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篠塚恭一:高齢者大国の最前線から(10) ── 個を追いやる現代社会

2014/04/23 07:00 投稿

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  • 篠塚恭一

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景気の回復感とともに振り込め詐欺など、特殊詐欺の被害が過去最悪となっている。<br /><br />

被害額はすでに400億円を超え、毎日1億円以上もの個人資産が詐欺で騙しとられた勘定になる。被害に遭う多くは女性高齢者だから、その暮らしや住まい方に問題があることが窺える一方で、次から次へと新手の手口を編み出す犯人グループには憤りを越えて感心させられてしまう。お叱りを承知で言えば、彼らほど年寄りのことをよく知る者はいない。犯罪が知られれば、すぐに別の手口を編み出し、またダメになると次の商品を開発する。その度毎に新しいマニュアルをつくり教育され、夜討ち朝駆けの営業努力も惜しまない。しかも、粗利9割の高収益体質というから犯罪でなければ、これほど成功した高齢者ビジネスもないだろう。<br /><br />

民間シンクタンクは、今後、40歳代と70歳代のおひとり様女子が増加して市場が拡大すると予測しているが、旅行現場ではすでに20年前からそうした傾向が顕著になっていたと思う。かつて一般団体の観光旅行といえば、夫婦や家族づれが多く、旅行会社は一人参加のお客を敬遠した。旅館など、訳ありで万一自殺でもされたら困ると一人旅の客は泊めないところがほとんどだった。しかし、21世紀を迎えた頃から参加者層に変化が起き、もはやおひとり様に驚くこともない。かつての大家族制は核家族へ移行し、やがておひとり様スタイルへと細胞分裂を終えていた。<br /><br />

今、関係者が集まって2025年にむけた理想の高齢者住宅モデルをつくろうと研究しているが、プライバシーの確保をしつつ共用スペースのシェアで経済性との両立を図ろうとしている。加齢による身体変化を予測し、認知症にも配慮された集合住宅を建築デザインで形に表そうと、来年には着工するだろう。<br /><br />

先日、温泉をユニバーサルツーリズムに活かせないかと聞かれたが、温泉は外国人にも人気の健康資源だから、各国の大使夫人で女子会をつくり、温泉の良さを美容と絡めて和食と一緒に自国へ持ち帰ってもらったらどうかと答えた。もちろん会長には、米国大使のケネディさんが最適だろうが、東京五輪のプレイベントということなら実現不可能とは言いきれないと思う。<br /><br />

ユニバーサルツーリズムは、コンセプトがいつでも、どこでも、誰にでもだから、私は難しいと感じている。なぜなら、多様化した成熟社会の消費者個人は、今だけ、ここだけ、あなただけ、という自分を特別扱いしてくれることを好むので、普遍性を謳うユニバーサルはこれからのシニア層にはそぐわない。さらにユニバーサル商品は、大量消費による低価格では採算がとれない。ユニバーサルツーリズムとパーソナルサービスの間にある誤解はまだぬぐえていないと思う。<br /><br />

超高齢社会の進展は、これまで集団にいたものが加齢とともに個に追いやられる社会となり、地域からはじき出された個人は、隔離阻害されている。個と集団の乖離をかつては市町村が埋めてきたが、合併続きで巨大化した今の基礎自治体では、そうした寄りそうようなサービスも難しい。そうした中にある高齢者の孤独と不安という心の隙間に詐欺師がつけこんでいる。

2025年、第一回目の実現を目指す火星定住計画に20万人が応募したというから、宇宙が旅行先になる日もそう遠くない。市場は常に進化を続けている。ビックデータの分析を駆使すればその傾向はわかるが、極まった細胞分裂の先で起きている個の課題を解決することはできないと思う。<br /><br />



【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。



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