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田中良紹:小泉元総理「原発ゼロ」は「リトマス試験紙」

2013/11/13 21:12 投稿

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  • 田中良紹
小泉元総理が日本記者クラブで講演した翌日、新聞各紙は記事の扱いで見事に分かれた。いつもは金太郎飴のような報道に辟易していた私にとって、記事の扱いの差はなかなかに興味深い。そこでそのことを考察する。

小泉元総理の「原発ゼロ」発言を一面トップで報じたのは朝日と東京である。両紙は二面でも関連記事を掲載して扱いは大きい。小泉発言を重要なニュースとして扱っている。トップではないが同じく一面と二面に掲載したのは毎日である。毎日は小泉氏の「脱原発」発言を先陣を切って報道してきたので、あえてトップにはしなかったという事だろう。

これに対して一面で扱わなかったのが産経、読売、日経の三紙である。産経は三面と五面に掲載した。一面扱いではないが記事の分量は少なくない。ところが読売と日経は四面に小さく扱い、ほとんど無視の姿勢である。ただ読売の記事には講演をする小泉元総理の写真が掲載され、多少は読者の目を引くようにしている。一方、どこに記事があるのか分からないほど小さいのが日経だった。

一面に載せなかった三社がいずれも一面で報じたのは東京地検特捜部による徳洲会の選挙違反事件である。東京地検は小泉元総理の会見と同じ日に徳洲会の幹部ら6人を逮捕し、読売は一面トップでそれを報じた。

一般の人は小泉発言と徳洲会事件に関連があるとは思わないだろうが、特捜検察を取材した私の経験ではありうるのである。特捜部が事件に着手する時には必ず各方面の動きをにらみ、政治的な効果を最大限に考えて決行する日を選ぶ。

検察は警察と違い突発の事件に対応する組織ではない。すべてのスケジュールを自分の都合で決めることが出来る。他に重大な出来事があり、自分たちの事件の記事が小さな扱いになると思えば、その日の逮捕は見送られる。一方で権力にとって都合の悪い出来事を小さな扱いにさせる目的で、大事件の強制捜査をぶつけることがある。

逮捕の前日に検察幹部が各社のキャップを集め、「明日は一面を空けておけよ」と指示する場合もある。他の記事より検察の捜査を大きく扱えとプレッシャーをかけるのである。メディアはほとんどその指示に従う。今朝の読売と朝日の紙面を見比べると、そうした過去の経験が甦ってくる。

有料ブログ「フーテン老人世直し録」に昨日書いた「小泉総理『原発ゼロ』の真意」で私は、小泉元総理は「アベノミクス」が失敗すると思っているのではないかとの見方を示した。「アベノミクス」に突き進むより「原発ゼロ」に突き進む方が長期安定政権を確実にものにできる。小泉元総理はそう考えていると書いた。

今朝の紙面で無視に近い扱いをしたのが日経である事を考えると、私の見方はあながち的外れでない気がしてくる。「アベノミクス」に何としてでも成功してもらわなければ困ると考えるのは日本の経済界である。その主張を代弁するのが日経新聞で、短期的利益を追求する人間にとって小泉発言は不快で無視したい話である。

一方、政治的な意味で安倍政権を支持している読売と産経は、一面に掲載しないことで安倍政権支持の姿勢を見せてはいるが、日経のように無視扱いはできない。なぜなら小泉発言はこれから政治の世界で大きな意味を持つ可能性があるからである。従って写真を掲載するなどの体裁を施す必要はあった。

かつて東京地検特捜部が政権交代のかかった総選挙を前に、民主党の小沢一郎氏をターゲットに「でっち上げ捜査」を行って日本の政治に横やりを入れ、日本の民主主義を蹂躙した事がある。その時に私は、この事件が日本の民主主義を推し測る「リトマス試験紙」になると書いた。他の民主主義国家ならあり得ない選挙前の政治捜査を認めるのか認めないか。それが民主主義を推進する側か、民主主義を破壊する側かを見分けさせる。

すると自民党も、民主党も、公明党も、共産党も、社民党も、そして全メディアが民主主義を破壊する側、つまり「国民主権の敵」であるという結果が出た。「日本の民主主義は道が遠い」と思ったものである。今回の小泉発言はそれとは違うが、政治を目先の利益で考えるか、長期的な利益で考えるかの「リトマス試験紙」になる。 かつて日本に存在した「財界」は、短期的利益を追求する欧米の経営者に対して、長期的な利益を重視し、弱肉強食ではない社会を作ろうとした。それがソ連や中国から「理想」と言われる「一億総中流」の国を生み出した。ところが日本のやり方を批判したのがアメリカである。すべてを競争原理にさらすことが正義であると考えるアメリカは、冷戦が終わると日本経済の解体作業に取り掛かり、ソフトパワーによって日本人の思想を欧米型に変えた。今では短期的利益を追求するのが経営者とされ、その延長上に「アベノミクス」はある。

しかし3・11の大災害と原発事故を経験して、日本は自らの生き方を根底から考え直す機会を得た。小泉元総理の「原発ゼロ」もそこから始まっていると言う。だとすれば小泉発言は日本人の生き方を見分ける「リトマス試験紙」になる。目先の利益を追求するのか、長い目で利益を追求するのかのリトマス試験紙である。今朝の新聞各紙を見ていると、まずはメディアから「リトマス試験紙」で測定されたという事だ。

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【日時】
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【会場】
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http://www.kaigishitsu.jp/room_yotsuya.shtml
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下記URLから必要事項にご記入の上、お申し込み下さい。21時以降の第2部に参加ご希望の方は、お申し込みの際に「第2部参加希望」とお伝え下さい。
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(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

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【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。

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THE JOURNAL編集部

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コメント

小泉元総理は、原発事故から、物の見方考え方が根本的変わったということであろうか。
米国型市場競争主義社会から西欧型共生主義社会への大転換である。もしそのような転換が事実であれば、歓迎すべきことであるが、特定秘密保護法などタカ派的法律に対する明確な言葉出てこない限り、憶測では、別の見方も成り立つ。
安倍タカ派的政権のタカ派色を薄めるため、発言しているのではないかという懸念も捨てきれない。
原発は確かに安倍総理が決断すれば、原発ゼロに出来るし、代替エネルギーの確保は、日本の技術力の総力を振り向ければ解決できるでしょう。問題は、原子力に関する技術をどのように対処するかである。国が関与しなければ、技術者は、海外に活躍の場を得ようとするでしょう。今までの経過を見れば、中国、韓国に技術が流出するでしょう。今まで日本は、西欧は抑制的であったのに、中国に技術を惜しげもなく流出した。また、電気業界のリストラによって、多くの技術者が韓国に流出し、今では日本の企業が足元にも及ばない。
さりとて、軍需産業に転出すれば、また違ったリスクが発生するので、技術者の扱いは極めて慎重に対処しなければならない。言うは安く、実現はそんなに簡単なことではないと考えています。

No.1 134ヶ月前
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