ここのところ、「集団的自衛権」に関するニュースが増えている。集団的自衛権とは、同盟国などが攻撃されたとき、その国と協力して攻撃できる権利だ。具体的にいえば、アメリカがある国(A国)から攻撃されたときに、日本がアメリカを支援して、ともにA国と戦える権利、ということだ。この集団的自衛権の行使容認へと安倍政権が動いている、として論争になっているのだ。

集団的自衛権は、日本国憲法では認められない。戦後一貫して、そう解釈されてきた。明確な「違憲」ではないが、憲法の解釈として認められてこなかったのだ。逆をいえば、「改憲」をしなくても、解釈を変えれば集団的自衛権を行使できるようになるわけだ。

この解釈をするのは内閣法制局という機関である。集団的自衛権の行使容認をめざす安倍首相は、だからまず内閣法制局の長官を、「容認派」の小松一郎氏に代えた。あとは閣議決定さえできれば、日本は集団的自衛権を行使できる国になるのだ。

この変更は日本という国のあり方を、大きく変えるはずである。それにもかかわらず、閣議決定だけで決めていいのか。

むろん、このように考えるのは僕だけではない。与党である公明党も慎重姿勢だ。それに対して、集団的自衛権を限定的に行使できるという、「限定容認論」というものが出てきた。そう提唱するのが、自民党副総裁の高村正彦さんだ。

この場合の限定条件とは、「日本の安全保障に直接関係がある場合」というものだ。では、具体的にどういう場合なのか。例えば、北朝鮮と韓国が戦うことになる。アメリカは当然、韓国の側につくだろう。そのとき、日本はアメリカの援護をしてよいかどうかだが、これは北朝鮮とわが国の関係を考えれば、「限定」の条件にあてはまる。つまり、集団的自衛権を行使できるということになるのだ。

では、中東でイスラエルとイランが戦争になった場合を考えてみよう。中東は地理的には遠い。だが、もしホルムズ海峡が封鎖されたりすれば、中東から輸入している原油が、すべてストップしてしまい、日本は大混乱に陥る。アメリカは当然イスラエルを援護する。日本は、アメリカとともに戦うべきなのか。たいへん難しい問題だ。

だからこそこの問題は、閣議決定ではなく、国会で議論されるべきだと、僕は考える。いや、タウンミーティングのような形で、国民をまじえてとことん議論すべき問題だ、とも僕は思っている。

そうなると、もちろん反対意見も多数出てくるから、安倍首相にとっては非常に煩わしいことだろう。だからといって、さっさと閣議決定をしてしまえばいい、というのは間違いである。政治というのは、反対が出るのを面倒がってはいけないのだ。

もう一度、声を大にしていいたい。集団的自衛権を行使できる国になるということは、日本という国の形が大きく変わることだ。安易に決めるべきことではないのだ。

この問題を、国会はもっと徹底的に議論をすべきである。そして僕もまた、どんどん政治家にこの問題について斬り込んでいくつもりだ。


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〈田原総一朗(たはら・そういちろう )プロフィール〉
1934年、滋賀県生まれ。60年、岩波映画製作所入社、64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。また、『日本の戦争』(小学
館)、『塀の上を走れ 田原総一朗自伝』講談社)、『2時間でよくわかる! 誰も言わなかった! 本当は恐い ビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム)など、多数の著書がある。