじさんと腱引きの代表から僕は兄弟団体になろうって言われた。その時に僕は施術は教えてなかったのに兄弟団体でいこうって言ってもらった。
兄弟の意義はお互いの技術を惜しまずに教えあう。自分一人で隠しても伸びしろはたかが知れている。それよりもお互いに教えあって、教えてもらったことに対して、お互いに工夫をしてまた教えあう。そのほうがより早く、より高い場所まで行ける。だからそうしようというのが三兄弟の約束となった。
だからお互いに教えあった。怪しいおじさんとは毎月一緒に勉強会をする。初めは学ぶ時間だった勉強会は、いつの間にか毎回誰かのやり方を順番に教えあう時間となった。怪しいおじさんはとても人格者なのだ。僕は一緒にいるといろいろと普段なら出てこないような新しい気付きが出てきた。それまでの僕と変わったのはこの出会いからなのだ。
「自分で考えてやって良いんだよ」
そうたったの一言をもらってから、どんどん新しい気付きがやって来る。僕は自由になったのだ。守破離の破の時期が来たのだろう。
伝統療法カンファレンスの原点は、“からだ会議”という日本全国で行っているイベントだ。主催者は怪しいおじさん。そこで毎回やっているトリートメントラリーと会場の雰囲気、そして集まってくる人々の魅力に感銘を受けた腱引きの代表が始めたのが伝統療法カンファレンスなのだ。
秋のからだ会議で僕は初めてトリートメントラリーに参加した。春とはだいぶ自分の心が変わっていた。やりたくてしょうがないのだ。観衆の前で誰もやらないような施術を行い、効果を鮮やかに出す。これが楽しいのだ。何年も正座できなかった膝を僕は数分で改善した。観衆が驚くのが楽しかった。怪しいおじさんと腱引きの代表もそこにいた。改善してから2人を見たら笑って頷いてくれた。
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