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【平直行「東方武術見聞録」】その22 合気と気合。(後半)

2014/11/14 16:35 投稿

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その22 合気と気合。(前半)

人の咄嗟の反応を武術では研究し、磨き上げた。人の心理や行動のデータを集め、心理や行動を自由に操る。これが武術と武道との大きな違い。人は真剣であればあるほど目の前の出来事を観察し、観察したデータに沿って行動をする。人の心理と行動のデータから、心と身体をいかに動かすのか、現代から想像もできないものが武術の術だ。


物を投げれば人は咄嗟にそこに目を向ける。投げた物を無視するという心理と行動は人間にはない。だから殴る前に、あるいは切りかかる前に物を投げる。物をぶつける必要はない。よく見えるように正面に投げれば良い。そこに目を奪われた一瞬の隙に他のことをすれば、相手は不意を突かれたことになる。


暗殺者である忍者は、闇夜(暗殺とは闇夜で行う)で敵に出会った場合に、咄嗟に刀を相手にぶつけるように振る。わざと敵が刀で避けられるように刀を口伝に従い振る。闇夜で金属同士の刀がぶつかれば、一瞬火花が散る。相手の目はホンの一瞬だけそこに奪われる。その隙に忍者は逃げる。


暗殺者とは正々堂々と相手と向き合わない。相手の隙をつき、ただ相手を殺せば良いだけなのだ。何も襲われて正々堂々と刀で切り合う必要などないのだ。そんなことをすれば、愚か者と笑われてしまうのが忍者なのだ。


火花が散る一瞬の隙に巧みに逃げた忍者は、その後相手を静かに尾行する。決して気がつかれないように尾行する。相手の住処を突き止めたら、機を伺い相手に気がつかれないように命を奪う。これが忍者、暗殺者の闘い方。これを“石火の気”と呼ぶ。


こういった暗殺者に手を焼き苦労した武術家は、石火の気の発想を元に、“石火の間”という術を編み出すことに成功した。人が思わずとってしまう行動を調べ上げ、集めて研究したものが石火の間。火打石を打つ時にはホンの一瞬だけ火花が散る。その一瞬に相手の注意を引きつけ、その一瞬で事を成し遂げる。技を仕掛ける前には、石火の間を使い相手の意識をそらす。そらすというよりも相手の意識を自分以外に向ける。そこに武術の工夫と知恵がある。


意識が他に行けばどんな相手でも止まっている状態とさほど変わらない。止まっている相手は簡単に切れる。これが古流の知恵。人は相手の意識にも反応する。これも真剣であればあるほど大きく反応する。


合気と気合、そして全身を筋単位で動かす鍛錬を重ねると、身体中に神経が行き届くように変わる。意識を操るレベルが常人とは全く違ったものに変わる。その結果、複数の意識を同時に動かすことが出来るようになるのだ。


人は相手の動きを見て反応する。レベルが高くなれば動きの前の意識の変化を感じて反応する。クロスカウンター等の高度な技術は、目の反応だけでは間に合わないのだ。


人は周囲の意識に反応する。例えば電車で隣の人が眠れば、引っ張られるかのように眠くなったり……。何も言わないで見ている物を一緒に見たりもする。真剣勝負であれば相手の意識にまで細心の注意を払うものなのだ。


だから武術家は動きだけでなく、意識でも相手を騙す術を持つ。目に見えるパンチやキックのフェイントのように意識を動かし相手を騙す。これは常人には難しい。人は意識に反応する。だから打つ事を止めれば相手も動きを止める。そのままでは動きを止めた相手の次の動きに反応ができなくなるから、絶対に動きを止める。



 

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