1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜
この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。
●第10回 / 2004年(中編) モンスター路線に拍車。ボビー参戦!
猪木さんの口癖じゃないけど、大晦日の格闘技イベントで大切なのは、いかに「世間」の注目を集めるかということです。第1回目の「猪木軍 vs K-1」、第2回目の「ボブ・サップ」「吉田秀彦」、第3回目の「曙参戦」というのは、まさに“世間”を意識した仕掛けでした。大晦日のみ、僕は通常の格闘技イベントのような感覚では、やらないように意識していたのです。
それこそ、僕個人は大晦日は格闘技にさえ、こだわっていなかった。たとえば2004年のこの当時、TBSの人に「Dynamiteで高橋尚子と野口みづきのマラソン対決をしたらどうか? 今、日本人が最も見たいのは、この2人の対決じゃないの?」と、提案したことがあります。さすがにTBSの人は「谷川さん、格闘技で考えてくださいよぉ」と、却下されましたが。
そういうイメージが常にあったところ、たまたま見たのがTBSの『さんまのからくりTV』の特番でした。そこでは僕が今年、曙と大晦日に闘わせようとしていたホイス・グレイシーが、番組内で売り出している変な外人タレントとグラップリング対決をしょうとしている。それが、まだ当時はそれほど全国区ではなかった、ボビー・オロゴンでした。
いやぁ、驚きましたねぇ。ボビーの身体能力は、下手なプロ格闘家より、よっぽど優れている。一本負けは喫したものの、ホイスを本気にさせ、大流血させたのです。試合後のホイスの目は明らかに「騙された。こいつ、素人じゃないじゃないか。そんなヤツとテレビの出演料だけで闘わせやがって」という、顔をしていました。
「これは面白いな」
僕はさっそくTBSの人を通じて、『からくり』のプロデューサーと接触してみました。「ボビーを本気で格闘家にしたい」「大晦日にぜひ試合を組みたい」「その大晦日までのドキュメントを『からくり』でずっと追っかけて、番組でプロモーションしてほしい」。そういうお願いをしたのです。
TBSにとって、大晦日の格闘技イベントはドル箱イベントだったので、この企画は大喜びでした。『からくり』にとっても、ボビーを売り出すのに、願ったり叶ったりの企画です。そして、僕らにとっては、毎週日曜日のゴールデンタイムで高視聴率を取る『からくり』で、『Dynamite!!』を煽ってもらえることが、これ以上ないプロモーションとなります。なんと言っても、イベントはプロモーション勝負ですし、これで自然と世間に注目される。ホイスvsボビーを見て、「これだ!」と思いましたね。
そして、ボビー本人と事務所の社長を口説いて、出場の合意を取り付けました。これは本当にうまくハマりました。もちろん、この手の企画は業界内の反発も大きいでしょう。「なんで、神聖な格闘技のリングにお笑いタレントなんか出しているんだ」と。だから、やるからには、なんとしても成功させなければなりません。そのためにやらなければならないことは、いっぱいありました。
まず、『からくり』の煽りとは別にして、ボビーに本気でトレーニングをさせ、真剣さを見せることが重要でした。そして、試合についても、ボビーを優遇しているような楽な相手を選んでは絶対にダメ。ある意味、格闘技ファンはボビーがボコボコにされるのを見たいのです。しかし、ボビーがボコボコにされたら、単なる残酷ショーになりかねない。それも、主催者としてはやってはいけないこと。できるだけ名前のある選手に、ホイスとのグラプリング・マッチのように大健闘している姿を見せつけ、「やるなぁ」というところを見せつけることが重要です。もっと言えば、ボビーが勝った方が、大番狂わせでイベント的には盛り上がるのです。
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