高齢者のカラオケといえば、カラオケスナックなどで 営業されていた“昼カラ”を思い浮かべる方も多いところ。以前は、カラオケが趣味の高齢者が低料金で昼カラを楽しめる店がたくさんありました。 そこでは意識せずとも、カラオケが趣味の者同士が集まって楽しく歌うことで、認知症対策ができていたのです。
しかし、2020年以降のコロナ禍で、数店舗のカラオケスナックでクラスターが発生したことにより、 多くの店が営業自粛を余儀なくされました。そして、ようやく今年になって、コロナが5類に移行しても資金難から営業再開できず、そのまま閉店においやられたケースが少なくないというのが現状です。
そこで、運営するコンセプト飲食店「昭和歌謡居酒屋UFO」で、高齢者の方々にもう一度昼カラを楽しんでいただいたらどうだろうか? という考えに至ったことが今回の取り組みのスタートです。
「昭和歌謡居酒屋UFO」は、その名の通り昭和の懐メロ、歌謡曲好きが集うカラオケ居酒屋です。カラオケ好きの高齢者の方々との相性を考えれば、昼カラ営業との親和性はもともと高く、必然とも言えます。
日本は2010年に高齢者人口の割合が21%を超えて“超高齢化社会”に突入しました。総務省統計局からは2023年9月現在で29.1%と、高齢化率が3割に迫る状況を示す統計も発表されています(※1)。
超高齢化社会では、社会保障費の負担増、労働力の減少ほか、解決が望まれる問題が山積していますが、“認知症人口の増加”もそのうちのひとつ。また、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるとされる報告書もあります(※2)。
国は「認知症施策推進大綱」に基づき、認知症対策を行っています。地方自治体も然り。たとえば東京都では「とうきょう認知症ナビ」というポータルサイトを運営するなどして、認知症になっても自 分らしく暮らし続けられる社会を目指して対策を講じています。
そんな中、近年注目されているのが“音楽を聴くこと”による認知症予防効果です。アメリカでは、認知症患者たちかが思い出の曲を聴くによって自分を取り戻すといった内容の映画 「パーソナル・ソング」(原題「Alive Inside」)が公開された際に、認知症治療としての音楽療法が注目されました。
近年は日本でも、音楽療法の推進を目的にとしたNPO法人の活動などもあり、介護施設などでのカラオケなども一般的に行われるようになっているということもあります。常連さんを招いた昼カラのプレ・オープンでも大盛り上がり。大きな声で歌を歌ったりするほか、歌に合わせて打楽器でリズムをとることも認知症予防に効果があるとされています。
今回の昼カラ開始にあたっては、東京上野「マイホーム クリニック」の伊藤院長にも意見を求め、推奨のことばをもらっているとか。「昭和歌謡居酒屋UFO」では、昭和歌謡に詳しい若いスタッフもいるということで、シニア世代同士で話ができるのはもちろんのこと、若い世代と交流して刺激を得ることも、 脳にいい影響があると思いますという言葉が寄せられています。
高齢者の認知症予防に音楽の効果があるというところから、昼カラオケを導入しようという昭和歌謡をテーマにしたコンセプト飲食店の施策。シンプルですが、医学的根拠も交えてコロナ前の昼カラ文化を取り戻そうという思いが伝わってきます。アフターコロナとなっても、一度失われたものはなかなか戻ってこないもの。再度、新しく積み上げていく取り組みや施策も今後増えていくのかもしれません。
※1参照元:統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-(2023年9月17日総務省)
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