最近ドラッカーの本を読み直していて、面白い記述を見つけた。
それは、「医学が進歩すればするほど、健康について思い煩う人が増えた」というものだ。
世の中は、しばしば想像とは逆の事態が巻き起こる。医学が進歩し、それについての意識が高まったがゆえに、逆にまた心配も増えてしまったのだ。
仕事についても、それがいえるのではないか。
仕事は、テクノロジーの進歩で、以前に比べて格段に便利に、やりやすくなった。それゆえ、逆に仕事に思い悩む人が増えてしまった。どう仕事をすればいいのか分からなくなったり、あるいはそもそも仕事をするべきかしないべきかで思い悩む人まで現れるようになった。医学の進歩が人々の健康不安を増大させたように、テクノロジーの進歩が人々の仕事不安を増大させたのだ。
では、仕事不安が増大して何が問題となったのか?
人々は、仕事の何に不安を感じているのか?
それは、社会の中での「居場所」ではないだろうか。
テクノロジーの進歩で、仕事がやりやすくなった。しかしそのおかげで、それまで仕事にあった「居場所」が減退してしまった。そうして、仕事に対する不安が増大するようになったのだ。
人間というのは、ほとんどデフォルトで「社会的な生き物」である。まだ言葉も話せない赤ん坊でも、社会的に振る舞う。母親と駆け引きしたり、兄弟を牽制したりするのだ。
そういう社会的な生き物である以上、必要としているのは「社会とのつながり」である。もっというと、社会の中での「居場所」である。社会の中で、自分が何らかの役割を果たせているという実感が必要なのだ。自分が社会の中で必要とされているという確信を、人は欲しているのである。
そういう確信が、テクノロジーの進歩で揺らいでしまったのは、ある種必然のことだったのかも知れない。
以前、テレビの経済番組で放送されていたのを見たのだが、ヨーロッパで開発された工作機械の特許が切れ、安いコピー品が出回るようになった。おかげでそれを導入することができたとある中小の製造会社では、これまで人間3人でやっていた仕事を、その機械1台で賄えるようになったというのだ。おかげで、3人分の人件費を浮かすことができた――と、経営者は満足げに語っていた。
しかし冷静に考えると、「3人分の人件費を浮かす」というのは、3人をクビにする――ということである。ただその番組では「クビではなく他の仕事に回ってもらった」と説明していたが、いずれにしろ、その3人の「居場所」が失われてしまったのは確かだ。その3人の社会とのつながりが、そこでばっさりと断ち切られてしまったのである。
そういう現象がそこここで起きているのが、今の日本の職場環境に混乱を招いているのだと、ぼくは思っている。ブラック企業が増えたのも、このことに理由の一端があるのではないだろうか。
ブラック企業は、接客業に多い。例えば居酒屋などは、ブラック企業化しやすい側面を持っている。
なぜかというと、居酒屋の仕事には人々が欲してやまない「居場所」があるからである。そこでは、他の仕事では得られない、社会とのつながりを得ることができるのだ。
どういうことかというと、居酒屋は接客業なので、お客さんが目の前にいる。そして、目の前のお客さんにサービスをすると、ほとんどの場合で良いリアクションが返ってくるのである。酒の席ということもあり上機嫌な人が多いので、笑顔や、ねぎらいの言葉を得ることができるのだ。
それが、そこに働く人々に代え難い「居場所」をもたらす。「社会とつながっている」という実感を与える。彼らは、そこで「ここにいていいんだ」という安心感を覚えるのだ。
そして、「そういう安心感をもっと得たい」と思って、もっと頑張ってしまうのである。
そういう頑張る社員の行動原理に沿うように職場環境を設計していくと、必然的にブラック企業化してしまう。なぜなら、頑張れば頑張るほどお客さんの笑顔やねぎらいの言葉が得られるので、自然と過剰にサービスしたり、長時間働いたりということにつながってしまうからだ。そうしてやがて歯止めが利かなくなり、深刻な社会問題、労働問題へと発展するのである。
そうしたことから、現代において最も必要とされているのは、「健全な居場所の設計」ではないかと思う。人々が、社会の中で「役に立っている」という実感を得られたり、「ここにいていいんだ」という安心感を得られたりするような環境を作ることこそ、経営者に求められているのではないだろうか。それこそ、これからの企業に最も求められていることではないかと思う。
これからの経営者には、従業員の「居場所設営スキル」が求められるだろう。
そのスキルを伸ばすためには、何が必要か?
ぼくは、次の3つだと考える。
1「従業員の能力を見抜く力」
その人が社会の中で自分を活かせる長所を見抜く力が求められる。それを見抜けないと、その人に満足な居場所を与えることができない。
2「社会の欲求を見抜く力」
今の世の中は、テクノロジーの進歩によって変化が本当に激しくなった。それに連動して、社会の欲求も日々刻々と変化している。そのため経営者には、そうした変化に対応し、社会の新しい欲求というものを随時見抜いていく力が必要とされる。
3「時代の変化を先読みする力」
そうはいっても、変化に対応ばかりしていたのでは疲弊してしまう。そのため、ある程度時代の先を読んで、その中で長続きするスキルや欲求を見つけ出し、仕事を設計していく必要があるだろう。
この、「居場所設営」を軸とした会社経営は、ぼくが作った会社「源氏山楼」の経営指針の一つでもある。そこでは、働く人々に居場所を設けることが主眼となっている。
源氏山楼
その様子を、YouTubeチャンネルでも随時ドキュメンタリーしていくので、よければ見守っていただきたい。
HuckleTV/ハックルテレビ - YouTube
それは、「医学が進歩すればするほど、健康について思い煩う人が増えた」というものだ。
世の中は、しばしば想像とは逆の事態が巻き起こる。医学が進歩し、それについての意識が高まったがゆえに、逆にまた心配も増えてしまったのだ。
仕事についても、それがいえるのではないか。
仕事は、テクノロジーの進歩で、以前に比べて格段に便利に、やりやすくなった。それゆえ、逆に仕事に思い悩む人が増えてしまった。どう仕事をすればいいのか分からなくなったり、あるいはそもそも仕事をするべきかしないべきかで思い悩む人まで現れるようになった。医学の進歩が人々の健康不安を増大させたように、テクノロジーの進歩が人々の仕事不安を増大させたのだ。
では、仕事不安が増大して何が問題となったのか?
人々は、仕事の何に不安を感じているのか?
それは、社会の中での「居場所」ではないだろうか。
テクノロジーの進歩で、仕事がやりやすくなった。しかしそのおかげで、それまで仕事にあった「居場所」が減退してしまった。そうして、仕事に対する不安が増大するようになったのだ。
人間というのは、ほとんどデフォルトで「社会的な生き物」である。まだ言葉も話せない赤ん坊でも、社会的に振る舞う。母親と駆け引きしたり、兄弟を牽制したりするのだ。
そういう社会的な生き物である以上、必要としているのは「社会とのつながり」である。もっというと、社会の中での「居場所」である。社会の中で、自分が何らかの役割を果たせているという実感が必要なのだ。自分が社会の中で必要とされているという確信を、人は欲しているのである。
そういう確信が、テクノロジーの進歩で揺らいでしまったのは、ある種必然のことだったのかも知れない。
以前、テレビの経済番組で放送されていたのを見たのだが、ヨーロッパで開発された工作機械の特許が切れ、安いコピー品が出回るようになった。おかげでそれを導入することができたとある中小の製造会社では、これまで人間3人でやっていた仕事を、その機械1台で賄えるようになったというのだ。おかげで、3人分の人件費を浮かすことができた――と、経営者は満足げに語っていた。
しかし冷静に考えると、「3人分の人件費を浮かす」というのは、3人をクビにする――ということである。ただその番組では「クビではなく他の仕事に回ってもらった」と説明していたが、いずれにしろ、その3人の「居場所」が失われてしまったのは確かだ。その3人の社会とのつながりが、そこでばっさりと断ち切られてしまったのである。
そういう現象がそこここで起きているのが、今の日本の職場環境に混乱を招いているのだと、ぼくは思っている。ブラック企業が増えたのも、このことに理由の一端があるのではないだろうか。
ブラック企業は、接客業に多い。例えば居酒屋などは、ブラック企業化しやすい側面を持っている。
なぜかというと、居酒屋の仕事には人々が欲してやまない「居場所」があるからである。そこでは、他の仕事では得られない、社会とのつながりを得ることができるのだ。
どういうことかというと、居酒屋は接客業なので、お客さんが目の前にいる。そして、目の前のお客さんにサービスをすると、ほとんどの場合で良いリアクションが返ってくるのである。酒の席ということもあり上機嫌な人が多いので、笑顔や、ねぎらいの言葉を得ることができるのだ。
それが、そこに働く人々に代え難い「居場所」をもたらす。「社会とつながっている」という実感を与える。彼らは、そこで「ここにいていいんだ」という安心感を覚えるのだ。
そして、「そういう安心感をもっと得たい」と思って、もっと頑張ってしまうのである。
そういう頑張る社員の行動原理に沿うように職場環境を設計していくと、必然的にブラック企業化してしまう。なぜなら、頑張れば頑張るほどお客さんの笑顔やねぎらいの言葉が得られるので、自然と過剰にサービスしたり、長時間働いたりということにつながってしまうからだ。そうしてやがて歯止めが利かなくなり、深刻な社会問題、労働問題へと発展するのである。
そうしたことから、現代において最も必要とされているのは、「健全な居場所の設計」ではないかと思う。人々が、社会の中で「役に立っている」という実感を得られたり、「ここにいていいんだ」という安心感を得られたりするような環境を作ることこそ、経営者に求められているのではないだろうか。それこそ、これからの企業に最も求められていることではないかと思う。
これからの経営者には、従業員の「居場所設営スキル」が求められるだろう。
そのスキルを伸ばすためには、何が必要か?
ぼくは、次の3つだと考える。
1「従業員の能力を見抜く力」
その人が社会の中で自分を活かせる長所を見抜く力が求められる。それを見抜けないと、その人に満足な居場所を与えることができない。
2「社会の欲求を見抜く力」
今の世の中は、テクノロジーの進歩によって変化が本当に激しくなった。それに連動して、社会の欲求も日々刻々と変化している。そのため経営者には、そうした変化に対応し、社会の新しい欲求というものを随時見抜いていく力が必要とされる。
3「時代の変化を先読みする力」
そうはいっても、変化に対応ばかりしていたのでは疲弊してしまう。そのため、ある程度時代の先を読んで、その中で長続きするスキルや欲求を見つけ出し、仕事を設計していく必要があるだろう。
この、「居場所設営」を軸とした会社経営は、ぼくが作った会社「源氏山楼」の経営指針の一つでもある。そこでは、働く人々に居場所を設けることが主眼となっている。
源氏山楼
その様子を、YouTubeチャンネルでも随時ドキュメンタリーしていくので、よければ見守っていただきたい。
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