今週のお題…………「なぜグレイシー柔術は衝撃を与えたのか?」
文◎ターザン山本(元『週刊プロレス』編集長)……………金曜日担当
文◎ターザン山本(元『週刊プロレス』編集長)……………金曜日担当
なぜグレイシーは衝撃を与えたのか? だって? その答えは簡単さ。格闘家も我々も総合というか他流試合に関して完全に無知だったからだ。
流派とかジャンルが違うものが闘ったらどうなるのか? それについて全く何もわかっていなかった。みんな己が強いものだと思い込んでいた。その幻想をグレイシーはことごとく破壊した。UFCがアメリカで立ち上げた時、それが一体どういうものか? 理解していなかったのだ。
空手、大道塾の市原海樹。太平洋を渡って果敢にUFCに乗り込んだ。おそらく本人は自信があったのだろう。ところが結果はあっけなくボイス・グレイシーの前に敗れてしまう。その時のショックか彼はその後、表舞台から消えた。
和術慧舟會の西良典。西選手はヒクソン・グレイシーと初めて闘った日本人格闘家。彼もまた何もできないままあっさりと負けた。軽量級、奇人の異名をとっていた朝日昇。佐山聡の弟子、彼こそはグレイシーに勝つとみんな期待したがホイラー・グレイシーに完敗。
この3つの試合が全てでを語っている。日本人選手が弱かった? 違う。他流試合に対する単なる認識不足というしかない。それに尽きるだろう。じゃあ、プロレスラーならというのでリングスの山本宣久、そしてUインター、髙田延彦、パンクラス、船木誠勝がヒクソンと激突。ここでもことごとくレスラーは返り討ちにあった。
なんてことだ。プロレスファン、格闘技ファンの最強神話への思い込みの激しさがもろくも崩壊。グレイシーからするとまるでカモ。カモだった。Uインターの安生洋二はロスのヒクソン道場へ道場破りを敢行。無謀というしかない行動。血だらけになって敗走した。
実戦、実力測定場所の闘い。私を含めて甘かった。井の中の蛙。まるで竹槍で近代的兵器に立ち向かっていったのと同じだ。通用するわけがない。グレイシーは日本の格闘技界に出現した黒船。長い眠りから目を覚まさせるきっかけになった。最強という言葉が我々を狂わせたのだ。そのファンタジーに酔いしれていたのだ。
グレイシーは別に凄くはない。あれが当たり前だっただけ。それを理解するのにあんなに時間がかかるとは? 懺悔するのが遅過ぎた。仕方がない。日本人は世界のどの国の人たちよりも格闘技が好きなんだもん。愛しているもん。押忍!
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