日本版NSC法案を巡る参議院の審議に安倍総理が出席した。政権の「一丁目一番地」だから、総理は法案の内容を熟知しているのかと思ったら、官僚が作成した答弁書を棒読みする場面が多く、しかもたどたどしく読むため、みんなの党の議員から「大事なところは噛まないで欲しい」と注意される始末だった。
日本版NSCを作る目的は、縦割りの官僚機構が所有する情報を一元化し、政治家が判断する体制を作るためだとされている。しかしどのようにして情報の一元化を図るのかは全く説明されず、担当大臣はひたすら「情報は一元化される」と答弁するだけだった。すると質問した議員が「私はそうは思いませんが」と言って話題を変える。国民は平行線の議論を見せられただけで何が何だか分からない。
この日の審議はこれまで見た事もないほどスカスカの議論が繰り返された。安倍総理は「国民に丁寧に説明する」と言ってきたが、この国会審議を外国人が見れば、日本の国会がどれほど低いレベルにあるかを知ることになる。まさに国辱物の国会審議だと思った。
結局印象に残ったのは、「外国から情報を与えてもらうためには何でもやります」、「外国から与えていただいた情報は必ず秘密を守ります」という安倍総理の屈辱的な対外姿勢である。安倍自民党はポスターに「日本を取り戻す」と書いているがとんでもない。全く逆に「日本を売り渡す」政権と言った方が良い。
安倍総理の答弁を聞くと、日本版NSCはアメリカのNSCと違い議事録を作成しない事になるようだ。「議事録を作成すべき」と迫る野党議員に対し、安倍総理は「作成する」と一言も言わない。「アメリカでも最近はサマリーになっている」とか「議事録を公開する前提では外国から秘密情報を貰えなくなる」という弁明に終始した。
議事録を作成するのは民主政治の基本である。独裁者が気まぐれに権力を振るえる政治体制なら議事録は必要ない。しかし民主主義の主役は国民である。その国民が税金を払って官僚を雇い行政を担わせている。その官僚をチェックするために国民は選挙で代表を選び、それが国会に集って行政を監視する。
行政は自分たちの仕事を逐一国民に説明する責任がある。国民の税金を預かっているのだから当然である。議事録を作るのは説明責任を果たすための基本である。それを作らないと言うのは官僚に税金を自由に使わせるに等しい。それを国民は許せるのか。またそれを認める政治家を許せるのかという話である。
そして問題なのは「外国から情報を貰うために議事録を作らない」という言い草だ。ここで外国と言うのはほとんどアメリカの事だが、アメリカは曲がりなりにも民主主義の国だから議事録を作らないなどという事はない。ただし民主主義の強さが変化する事はある。
戦争になれば国民の権利は平時より制約される。しかし制約され過ぎだと国民が判断すれば制約は緩和の方向に向かう。それが民主主義の民主義たる所以である。ベトナム戦争中のアメリカ国民の知る権利は制約された。その結果、アメリカは泥沼にはまり込み経済は破たんした。その反省から情報公開法が作られた。ペンタゴンとCIAの嘘に政治家が騙されてベトナム戦争は起きた事が分かったからである。
国民は「日の当たるところに腐敗は生まれない」を合言葉に、「サンシャイン改革」によって政治と行政の透明性を実現させた。しかし9・11の衝撃でアメリカは再び戦争の方向に動き出す。民主主義の度合いは弱まり、「テロとの戦い」が国民の知る権利を制約した。それがまた国民から批判されてオバマ大統領を誕生させる。しかしオバマは難しいかじ取りを迫られている。アフガン戦争をやめさせるためCIAの秘密工作に頼らざるを得なくなり、秘密情報を拡大させた。
ただそれは目的に到達するための過渡期な手段だと私は見ている。「オバマの戦争」にも書いたが、オバマはネオコンが主導した軍事力による世界の一極支配と新自由主義経済からの脱却を目指して苦闘している。その戦いのために秘密工作を重視せざるを得なくなった。かつてケネディ大統領が採用した手法を真似している。しかしケネディ時代のNSCは詳細な議事録を残した。それが政治の責任と言うものである。
安倍総理の言い方を聞くと、まるで日本はアメリカの顔色を伺いながら情報をおねだりしないと生きていけない国のようだ。しかし情報は軍事に勝る力を持つ。いや軍事だけではない。経済も情報が生死を分ける。それほど重要な情報をアメリカに頼るというのは日本が独立していない事の証明でもある。
戦後の日本がなぜ強力な情報機関を持つことが出来なかったかと言えば、アメリカがそれをさせなかったからである。アメリカの提供する情報に頼らせ、独自に情報収集する必要はないというのが一貫したアメリカの考えだった。それに日本の官僚機構はどっぷりとつかってきた。多少情報の世界に関わった人間なら誰でも知っている事実である。
そうした体制を補強するために安倍政権の「一丁目一番地」はある。そしてその「日本を売り渡す」政策に協力する野党がいる。「日本国民の安全のため」などと称しているがとんでもない。それが二枚舌である事がいずれあぶりだされる。
【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
日本版NSCを作る目的は、縦割りの官僚機構が所有する情報を一元化し、政治家が判断する体制を作るためだとされている。しかしどのようにして情報の一元化を図るのかは全く説明されず、担当大臣はひたすら「情報は一元化される」と答弁するだけだった。すると質問した議員が「私はそうは思いませんが」と言って話題を変える。国民は平行線の議論を見せられただけで何が何だか分からない。
この日の審議はこれまで見た事もないほどスカスカの議論が繰り返された。安倍総理は「国民に丁寧に説明する」と言ってきたが、この国会審議を外国人が見れば、日本の国会がどれほど低いレベルにあるかを知ることになる。まさに国辱物の国会審議だと思った。
結局印象に残ったのは、「外国から情報を与えてもらうためには何でもやります」、「外国から与えていただいた情報は必ず秘密を守ります」という安倍総理の屈辱的な対外姿勢である。安倍自民党はポスターに「日本を取り戻す」と書いているがとんでもない。全く逆に「日本を売り渡す」政権と言った方が良い。
安倍総理の答弁を聞くと、日本版NSCはアメリカのNSCと違い議事録を作成しない事になるようだ。「議事録を作成すべき」と迫る野党議員に対し、安倍総理は「作成する」と一言も言わない。「アメリカでも最近はサマリーになっている」とか「議事録を公開する前提では外国から秘密情報を貰えなくなる」という弁明に終始した。
議事録を作成するのは民主政治の基本である。独裁者が気まぐれに権力を振るえる政治体制なら議事録は必要ない。しかし民主主義の主役は国民である。その国民が税金を払って官僚を雇い行政を担わせている。その官僚をチェックするために国民は選挙で代表を選び、それが国会に集って行政を監視する。
行政は自分たちの仕事を逐一国民に説明する責任がある。国民の税金を預かっているのだから当然である。議事録を作るのは説明責任を果たすための基本である。それを作らないと言うのは官僚に税金を自由に使わせるに等しい。それを国民は許せるのか。またそれを認める政治家を許せるのかという話である。
そして問題なのは「外国から情報を貰うために議事録を作らない」という言い草だ。ここで外国と言うのはほとんどアメリカの事だが、アメリカは曲がりなりにも民主主義の国だから議事録を作らないなどという事はない。ただし民主主義の強さが変化する事はある。
戦争になれば国民の権利は平時より制約される。しかし制約され過ぎだと国民が判断すれば制約は緩和の方向に向かう。それが民主主義の民主義たる所以である。ベトナム戦争中のアメリカ国民の知る権利は制約された。その結果、アメリカは泥沼にはまり込み経済は破たんした。その反省から情報公開法が作られた。ペンタゴンとCIAの嘘に政治家が騙されてベトナム戦争は起きた事が分かったからである。
国民は「日の当たるところに腐敗は生まれない」を合言葉に、「サンシャイン改革」によって政治と行政の透明性を実現させた。しかし9・11の衝撃でアメリカは再び戦争の方向に動き出す。民主主義の度合いは弱まり、「テロとの戦い」が国民の知る権利を制約した。それがまた国民から批判されてオバマ大統領を誕生させる。しかしオバマは難しいかじ取りを迫られている。アフガン戦争をやめさせるためCIAの秘密工作に頼らざるを得なくなり、秘密情報を拡大させた。
ただそれは目的に到達するための過渡期な手段だと私は見ている。「オバマの戦争」にも書いたが、オバマはネオコンが主導した軍事力による世界の一極支配と新自由主義経済からの脱却を目指して苦闘している。その戦いのために秘密工作を重視せざるを得なくなった。かつてケネディ大統領が採用した手法を真似している。しかしケネディ時代のNSCは詳細な議事録を残した。それが政治の責任と言うものである。
安倍総理の言い方を聞くと、まるで日本はアメリカの顔色を伺いながら情報をおねだりしないと生きていけない国のようだ。しかし情報は軍事に勝る力を持つ。いや軍事だけではない。経済も情報が生死を分ける。それほど重要な情報をアメリカに頼るというのは日本が独立していない事の証明でもある。
戦後の日本がなぜ強力な情報機関を持つことが出来なかったかと言えば、アメリカがそれをさせなかったからである。アメリカの提供する情報に頼らせ、独自に情報収集する必要はないというのが一貫したアメリカの考えだった。それに日本の官僚機構はどっぷりとつかってきた。多少情報の世界に関わった人間なら誰でも知っている事実である。
そうした体制を補強するために安倍政権の「一丁目一番地」はある。そしてその「日本を売り渡す」政策に協力する野党がいる。「日本国民の安全のため」などと称しているがとんでもない。それが二枚舌である事がいずれあぶりだされる。
【関連記事】
■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article
<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
ブロマガ会員ならもっと楽しめる!
- 会員限定の新着記事が読み放題!※1
- 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
-
- ※1、入会月以降の記事が対象になります。
- ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。
THE JOURNAL
THE JOURNAL編集部
月額:¥550 (税込)
コメント
コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。