昭和30~40年代ごろの高度経済成長期に建てられ、その象徴とされる「団地」。当時はまだ珍しいとされていたダイニングキッチンや水洗トイレなど、最先端の住宅設備を備えていて、庶民にとって憧れの住まいでした。そこから建設40~50年が経過し、建物の老朽化や住民の高齢化が問題視されるようになり、たびたびメディアでも取り上げられるように。
しかし令和になった今、リノベーションで生まれ変わる団地も多くなり、地域ぐるみで団地再生プロジェクトに取り組むところも増えていて、団地内に図書館を作ったり、複数の店舗や個人が料理を提供できるシェアキッチンを作ったりと、住まいとしての用途に留まらず、人々が集う場として進化を遂げています。
さらに、古くからあるものに愛着を持って大切にしたいという価値観を持った人たちから、築年数を重ねた団地やマンションには、和室や梁、レトロな扉など、新築にはない温かみが魅力的だと支持されています。また、家賃をおさえて、自分のスタイルに合わせた住空間をつくり上げることができることから人気となっています。そんな状況を受けて、団地を心地よい暮らしの場にすることを叶えた人たちの実際の事例をまとめた一冊が生まれました。
負の遺産のように扱われていた「団地」が新しい場所へと生まれ変わることで、ふたたび人が集う場所となり、人気になるというのはじつに興味深い現象ですが、こうやって何かが変化することで真逆の価値を生むようになるというのは、まだ見つけられていないだけで、さまざまなところに埋もれているのかもしれません。