iF DESIGN AWARD は、954年にドイツで始まった世界で最も長い歴史を持つ国際的な権威のあるデザイン賞であり、世界三大デザイン賞のひとつ。デザインの独創性や造形美をはじめ、コミュニケーションやUX(ユーザーエクスペリエンス)、サービスデザインなど9つの分野で審査されます。2024年は世界の72カ国から10,000点を超える応募があり、132名の専門家によって審査が行われました。
受賞作品となった「AQUA⁺ TANK(アクアプラスタンク)」は、美しく、開かれた研究施設への挑戦。企業と社会をつなぐ「魔法のタンク」。イノベーション創出を目的とした施設において研究施設が従来持っている、無機質的で閉塞的な印象を再発明できないかと考え「魔法のタンク」にたどり着いたものです。
一般的に日本の研究開発施設は設備的な要求や機密保持の観点から、内側に閉じた・暗く・閉塞感がある印象の設計になっています。stuでは、栗田工業の持つ先進的なイメージを施設に反映するとしたらどのような表現ができるか、エンターテインメント的な視点から「魅せる」演出を検討。
そして、施設の外からも見えるガラス張りの空間をショールームと捉え、研修用の実物の水処理プラント(水の浄化や処理を行う施設)と、そこでのプラント運転研修風景をショーとして見せる演出を考案しました。
建築設計・ソフトウェア含めた演出チームで、施設内にある貯水タンクに擬態して空間に美しく溶け込む円柱型LEDのタンクを制作。LEDに映し出されるコンテンツが空間照明と連動し、横幅約70mの広い空間が水族館や舞台のように演出を変える「地域の新たな景観」が生まれました。
LEDの映像コンテンツは社員の方が簡単に変更できるよう、アプリシステムも合わせて考案されたものです。現在、社員研修やセミナーのスライド投影、時刻表示、地域住民や来訪者に向けたメッセージボードなど幅広い用途で活用されています。
日常に溶け込む魔法のタンクを共に見ることで、会話やアイデアが生まれていくとのこと。その結果、研究施設が「企業と社会をつなぐコミュニケーティブな場所」となりました。栗田工業の持つ先進性・企業理念を直感的に伝えられるようになり、来訪者や地域の方々の企業理解や、社員同士のつながり促進に大きな効果があったとの感想が寄せられています。
研究施設という無機質な場所に出現した「魔法のタンク」。平面ではなく、円柱型のタンクという柔らかなフォルムが、アクセントとして効いています。また、研究施設にちなんだ「水」との関わりを彷彿とさせる「水槽」モチーフは、LEDの映像とは思えないほど環境に馴染んでいます。
そして、LEDの映像演出が社内で変更ができるようにアプリシステムも合わせて考案されていることで、日常に溶け込む映像の景観から、社内をはじめ来訪者や地域の人々とのコミュニケーションツールとしても機能するというところが魅力的なリブランディングとなっています。歴史あるデザイン賞を受賞したのもうなずける、まさにエンターテインメントの再発明の賜物といえそうです。