その5 武術の術とは?(前半)
武術は「武」に「術」が、武道には「武」に「道」が付く。「術」って一体どんな意味なんだろう? 「道」は? 「術」が付く言葉は他にもある。医術、軍術、測量術、算術、魔術、幻術なんていう言葉もある。
漢字は大陸で生まれた。漢字を生んだ大陸の術にはこんな意味がある。術とは本来まじないの意味合いを持ち、進むべき道を照らす指針の意味も持っているそうだ。
まじないとは何かを始める際にかける祈りのようなもの。これから始めることの成功を祈り、まじないをかける。まじないをかけたら進むべき道を進む。道を進む際には迷わず目的地に着くための地図が必要になる。「術」には地図の意味合いもあるようだ。
そして、かけたまじないを成功させるための具体的な手法が「術」だったりする。医術とはいかにして患者を治すかという術。患者を治すには正しいやり方が必要になる。術とは方向を指し示す地図。医術においての地図とは治療の方法といえるだろう。
例えば風邪を引いたらこの薬を飲ませるとか。頭痛がしたらこの薬を飲ませて、それから安静にさせて食事はこれを食べたら良い……などの具体的な対処のやり方が医術の術だ。
算術なら計算の公式が術。1+1=2とは人間が作った数の術。1+1=大きな1でも本当は間違っていないのかもしれない。人が数に術をかけて自分たちが一番使いやすい数字の公式を形にしたものが算術の術なのだ。
武術の術も同じく、武術の目的に従い進むべき方向を指し示す具体的な方法を武術の術という。術とは技のようで技とは違う。技術とは技を上手に使うことをいう。技だけではそこにあるに過ぎない。武術の武とは矛を収めると書く。だから争いごとをいかに収めるかの方法が武術の術なのだ。争いごとは話し合いで収まることもあれば、時にやむなく命を奪い合い収めることもあった。だから武術には体の鍛え方や闘う際の術がある。身体の鍛え方や闘い方にも奥深い術があるのが武道には無い武術の特色ともいえる。
武道も、もちろん身体を鍛えるが、武術の身体の鍛え方は現代から見れば荒唐無稽な方法で行う。身体の見えない部分を感じ、こと細かく動かすのが武術での身体の鍛え方。だからこそ小説の中に出てくるような荒唐無稽な技は、武術には当たり前のように存在した。術を知らない現代からすれば荒唐無稽で嘘のような技も、術を知り努力を重ねれば当たり前の技でしかないのだ。
医術を知らない人が手術を見たら、手術は悪魔の所業のようにさえ見えたりする。例えば盲腸で苦しむ患者を見て何も知らなければお腹をさすったりするかもしれない。でもそれでは何も変わらない。それどころか、そのうち症状が進んでどうにもならなくなる。医術があれば、医者が来て、麻酔をかけて手術をする。お腹をメスで切ったら痛いに決まっているのに、麻酔のお陰で痛くない。これだけで術を知らなければ神様みたいだ。そしてメスでお腹を切り開く。何も知らなければ殺しているようにも見える。ところが術を知って使えば、手術は無事に終わり、患者は健康に戻る。
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