めるまがアゴラちゃんねる、第065号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(76)
【特別篇】ブラウザベースのソーシャルゲーム会社の直面する苦戦
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(76)
【特別篇】ブラウザベースのソーシャルゲーム会社の直面する苦戦
今週は特別篇として、ソーシャルゲーム市場で起きていると思われる最新の情報を書いておく。予想以上に変化のスピードが速く、新興の企業が苦戦を強いられている状況が起きているようだ。
■ウェブソーシャルの企業は大半が赤字に転落
「ウェブブラウザでソーシャルゲームに参入した企業の8割近くが、赤字に転落している」とあるソーシャルゲーム関係者が、筆者に指摘してくれた。
ウェブソーシャルゲームは、HTMLとフラッシュを利用した比較的開発のハードルが低いゲームで、09年にDeNAとグリーともが、Facebookのビジネスモデルを参考にして展開した物だ。他社に自社の携帯電話(二つ折りタイプのガラケー)向けのSNSに他のゲーム会社が参入することができ、多様なゲームが登場した。それにより、日本国内の新しいゲームプラットフォームとしてDeNAとグリーが急速にユーザーの強い関心を集め、急成長の源になった。
ピーク時には数百社に登る、多くの企業がウェブブラウザのソーシャルゲーム(ウェブソーシャル)に参入した。その大きな要因は、開発費はニンテンドー3DSでは最低でも1億円、家庭用ゲーム機では10億円以上の開発コストを必要としていたゲーム開発コストが、激減したにも関わらず、新しいゲーム分野としての収益可能性に高い注目が集まったからだ。
■なぜ、ガラケーソーシャルは収益が高かったのか
08〜09年のスマホソーシャルの開発費は500〜1000万円で、開発期間も3週間程度で短い期間でサービスを開始できながら、高い収益性を獲得できたということが、劇的な成長を促した。ゲームとしては、質は低いという指摘が繰り返されたが、それでも急成長をもたらした背景には、典型的な「イノベーションのジレンマ」がある。ユーザーはその質の低さでも満足したのだ。手もとにガラケーがあり、移動時間といった隙間時間に5〜10分間にちょっとゲームを遊ぶことができる。その手軽さがユーザーを集めた。
また、日本特有の要因として、カードを集めて他のユーザーと争う「カードバトルゲーム」の人気がある。代表格はグリーの「探検ドリランド」があり、カードを集めてゲームを進めてキャラクターを育て、敵と戦い、また、一定期間ごとに、強いボスに勝負を挑むという構成でできている。
その大きな収益源となったのが「ガチャ」である。ゲームを有利に進めるには、力の強いカードを手に入れる方が、ゲームを楽しめるようにシステムが作られている。そのカードの取得には、一般的に一回300円の「ガチャ」を通じて手に入れる仕組みになっていた。
日本のユーザーは、世界の他の地域に比べて、一人当たりが一ヶ月にゲームに課金する金額が高いが、このときの1回300円という価格設定が受け入れられたためと考えられる。それが基準となり、ユーザーに受け入れられるようになり、現在に至るまでソーシャルゲームは収益性の高さを支えている。
■ブラウザソシャゲの発展する方向は幅がなかった
ウェブソーシャルのカードバトルゲームは、開発に求められる技術は、一般的なゲームに比べ、それほど難易度が高いとは言えなかった。そのため、ゲームは似たような内容のゲームが乱発されるようになった。ただ、HTMLベースのブラウザソシャゲは、HTMLの技術を土台としているため、複雑な演出を表現することができなかった。
そのため、ゲームの発達方向は、カードバトルに登場するカードの美しさを競うという形で勝負をする方向に発展し始めた。「超美麗化カード」といったものが宣伝文句となり、獲得できるカードの絵は手の込んだアートスタイルを持ったキャラクターの絵として登場するようになった。優れた絵を描ける人材を求めるニーズが生まれ、そうした人材には、1枚あたり20〜30万円といった価格が付くことが当たり前になり高騰した。
しかし、絵の魅力は、どのゲームにもあふれかえり、当然、各ゲームの魅力を押し下げる結果となった。
ブラウザソシャゲの状況は、11年頃「焼き畑」と呼ばれることもあった。仕組み的には、同じようなゲームなのに、単に乗っているゲームのグラフィックスが違うゲームだらけになったからだ。いずれユーザーは飽きるのではないかという話も出ていたが、それがわずか2〜3年後に起きるとは誰も予測していなかった。
■一時的な成功からスマホへの移行で業績悪化に
当時、急激に成長したことで、数タイトルのウェブソーシャルの成功で上場した企業も少なくないKLab、クルーズ、ボルテージ、エイチーム、コロプラなどの各社だ。多くの企業だ。ところが、ウェブソーシャルも、また、イノベーションのジレンマに直面した。
もちろん、12年前後からその動きが明快に出てくるようになった、スマートフォン向けのソーシャルゲーム(スマホソーシャル)への適応に失敗しつつあるからだ。今、成長が続いているエイチーム、コロプラは、スマホソーシャルへの転換に成功している企業だ。
一方、ウェブソーシャルで成功した企業で、上場を視野に入れていた企業の話が立ち消えになるケースが登場してきている。グリーのSNSで「騎士道」などで、11年頃には、大きな成功していたグミは赤字転落をしたと見られている。そのため、上場の話は完全に立ち消えになっている。KLabやクルーズ、ボルテージなどの企業も苦戦に直面している。また、ウェブソーシャルを中心に展開していたグリー自身が苦戦している。
■新しいウェブソーシャルの人気が再び戻ることはない
何度か触れているが、ウェブソーシャルとスマホソーシャルでは、求められる技術水準がまったく違う。スマホソーシャルでは、既存の家庭用ゲーム機会社水準の技術と質とボリュームが求められるようになる。この開発ノウハウはウェブソーシャルの大半の企業にはない。
また、開発コストも5000万〜1億円が当たり前になった。2012年秋以降の「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンラインエンターテイメント)のような、スマホソーシャルに市場の中心がシフトしたために状況ががらりと変わったのだ。再び「イノベーションのジレンマ」が登場した。今後、ウェブソーシャルの世界では、人気を確立しているゲーム以外に新規タイトル出てくる余地はない。
そのため、前述のウェブソーシャルの関係者は、すでにDeNA、グリーのSNSへゲームを展開していた新興のゲーム会社の業績が急激に悪化しつつあり、撤退が始まっているという話になっている。撤退の話は、表にデータが出ることがほとんどないため、正確な実情は見えない部分があるが、ウェブソシャゲは、本当に「焼き畑」だったようだ。
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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
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