志村ふくみさん「母衣への回帰」を世田谷美術館で観てきた。
すばらしい、って言葉で表現できないくらいすばらしい。
圧倒的に芸術家だったこと、工芸という言葉では伝わらないアートがあったこと、知らなかった。
糸を染めるTV画面を見た記憶があったのだけど、その場面はほんのこの芸術家の1工程でしかなく、といっても大事な一つではあるのだろうけど、この方の全体像はこの場面らは伝わらない。
染色工芸家とか糸を自然な色に染める人と僕の頭には入っていたのだけど、糸の染も芸術家が表現するための素材で、全体像は染色された糸で表現したいものを創り出す日本の最先端の芸術家だった。
着物に染色で表現されたあらゆる要素がこの宇宙の姿を暗示している。
藍染の中に浮き沈んでいる紬の糸の自然な色の白さを観ると、天空の夜空に浮かぶ無数の星々、宇宙がそこにあることを感じる。淡い桃色の着物を観るとなぜかまだこの世に馴染んでいない若い女性の熱とはじらいと萌えを感じる、これってこれも宇宙を構成する大事な要素なんだと感じてしまう。着物に琵琶湖の湖面と葦と空と雲と山々があった。そんなこと言われなくても滋賀県にお住まいと聞けば、ああ、これは琵琶湖なんだと分かる。染色は普通の自然にある植物を使っているのだそうで、だから一つとして同じ色にはならないという。一つとして同じ着物は無い。あらゆる色と模様がすべて自然を表していて、自然の彼方にもっと広大な世界の広がりがあると伝わってくる。着物の色合いと姿かたちに、自然と宇宙とそこに生きる人間の心が優しく宿っていて、心いやされ、平和な気持ちになる。
展示は着物が中心だ。女性の和服がエモン掛けに飾られていて着物の背中側と袖が一つの絵画のように目に映る。その着物がこんなにも美しいとは知らなかった。
着物の美しさ、和服の形よさがどうしようもなく伝わってくる。着物ってこんなに綺麗だったんだ、こんなにしゃれているんだ、こんなデザインが成立するんだ、こんなに繊細な感情が宿っているんだ、ととてもたくさんの感覚が刺激される。
本日までの展示、お勧めです。