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・ゲーム産業の興亡(101)
Oculus VRの巨額買収に見るクラウドファンディングの課題
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(101)
Oculus VRの巨額買収に見るクラウドファンディングの課題
4月26日〜27日に、幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議3」では、大小のバーチャルリアリティに特価したヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」を利用したデモンストレーションが非常に多かった。日本での盛り上がりは、さらに勢いが増している。
一方で、開発を行うOculus VR(米カルフォルニア州)を信用してよいのかという疑問と課題は現在も続いている。
それは、3月26日にFacebookが、Oculus VR(カルフォルニア州)を20億ドルという高額で買収したためだ。この買収は、クラウドファンディングの制度に欠陥があるという指摘を呼び、形成されたコミュニティは自分たちが支援先と考えていた存在に利用されたのでは、という気持ちにさせる、どこか後味の悪い買収であったのは確かだ。
■クラウドファンディング制度の欠陥
2012年9月に、クラウドファンディングの米Kickstarterで、Oculus Riftを開発・製造するためのプロジェクトの資金公募として、目標としていた25万ドルを大きく超え、9500口、243万ドルを集めることに成功し、ゲームを中心に据えたバーチャルリアリティへの関心が高まっていることを明らかにした。
開発者向けの開発キットDK1のリリースを13年3月から開始。300ドルという破格の値段の安さも要因となって、1年で3万台以上を、全世界に出荷することに成功した。そして今年3月20日、今年7月よりスクリーン性能をフルハイビジョンに引き上げ、頭の動きを検出するセンサーを追加した後継機の発売を発表。予約注文が開始された。
そして、3月26日に、米Facebookが20億ドルで買収すると発表。設立から、1年半しか経っていないベンチャー企業に、これほどの値段がついたことに衝撃が走った。
最高技術責任者(CTO)に、リアルタイム3Dゲームの基礎を作ったジョン・カーマック氏が就任するなど、ゲーム産業での著名人が参加しているということが、これらの価格を引き上げた一因となったことは、Oculus側 も認めている。単純に言うならば、公募によって集められたお金は、1年半で、買収により400倍もの価値へと膨らんだということだ。
ところが、これがクラウドファンディングの制度的な欠陥として、指摘もされている。「How to Harm Investors(投資家の傷つけ方)」というタイトルで、ニューヨークタイムズが3月29日に社説を公開している。その内容を短く説明するならば以下のようなものだ。
「Oculus VRのようなケースが登場することは、12年にクラウドファンディングについての法案が通過する時には想定されていなかった。Oculus VRの公募に応じたユーザーは、プロジェクトで約束されたリターンしか得ることしかできず、Facebookが買収するような大型のリターンがあったときにも、それを得ることができない不公正さが存在している。そのため、政府はクラウドファンディングを機能させるために、再度、新しくしなければならない」
出資者たちには、少なくとも、Kickstaterの出資時の見返りがある、Oculus Riftや、Tシャツやポスターを手にすることができている。それ以上のことを提供するという約束はなされてないため、得られたものはそれで終わりだった。制度的には間違ってはいない。
しかし、そもそものクラウドファンディングという「寄付」に近い形で「善意」でお金を支払ったにもかかわらず、一度プロジェクトが成功し、買収という形で高値がついてしまうと、善意の気持ちは、どこかに忘れ去られていく。
コミュニティを味方につけて公募に成功し、クラウドファンディングを成功させた後、製品販売がなされる前、期待値が高いうちに会社を売却することが正しい、という奇妙なロジックが成立した可能性があるのだ。
■買収で得られるメリットとコミュニティの損失はどちらが大きいか
Oculus VRがFacebookの買収を受けることで得られるメリットは大きい。
財政基盤を安定させるという強みがある。有能な才能を集め、製造費を負担し、アプリケーションの開発に思い切って投資できる。
筆者が、先月の来日時に、パルマー・ラッキー氏にインタビューした際には、Oculus Riftが目標とする、「バーチャルな世界に住むようになる世界を考える上でモデルとなるもの」と考えた際に、「すでにFacebookというソーシャルネットワーキングサービスは、それを実現している。また、それを運用するサーバのノウハウは、他社に真似ができないもので、今後必要になってくる技術」と答えていた。そういう理由から、相性がよいのでは、という議論があったことを明らかにしていた。
ただし、1年あまり、Oculus VRへの発展へと貢献をしてきたと考えているユーザーたちからの風当たりも強い。例えば、ノッチことマーカス・パターソン氏は、世界的に人気のある「マインクラフト」のOculus Rift版の開発を買収発表後に、中止したことを発表した。
まだ、市場が成立もしていないバーチャルリアリティの市場を盛り上げるために、Oculus Riftを手にしたユーザーは様々な実験を行い、その結果をユーザー間で共有することで、発展を促してきた。しかし、そのコミュニティも、その成果も、買収金額をつり上げるための役には立っているのかもしれないが、貢献していた自分たちにはリターンが戻ってきていないと感じられるのだ。
はたして、Oculus VRが買収されたことは妥当と考えるべきなのか。もちろん、ラッキー氏は「行動で証明していく」と話し、Facebookから、自由な形で経営を続けることを話していたが、答えが出るには時間がかかるだろう。
ただ、超会議を見ていて、Oculus Riftに代表されるバーチャルリアリティブームの形成は本物だなという実感が感じられる。多額のお金が動き、産業を形成しようと圧力がかかり、開発者のユーザーがそれを追いかける。まだ、一般消費者の製品になるには時間がかかるだろうが、注目度はますます高まるだろうと思う。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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