めるまがアゴラちゃんねる

2014年5月第1週号

2014/04/28 12:44 投稿

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めるまがアゴラちゃんねる、第089号をお届けします。
配信が遅れまして大変申し訳ございません。


コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(100)
「ニコニコ超会議3」が見せるメディアの見方の切り替え
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(100)
「ニコニコ超会議3」が見せるメディアの見方の切り替え

4月26〜17日、千葉幕張メッセで、ドワンゴが主催するユーザー向け大型イベント「ニコニコ超会議3」が開催された。来場者は12万人と、昨年の10万人を超えた。

もちろん、主力サービスの「ニコニコ動画」と連動したイベントである点に特徴がある。会場では、様々なイベントが同時並行で開催されるが、来場できなかったユーザーも「ニコニコ生放送」の中継を通じて見ることができる。会期中に行われた、番組の延べ視聴者数は、約760万人と、昨年より250万人以上の大幅増加になった。

先に結論を最後に書くと、昨年は、ニコ動だからこそ生み出せたゲーム分野での「新しい現象」があった。特に、「ゲーム実況」と呼ばれるゲームの中継動画は、昨年大きなムーブメントにもなった。しかし、今年は、全く新しいトピックを見つけにくく、大半が、昨年の「焼き直し」に見えた。

ただ、私が取材する上でのフレームが古いというよりも、超会議というメディアの性質が持つメッセージによる影響が大きいのではないかと考えている。


■誰も全体像を完全には把握できないのではないか

筆者も、初日に会場に、取材に訪れているが、幕張メッセの南側ホールをすべて使い規模の大きなものだった。終日それぞれのブースを見て回っていたものの、全てを把握できたとはとても言えない。その難しさは、「ゲーム」というトピックなりに集中している、9月の東京ゲームショウ(TGS)と比較すると明白になる。

「動画」というコンテンツの供給とユーザーの需要の違いが、イベントそのものにも違いを生み出していると思われるが、それだけ、サブカルチャーとして認識できるものが細分化していると捉えることができる。ニコニコ超会議は、ドワンゴが決めたもの、もしくは、企業のスポンサーがついたものという明確な制約があるものの、「オタク」と呼ばれるようなコンテンツの全体像の形を見せることに成功している。

ただし、それでも見えるのは片鱗にすぎない。

超会議の会場では、そこで開催されている細かなイベントを、すべて動画としてニコニコ生放送として放送をしている。放送された番組は70を超えており、これまたネットで注意してみていたとしても、全体像をつかむことは難しいだろう。

行われていたイベントは、ゲームを遊ぶ映像を配信しながら見る側を楽しめるように語る「ゲーム実況」、「初音ミク」といった歌声合成ソフトを使って終日行われる「コンサート」、政治などの問題を議論する「言論コロシアム」、素人が人気曲歌ったり踊ったりして高い再生回数を得た人が集まる「歌ってみた」「演奏してみた」等々、ニコニコ動画では日常的に行われているものや、コンビニ、カラオケなど協賛の企業ブースも昨年よりも大幅に増えていた。

今年、ドワンゴが用意していた目玉企画は「大相撲超会議場所」。大相撲の巡業を呼び込んだもので、多数のTVを含めたマスコミが集まっており、初音ミクのコスプレ姿の客が観客席に座っているという姿を撮影している姿をみることができた。

水族館からは深海生物の節足動物「ダイオウグソクムシ」の特別ブースが用意されていた。また、昨年に引き続いて、自衛隊と米軍が出展しており、今年は、戦闘ヘリコプター「アパッチ」の実物を展示していた。

こうした展示は、生放送向けに専門家が解説をする番組が設けられている。しかし、会場をグルグル回っていると、とても、そうした解説をゆっくり聞いているような余裕はない。


■滞在時間は東京ゲームショウなどと大きく違う点

これらの放送は、終わった後にも、月500円の有料会員であれば、一定期間の間、放送をあとから見ることができるが、すべての放送を見る人は、限りなくゼロに近いと思われる。しかし、会場にいる場合には、その専門の解説をじっくり聞くという楽しみ方を選ぶこともできる。他に行われているイベントを見ないことに決めてしまえばいいからだ。

実際、筆者も「超ボーカロイド感謝祭」という、「初音ミク」などの楽曲合成ソフト「ボーカロイド」のライブに、終盤の1時間あまり参加し続けていた。初日だけでも6時間行われるライブは、ボーカロイドの人気楽曲を生み出した作曲家(通常「P」と呼ばれる。プロデューサーの意)や、ニコ動内でDJ配信をしている人気DJが次々に登場する人気のあるイベントだ。女性に人気のあるPも多く、終日、その場にいた人も多いようだ。

これは、東京ゲームショウ(TGS)の一般日の際と比較すると、ユーザーはひと通り、各ゲーム会社が展示しているゲームを見て回ると、満足して帰っていく。初めて発表になるゲームの映像や、デモプレイ、グッズ等を得ると、あとは声優や芸能人が登場するようなイベントを見るかどうかという選択肢になってくる。

TGSでは、各社は、今後発売になる家庭用ゲームへのユーザーの期待値を高めていくために、プロモーションを目的として、ブースを出展している。ユーザーも、目的の新作ゲームがある場合が多い。

そのため、デモプレイのために1時間以上かかるような待ち時間を繰り返さなければ、2〜3時間もあれば、全体は見終わってしまう。買いたいゲームは限られることもあり、ユーザーにとってTGSは「退屈だ」という意見も多く、陳腐化しないように、毎年工夫を凝らしている。それでも、昨年は4日間で27万人を超えている(土日の一般日で21万人)。


■ニコニコ超会議というメディアのメッセージ

陳腐な感想かも知れないが、マーシャル・マクルーハンの有名な言葉「メディアはメッセージである」という言葉が思い浮かぶ。TGSという入れ物は、開始から 年経っているため、形が固まっている。すでに、どのようなメッセージが登場するのかが見えており、逆に伝えられるメッセージに冗長性が無い。筆者の場合には、「新型ハード」「新作タイトル」「発売日」がすべてだ。その周辺に、インタビューやビジネス戦略といったものが見える。

しかし、超会議は、まだまだ見えていない。イベントとしては3回目であり、どのようなメッセージへと固まっていくのかははっきりとは見えていない。ただ、筆者自身も、2回目となる取材で、捨てるところと拾うところの分類が始まっている。

昨年は、ただ、こうしたリアルとネットがパラレルで膨大な情報量が発信されて、溺れるような気持ちだったが、今年は、「溺れそうになるとどんどん情報を捨てる」というスタンスに切り替えて臨んだ。

世の中の増え続ける情報を、超会議は、一日に更に過剰にする試みだが、他のコンテンツと混ぜて共有化が可能になるのかは、不明確な部分が大きいと感じている。ニコニコ超会議のメッセージは、動画コンテンツをリアルに混ぜ続けることで生まれる何か、であると思えるが、それを社会的な関心を集めつつ維持できるのかは興味が沸くところだ。



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin

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