ビュロ菊だより

<菊地成孔の日記2022年2月16日 / 午前2時記す>

2022/02/16 09:33 投稿

コメント:42

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 コロナ禍によるものか、いよいよ本当に平成が終わったからか、ここ数年、指名手配付きのストーカーも現れなくなったとはえ、近隣所轄署からの指導は守らねばならない。なので住所を同定できるような記述は避けるが、ベランダから見える光景が今月から一変した。


 

 向かいのマンションが老朽化で撤去されたからだ。僕が愛してやまないヒッチコックの「裏窓」の主景(あれはセットだが)に一変した。「裏窓」での中庭と、マンションの撤去跡地が同じ役割を担い、つまり、ボックス型に、今まで見えていなかったビル群の壁がむき出しになったのである。その一つは、恐るべきことに、クラシックバレエの教室である。



 

 ベランダでマルボロを消し、キャメラが外景から内景へドリーで移動しながらガラスの円卓に戻る。「先生、わざわざお越しいただきまして」。



 

 1年ぶりで、僕が年間、唯一するエグゼクティブの仕事をした。担当の税理士さんは、70オーヴァーだが、僕よりも身軽で、僕よりもよく喋る。

 

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コメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>50

 コメントを頂戴するたびに痛感し、それが麻痺したことがないのですが、やはりストリートのリアルとうものは箇所箇所によって全く違うという、概念的にはとっくに知っている原理のようなものですが、彼の地からのリポートは、一種の夢のような効果を持ってますね。

 僕はウイーンで闘犬を見たことがあります。それはなんて事はない、新宿で言えば地下のサブナードみたいな空間で、マクドナルドがありました。

 そのはす向かいに「シュトラウス(ワルツ王)の生家跡」という石碑みたいなもんが立っていたんですが、あんなもんは京都に腐る程ありますし、歌舞伎町に住んでいた頃は、マンションから出ると「小泉八雲の生家跡」という石碑もありましたので「へー、さすがウイーン。ザルツブルグに行ったらこんなモンじゃ済まないだろうな」と思い、毛皮の帽子を買うために(その時僕は、「毛皮の帽子を被らないと、脳が氷結しかけて死ぬ」という実感を生まれて初めて持ったので)、帽子屋を探していました。早朝の話です。

 しかし、まあそこそこ、新宿のサブナード程度には明るくて清潔な空間の、ごくごく普通の「マクドナルド・ウイーン地下鉄駅前店」みたいな店舗の真ん前に、1メートル四方ぐらいでしょうか、黒い染みがついていて異臭を放っていました。

 誰か、マックシェイクでもこぼしたのかな?と一瞬思ったんですが、その染みは赤黒く、ポロックのように、ぶちまけられたような形状でしたが、試しに指で擦ると、コールタールのような質感で、モップで拭いて取れるような感じじゃなかったんです。全身毛皮に身を包んだウイーン市民は、僕の素行を見て、明らかに軽蔑や哀れみの冷たい眼差しをくれました。流石に舐めはしませんでしたが、それは血の匂いでした。

 その日はオフだったので、毛皮の帽子も書い、屋台売りのシュニッツェルも買い、部屋で食べて、テレビを見てたんですが、どうしてもあの血痕が気になって、夜の10時だかそのぐらいに、毛皮の帽子をかぶって毛皮のコートを着て、あのマクドナルドに行ってみたんですね。

 通用口は半分は閉まっていて、でも、通用可能な入り口から簡単に入れました。そしたら、20人ぐらいの人だかりができていて、物凄いとしか言いようがない熱気で、闘犬博打が行われていたんです。

 もう、それはそれは、ハードコアで、「獰猛」という現象には英才教育を受けていたと信じてた僕でさえ、目を覆わんばかりの獰猛さが祭りを形成してたのでした。闘犬博打に興じる人々は、ほとんどが革ジャンを着た、いわゆるロックンローラーのようなルックだったんですが、毛皮にソフト帽の、上品そうな紳士も、その奥方と思しき、美しい帽子にベールがかかってる老婆もいました。

 なにせ一番驚いたのは、狂犬病ぐらいに猛り狂った、口から泡を拭いて、目を血走らせたシェパードに、さらにドープを打っている奴がいた事です。

 ドープを打たれた狂犬は、更に最強化して、首紐をちぎらんばかりに暴れ出しました。気がつくと、詰めの状態で待機している犬たちは、全部ドープを打たれていました。

 コンラートローレンツの本で「狼は狼の喉笛を食いちぎる事はできない」と知っており、本能のメカニズムに納得してたのですが、ドープを打たれた犬は、平気で相手の首筋に噛みつき、前足はサミングの一点狙いでした。

 人の輪の中心では、大一番が繰り広げられていて、僕が視線をくれた時には、丁度、勝負がついた瞬間でした。負けた方は、もともと茶色だと思うんですが、赤茶色でした。全身が血まみれで、首筋から細く、血が吹き出して、痙攣しいていました。勝った方は、調教師が荒縄で出来たSMの拘束みたいなもんで、ささっと捕縛されるんですが、2メートル近い大男がグラグラ揺れるほど大暴れしていました。

 大量の札束が動き、誰もが絶頂を迎えていました。「おお、やべえなヨーロッパ人の残虐」と、僕は興奮しつつもちょっと引いてしまって、もう帰ろう、と思っていたら、肩を叩かれました。最初から言葉なんか通じないと思ったのでしょう、相手は身振り手振りでしたが、そいつも口から泡を吹いていて、次の試合に出る2匹を指差し、親指と人差し指で札を揉む、例のあのジェスチャーをしました。どっちに賭ける?という訳です。

 当時僕は少々のドイツ語が話せたので、「いや、良い、観光客だ。見物だ」と言うと、そいつは猛烈な勢いでしゃべり出しました。何を言ってるのか全然わかりませんでしたが、合間合間にわかる単語がありました。忖度するに、「この博打は最低だ」「ウサギのレースが一番偉い」「中国には闘鶏があるだろ」「殺す」「喰う」「金がない」等のが含まれていて、僕は咄嗟には答えられず、とりあえず「そこのマクドナルドは許可してるのか?」と聞きました。

 すると、僕のドイツ語があまりに稚拙なのを聞き取ったか、長髪で、芸術家みたいな感じの中年男性が英語で話しかけてきました

 「失礼、あなたは中国人ですか?」
 「日本人です」
 「闘犬に興味が?」
 「いえ、日本に闘犬はない。ボクシングはありますよ。もちろん」
 「日本は大変文化的な国家だ。私は歌舞伎と北斎が好きです」
 「素晴らしい。僕はマーラーとシュトラウスが好きです」
 「素晴らしい。でも、私は闘犬も好きなのです」
 「闘犬は初めてみました」
 「日本で一番低級な賭博はなんですか?」
 「ボートレースかな、川にボートで」
 「ウイーンでは無理ですね笑」
 「どうして?」
 「川が凍るので」
 「ははははは」
 「犬の血も凍ります」
 「ここは暖房が効いてますね」
 「そうです。だから血が凍らずに」
 「はい、昼間それを見まして」
 「殺人事件かと思いました?」
 「いや、なんだかわからなかった」
 
 失礼、と彼は言って、ポケットからシリング(の時代です)の札を出し、「黒!」と叫んで、仕切りのネオナチ見たな奴に金を渡しました。しまったマクドナルドの話を聞けばよかった。と今でも思っています。

 



 

 

No.51 33ヶ月前

世界は歴史にかたを付けに行こうしてるのか。
時だけは、いつものように朝な夕なせっせと止まらずせわしなくゆっくりと進んでいく。
夜は昼の一部であり、昼もまた夜の一部である。
歴史は今の一部であり、今もまた歴史の一部である。
ほらMachine Gunより、捨て台詞のBazinga。
言葉のMachine Gunより、捨て台詞のBazinga。
なんつって(笑)

No.52 33ヶ月前
菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>52

うわー!こうちゃん!後続が出てきたぞ!笑

No.53 33ヶ月前
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