2年ほど前に縁あって山形県最上町の絆大使に任命された。
それから町の人が広報を送ってくれるので、東北の山間地のことが少しわかるようになった。最上は奥羽山系に囲まれた小国盆地にある小さな町で、稲穂が揺らぐ里山は美しく日本の原風景が心を和ませてくれる。芭蕉が歩いた奥の細道にあたり、ここ数年は外国人旅行者にも人気の観光地として育ちつつある。
広報を読みながら気になるのが1万人を割った町の人口のことで、先月の報告には生まれた人2人、亡くなった人17人とあった。国の予測では、これから30年余りで人口が4割以上も減ってしまう地域と報告されている。高齢化率は45%を越え、限界自治体に近づき地域経営はますます厳しくなると覚悟する必要があるだろう。
苦しいのは地方ばかりではない。都内で平均寿命が最も高い杉並区は、公共施設の使い方を変えて気楽に集える施設を増やし、住民にサークル活動への参加を促した結果、予防が充実して健康に関心の高いシニアづくりに成功している。区の報告では、65歳〜75歳の介護認定率は4%に留まり、これを維持したいところだが、75歳以上は33%が認定を受けており、後期高齢者の予防対策が自治体の重要な課題になっている。都市や地方に限らず、これからは住民満足度の最大化を図りながら、自助、共助、公助で健康寿命を延ばす仕組みをまちづくりに活かさなければならなくなった。
医療や年金など、社会保障制度の充実は国民の関心が集まるところだろうが、その負担が子供たちの将来に背負わされている現実を忘れてはいけない。もはや健康維持は義務ととらえ、たとえ病気や介護が必要となっても重度化することを避ける努力を続ける必要がある。
健康の維持には、食事、運動、社会参加の三要素をバランスよく取り入れることが大事で、社会参加は日々の暮らしの生きがいづくりがポイントになる。使わない筋肉が衰えるように使わない脳も衰えていくものだから、認知症は孤独な暮らしを放っておく環境を改善すればいい。
これらは、いずれも観光産業が得意とするところで、旅行を趣味にしている人は、認知症が少ないという報告もある。世代を超えて、新しい発見や他者との交流は脳を刺激し、社会参加は生きがいを見出すことで積極的になる。特に独居老人や高齢者単独世帯の人にとってのグループ旅行は、有効な生活改善につながると思う。
最近、募集旅行に認知症と思われるお客様が知られずに参加され、同じ団体の客やツアーコンダクターなどが対応に苦慮するケースが多数報告されているが、認知症は病気であるにもかかわらず、明確なルールづくりを先送りにして、今のまま旅先の混乱を放置するなら、これからさらに深刻な問題を招くことになるだろう。
もし、認知症の参加者が交通事故に会えば、旅行会社は重過失を問われるだけでなく、家族からの訴訟もありうる。さらに重大な鉄道事故などを起こせば鉄道会社からも訴えられることにもなりかねない。
年齢別渡航者数の構成比をみても70歳以上が伸びているのだから、できるだけ早く様々な場面を想定した体制づくりを業界としても整えなければならないと思う。
【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。
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THE JOURNAL編集部
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認知症の人に接する仕事をしていると、いずれ自分がそうなることを想像して気が重くなります。決して他人事ではない。
「認知症の老人は殺処分しろ」という人達は自分達が殺処分される側になる覚悟はあるのでしょうか?