80年代からコラムやインタビューなどを通して、アメリカのプロレスの風景を伝えてきてくれたフミ・サイトーことコラムニスト斎藤文彦氏の連載「斎藤文彦INTERVIEWS」。マット界が誇るスーパースターや名勝負、事件の背景を探ることで、プロレスの見方を深めていきます! 今回のテーマは「新日本プロレスのMSG侵攻はWWE一強独裁に何をもたらすのか」です!
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――来年2019年4月6日に新日本プロレスとROHの連合軍が、WWEの本拠地マディソン・スクウェア・ガーデン(以下MSG)で合同イベントを行います。つい先日にはCodyとヤング・バックス兄弟が『ALL IN』という非WWEのスーパーイベントを成功させました。アメリカのプロレス界ではいったい何が起ころうとしてるんでしょうか?
フミ まず『ALL IN』のほうから説明すると、これはCodyとヤング・バックスの3人が中心となってプロデュースしたイベントで、1年がかりで準備したものなんです。ROHや新日本プロレスなど、NON WWEの選手たちが出場しました。
――定期的に興行を行なう団体ではなく、単発のイベントだったんですね。
フミ 場所はシカゴのシアーズ・センター・アリーナ。収容人数は1万人。開催するのは東海岸に強いROHでもない。このような単発のイベントが1万人の観客を動員できるかどうかというところから始まったんですが、なんと大成功させてしまったんですね。
――成功の要因はなんだったんでしょうか?
フミ 『ALL IN』は団体ではありませんが、いつの時代もオルタナは存在していました。90年代のECW、00年代のTNA(現インパクト・レスリング)などもそうですが、『ALL IN』との違いを言えば、かつてのアメリカではPPVビジネスが成立しなければ、プロレス団体の運営・経営は成功できない仕組みだったんです。
――興行のあらゆる収入手段の中で最も効果的なのはPPVだったんですね。
フミ ただし、団体側がPPVをやろうとすると、ケーブルカンパニーやPPVプロバイダーと視聴契約料のパーセンテージ配分などのビジネスをしないといけません。ファンもPPVを見るためにはケーブルテレビと契約したり、チューナーも必要になってくる。ひと手間もふた手間かかるわけです。 ところが2010年代も終わりに近づく現在では、インターネットの動画配信という新しいかたちでスマホやパソコンでアメリカどころか世界中のプロレスが見ることができるテクノロジーが完成していますよね。これまではアメリカからは見ることもできなかった日本のプロレスがライブで楽しめる時代になった。そういった環境の変化も後押ししたことで、『ALL IN』は大成功を収めたと言えるんですね。
――『ALL IN』を見ている日本のファンもいましたね。
フミ 『ALL IN』成功の理由はもうひとつ。やっぱりWWEのプロレスだけは満足できないマニア層はいつの時代も存在するんですよ。
――どのジャンルにもメインストリーム以外の刺激を求めるファンはいますね。
フミ 『ALL IN』に集まった1万人の観客は、大都会シカゴだけの1万人ではなく、アメリカ全土からの密航者がシカゴに集まってきたんです。それほどWWE一強独裁体制にもの足りなさを感じているファンが多い。いまアメリカではROHやインパクトなどの団体が活動していますが、あくまでも形だけの自由競争社会。現実としてはWWEが市場を独占してるんですね。今回の『ALL IN』が巨大な点を打ったことはたしかで、この点が線になっていけば面白いことになっていくんですが……。
――巨大な点を打ったどころでは、どうにもできないWWEの現状があるってことですか。
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