もともとその程度のリテラシーしか持ってない言論空間なんで、そこでいちいち反論してもキリがない話。いつかわかってもらえるんじゃないかと
上杉 僕はタイガー・ジェット・シンを見て育った世代なので、最近のプロレスのことはまったく存じあげません。
山口 いきなりシンの名前が出てくるのが、非常にいい感じです(笑)。でもご心配なく。僕らも最近のことはまったく知りませんから。
柳沢 上杉さんはいまネット上でメチャメチャ叩かれてますが、まあ、生命力が強いというか面の皮が厚いというか、メゲずに頑張ってるなあと思うんですけど(笑)。
上杉 叩かれてるといってもリアルに叩かれてるんじゃないので。ジャーナリストとしてフリーになったのが2001年。
最初は石原慎太郎さんを取材、田中真紀子さんの取材をしてたんですけど、その時の叩かれるっていうのは、本当に叩かれるんですよ。家にイタズラ電話が掛かってくる、針を送ってくる、家の前で待ち伏せされる、罵倒される。そういうことを経験してるので。
その後、官房機密費や東京地検特捜部の問題について書いたりしたので、それこそ公権力から睨まれて。この頃から電車には乗ってないですし。
柳沢 痴漢の冤罪が怖いからですね。
上杉 だから、ネットとリアルでは叩かれるレベルが全然違うんですよね。
柳沢 なるほど。
山口 勉強になります。
上杉 ネット空間でいくら叩かれても、自分の生活にはなんの関係もないです。例えばTwitterは、アウトプットはサービス、インプットで自分の得たい情報を得るものですけど、タイムラインをそういう情報だけに設定しちゃえば、基本的にエゴサーチをしない限り見ることはないんです。
だから架空の炎上。ただ、架空の炎上でもそれを見て信じた人がテレビや公演先に「なぜあんなヤツを出すんだ!」と抗議をして、それでテレビ出演や講演が中止になるというのは、ここ1~2年は多くなりましたね。
それはまさにリアルの世界にまで影響が出てることですが。もともとその程度のリテラシーしか持ってない言論空間なんで、そこでいちいち反論してもキリがない話。
いつかわかってもらえるんじゃないかと。そういう感覚なので、一般の人よりは炎上耐性が強い、というのが自己分析ですね。
柳沢 ネット上でいろいろ言われてることに関しては、あんまり関与しないというスタンスなんですね?
上杉 ええ。もともとはいっさい無視してました。ただ、一つだけこれはダメだなと思って放置しなかったのが、池田信夫さんが「上杉は盗用をした」と。
これは調べたらわかったんですけど、2ちゃんねる情報だったんです。僕に関する嘘とかデタラメ、そんなのはいくら書かれてもいいんです。
ただ「盗用した」となるとジャーナリストとして終わりなんです。剽窃と盗用はジャーナリストとして一発でアウトなんです。
だから、この件に関してはちゃんと反論しておかなきゃいけないなと思って、訂正してくれと言ったんですけど、してくれなかったんで訴訟を起こしました。
柳沢 訴えてるわけですから、この件はガチンコなんでしょうけど。上杉さんを見てると、「これ、プロレスなのか!? ガチンコなのか!?」みたいなことが多くて、僕らはそれをエンターテイメントとして楽しんでる部分があるんですよ(笑)。
上杉 池田信夫さんは、炎上させて楽しんでる人だから。町山智浩さんもそうですけど。
僕に対してもプロレスとしてやってきてるのかと思いきや、けっこう本気みたいなんで。「どうしちゃったんだろう!?」と思ったのが実感です。
柳沢 なるほど。
山口 上杉さんから見ると、どうかしてるなぁ、と(笑)。
上杉 僕から彼らを批判したことは一回もないんですよ。実は茶化してるだけで。というのは池田さんの仕事にも、町山さんの仕事にも、何の興味もないんで、はっきり言って。
彼らが何を言おうと、何を書こうといっさい気にしないです。でも彼らは僕のことに物凄く興味を持ってるみたいで。
何かあるといちいち言ってくるんで、まあ、大変だなあと。
柳沢 そういうこと言うとまた怒られますよ(笑)。
山口 でも、いいですね。その調子で行ってください(笑)。
上杉 日本のいまのネットのニュースが、4年前ぐらいのアメリカの状況に近くて。情報が、確証のあるもの、ないもの、なんでもありの状況になっちゃうんです。
いま僕は「DAILY NOBORDER」というニュースサイトを運営してますけど、ここはジャーナリストの人にしか書かせないんですね。
なぜジャーナリストにこだわるかというと、アメリカでネットのニュースサイトがたくさん出てきた時に、評論家や政治家とかの記事を載せたんですね。彼らは取材してるわけじゃないから、自分の思いで書くわけです。それこそネット上の情報だけを基にしたりして。
そうすると全然、事実と違うことを書いて、後で訴訟になって大混乱しちゃったりして。それで「ハフィントン・ポスト」は自前で記者を雇って、きちんと取材したニュースだけを提供するように方針を変えたんです。
そういうことをいま日本のネットニュースに関わってる人たちは知らないから、「それはマズいですよ」とずっと警告してるんですけど。
いまの日本は「ハフィントン・ポスト」が良くなる前の状態。そこから早く次の段階に進むために、実例を示さなければならない。誰かがやらなければならない。
不本意ながら、そういう意味では池田さんとのプロレスですね。ただ、「盗用と言ったことは許さない」という点に関してはガチンコです。
柳沢 なるほど。
山口 勉強になります。
上杉 裁判になった時、日本では立証責任が訴えられた側にあるんですよ。これは世界的に見ても珍しい。
外国の場合は、訴えた側が、この記事のここが間違ってるという事実をどんどん出して立証していかなければいけない。
ところが日本では訴えられた側が、その記事がいちいち正しいことを立証していかなきゃいけない。
だから、政治家がとりあえず雑誌を訴える。そうすると雑誌側がいろいろ準備をしなくちゃいけないから大変で。記事が正しいことを立証するためには、最終的に情報源というものにぶつかりますよね。
でも、それは簡単に明かせない。だったら負けますよね。
池田さんを訴えてみて「原告ってこんなにラクチンなんだなあ~」と思ったら楽しくなっちゃって(笑)。
柳沢 いいですね。そのカチンとくる言い方(笑)。
メディアという日本で最強の既得権益に突っ込んで行ってるんだから、これぐらいの返り血は最初から想定してるんで。いくら炎上しても余裕、みたいな感じなんです
柳沢 上杉さんは、日本のメディア・リテラシーを高めるための活動をずっとしてきてると思うんですけど。
我々の価値観で言うと、例えば新聞。「東スポと朝日新聞って何が違うんだろう?」とガキの頃から思ってて。
上杉 東スポの方がジャーナリズム性は高いですよね。
柳沢 まあ、そういう見方もあります(笑)。
上杉 僕は、「ニューヨーク・タイムズ」はニューヨークの東スポだとずっと言ってきたんですけど。
それはどうしてかというと、基本的に自主規制がない。さまざまな分野を扱える。それから署名で書いた原稿に対する権限が非常に大きい。これは東スポとアメリカの新聞と一緒なんです。
ところが朝日新聞は、官僚の広報誌だし、上司がチェックしないと載らない。記事を書いた人の個人の名前をいまはだいぶ載せるようになりましたけど、10年前までは載せてなかった。
そういうものを欧米ではジャーナリズムって言わないんですよ。ワイヤーサービス(日本でいうと共同通信や. 時事通信のような通信社のこと)に近いもので。それだったら“ジャーナリズム”と言わないで、“メディア”と言った方がいいんじゃないかと。
そういう意味でメディア性が圧倒的に高いのは朝日新聞ですけど、ジャーナリズム性が高いのは東スポという結論ですね。
柳沢 東スポで連載してましたよね?
上杉 やってます。「永田町ワイドショー」という藤本順一さんとの対談。もう7~8年やってるかなあ。よく高級紙と大衆紙って分けるじゃないですか。
これは呼んでる読者層が違うだけで、書く側からしたら東スポに書こうが朝日新聞に書こうが一緒なんですよ。
でも、日本は媒体に合わせた原稿を書く、発言をする。それが不健全。NHKならNHK寄りの発言をする。そうやってメディアを権威付けしてしまう。
僕は媒体によって書くことも発言も変えないので、だからこそそのメディアにとって都合の悪いことも多々出てくるんじゃないかと。
柳沢 いま「朝日新聞は官僚の広報誌だ」って言ってましたけど、それをより広く世間に伝える方法、仕掛けってどう考えてるんですか?
上杉 自分の役割として、もうずいぶんやってきましたから。「DAILY NOBORDER」は僕にとっては6個目の仕掛けなんですけど。
柳沢 6個目?
上杉 僕が議員秘書をやっている時に、記者クラブというものを便利なシステムとして使ってたんですよ。ある情報があったら、それをポンと記者クラブに投げれば記者が集まって来る。
そういう情報を流してる見返りに、何かスキャンダルがあったら教えてくれて、記者会見が開かれたとしても安全な質問しかしてこない、それで幕引きにする。雑誌やフリーの記者が来たら「この件はもう終わりました」と。
記者クラブにはアラート機能、防御機能、こちらのプラスになるニュースを作る機能があって、権力側にとっては本当に都合がいいんです。うまく使えばこんないいものはない。
柳沢 なるほど。
山口 勉強になります。
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