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田中良紹:目先の利益と未来の利益

2014/02/11 12:04 投稿

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東京都知事選挙は投票率が50%を切る過去3番目の低い数字となった。一昨年の衆議院選挙と昨年の参議院選挙に続いてまたもや有権者は政治に背を向けた。私はそこに09年政権交代の失敗に懲りて、国家のありようを変えることへの恐れと、その反動で目先の利益に走る有権者の心理を見る。

東京都知事選挙での自公戦略は、アベノミクスの「第四の矢」ともいうべき東京オリンピックを前面に押し出すことであった。評判の悪い「第三の矢」をそれによってカバーし、国民に経済成長の期待感を持続させるためである。それにはソチ・オリンピックが開催されている時期、国民がオリンピックのテレビ中継に目を奪われる時期に投票日を設定する必要があった。

徳洲会から猪瀬前知事への裏金を検察がメディアにリークした時、私はオリンピック組織委員会会長の座を巡る猪瀬氏と森元総理の確執が背景にあると思った。オリンピック招致が決まってからの猪瀬氏は安倍政権から邪魔扱いされ、それが組織委の人事を巡る対立に発展していた。

かつて特捜部を取材した経験で言えば、特捜部の捜査の背景には必ず政治権力の意図が存在する。検察のリークは猪瀬氏の排除を目的としていた。しかしすぐに猪瀬氏が都知事を辞職されても困る。都知事選挙の日程をソチ・オリンピックに合わせなければならないからである。絶体絶命となった猪瀬氏は権力側からの要請を受け入れ、汗を流して無様な答弁を繰り返しながら、投票日をオリンピック期間に合わせられる時期まで辞職を踏みとどまった。私にはそのように見えた。

自民党が推薦した舛添要一氏は自民党が除名した人物である。それを自民党が担いだのは公明党・創価学会対策である。国政に於いて公明党を引き付けるため、自民党は公明党の意中の候補である舛添氏を担ぐことにした。

こうして舛添氏は森元総理がオリンピック組織委会長に就任する同じ日に東京オリンピックを前面に出馬表明を行うシナリオとなった。その日のメディアは自公の意図通りに「第四の矢」を国民に印象付ける報道をする筈であった。ところが現実はそうならなかった。

小泉元総理がその日に合わせて細川元総理と会食し、記者団の前に現れてツー・ショットの映像を撮らせ、事実上の出馬表明を行ったからである。これは明らかに自公の戦略に戦いを挑むものである。だから森元総理は不快感を露わにした。

私には細川氏の出馬を知って小泉氏が支援を表明したのではなく、小泉氏が細川氏を口説いて出馬に踏み切らせたように見えた。この選挙は細川対舛添の選挙ではなく、小泉氏がもう一度「自民党をぶっ壊し」、安倍政権が進めている政治を根底から覆す選挙である。自公は相当の衝撃を受けたはずである。激しいネガティブキャンペーンが始まると私は予想した。

実際にネガティブキャンペーンは他の候補には向かわずに細川氏を狙い撃ちに、「政治とカネ」や高齢などを材料とする攻撃が行われた。また無党派層を狙う細川陣営に対し、選挙を盛り上げさせない戦略も採られた。メディアはこの選挙をあくまでも地方選挙とし、選挙争点を多角化し、国家のありようを変える選挙になるとは言わなかった。

細川氏と小泉氏が二人並んでメディアの前に立った1月14日までは、この選挙が首長選挙の枠を超え、国家のありようを根底から問う選挙になる可能性があった。細川・小泉連合が勝利すれば安倍政権は行き詰まり、政治の世界は流動化する。そして日本は本腰を入れて再生可能エネルギーと省エネ技術の開発に取り組まざるを得なくなる筈であった。

それは決して非現実の話ではない。焼け野原から戦後復興が始まったように、覚悟さえ決めればゼロからでも挑戦し、成果を上げる力が日本人にはある。ところが14日の直後からなにやら様子がおかしくなった。およそ1週間にわたって細川氏の国民への発信がなくなり、「政治とカネ」の問題で表に出れないとか、支援者間で内紛があるとかの報道が相次いだ。

残念だがそれで細川・小泉連合の選挙は終わったと私は思った。妙な話だが選挙は始まる時には終わっているというのが日本の選挙である。世界に例のない珍奇な日本の公職選挙法は、他国のように選挙をお祭り騒ぎにすることを禁じている。選挙は始まる前が勝負で、始まった時には終わっているのである。

こうして私が「前に進むか、後ろに戻るか、その第一の岐路」と位置付けた東京都知事選挙は自公の推す舛添要一氏が当選し、細川氏は3位に終わった。自公は胸をなでおろしたに違いない。結果が思ったほどではないと思ったのか、自民党の中からは「小泉神話は終わった」とか「過去の人」という声も聞こえてきた。

そして各社の出口調査では有権者の関心が「景気、雇用、福祉」などに集中し、「原発、エネルギー」には向かわなかったと言われている。それが事実なら日本人は目先の利益に目を奪われ、未来の利益を見通す力を持てなくなっているという事だ。それは今回敗れた二人の老人に再びやる気を起こさせる。

老人には日本の姿が俯瞰で見える。そして目先しか見えない人間を導けるのは老人の役目だと思っている。未来の利益に向けた戦いの準備を老人たちはまた始めると思う。

△  ▼  △

■《甲午田中塾》のお知らせ(3月31日 19時〜)

田中良紹塾長が主宰する《甲午田中塾》が、3月31日(月)に開催されることになりました。詳細は下記の通りとなりますので、ぜひご参加下さい!

【日時】
2014年 3月31日(月) 19時〜 (開場18時30分)

【会場】
第1部:スター貸会議室 四谷第1(19時〜21時)
東京都新宿区四谷1-8-6 ホリナカビル 302号室
http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
※第1部終了後、田中良紹塾長も交えて近隣の居酒屋で懇親会を行います。

【参加費】
第1部:1500円
※セミナー形式。19時〜21時まで。

懇親会:4000円程度
※近隣の居酒屋で田中塾長を交えて行います。

【アクセス】
JR中央線・総武線「四谷駅」四谷口 徒歩1分
東京メトロ「四ツ谷駅」徒歩1分

【申し込み方法】
下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
http://bit.ly/129Kwbp
(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。

 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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コメント

2:8なのか3:7なのか、分からないが、選挙に必ず出掛ける年金生活者の選挙動向が気にかかる。
舛添都知事は、現実的自己利益を還元してくれると信じて疑わないのでしょう。安倍政権の経済政策が経済を大きく成長させることが出来れば可能性がないことはない。誰も政権の腰折れのお先棒にはなりたくないので、押し黙ったままであり、順調のように見える。しかし、輸出を増やそうとしても、どこに、どんどん商品を買うような国があるというのか。過去は、米国一国が機関車役を務めたが、現在は中国も米国を越えた機関車役を務めています。正面から、中国と唯一敵対する日本は、輸出大幅増など期待できるわけもなく、また、人口減少と介護分野の人材不足は、オリンピック開催施設建設の労働力確保とダブルパンチで降りかかってきます。海外の労働力に頼れば、人件費の節減が出来、日本人の給与所得が増えるわけもなく、生活は苦しくなるばかりでしょう。米国の貧困社会が、一気に日本に拡大することが想像されます。
老齢者を優先するシステムは、現実的に不可能になっているのであるが、我々老齢者の多くが分からず、ただ政権にしがみついているとしか見えない。

No.1 130ヶ月前
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