めるまがアゴラちゃんねる、第049号をお届けします。
発行が遅れまして、大変申し訳ございません。

コンテンツ

・ゲーム産業の興亡(59)
「Doom」や続編が与えたリアルタイム3Dへのインパクト
新清士(ゲームジャーナリスト)


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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)

ゲーム産業の興亡(59)
「Doom」や続編が与えたリアルタイム3Dへのインパクト

id Softwareが、次に開発したのが1993年に発売された「Doom」という一人称シューティングゲーム(FPS)ゲームだ。ゲームの内容は現在から見るとシンプルで、火星にいるスペースマリーンが、突然登場した悪魔の群れと、だんだんとパワーアップしていく銃を使って戦いながら脱出を目指す。

空間こそリアルタイム3Dで表現されているが、キャラクターは2Dで表示されていた。そして、このゲームは熱狂を持って受け入れられた。途中までは無料で遊ぶことができる形で、リリースされたパソコン向けの無償バージョンは、最初の5ヶ月で、130万本がダウンロードされ、当時としては大成功を収めた。販売本数の売上は、その年だけで、数百万本に及んだ。「Doom」の続編である1994年の「Doom II」はさらに大きな成功を収め、ダウンロード数は1000万本を超えた。

■カーマックが行った一部のプログラムのソースコードの公開
そして、プログラマーのジョン・カーマックは、ハッカー向けに重要な意思決定をする。自分がハッカーコミュニティの支援を受けながらゲームを開発してきているという自覚があったために、貢献をしたいと考えたのだ。自分のプログラムのソースコードをハッカーたちが見たいと心から望んでいることを、自らの経験からよく知っていた。そのため、「Doom」のマップ作成プログラムを書くことができるように、社内で使用していたツールとそのソースコードを公開したのだ。

ゲームの発売とともに、爆発的に広がったのがそのコミュニティだ。一人で遊ぶゲームだったが、ネットワークでのマルチプレイ対戦機能は非常に魅力的であり、求められたものだった。

マイクロソフトの「Windows 95」にネットワークプログラムが組み込まれることで、他のプレイヤーとの対戦のプログラムを比較的容易にするハッカーも現れた。電話に接続するダイアルアップモデムを使って対戦したり、ローカルで接続したパソコンをつないで対戦を楽しむユーザーたちも登場するようになった。オンライン対戦機能は極めて高い人気を誇り、ユーザーが強くその機能を求めていることでもあった。

■ハッカーたちが押し進め、広がっていくリアルタム3Dのイノベーション
また、ユーザーから大量のフィードバックも行われた。公開されたソースコードやマップ作成ツールなどを使って、ゲームの内容を大きく組み替える「Mod(モッド)」が登場するようになった。Modとは、Modify(修正する、改良するの意味)を縮めたもので、スキルのあるユーザーたちは、次々にゲームを改造することを楽しむことが起きるようになる。(ただし、id Softwareの他のスタッフに比べ、カーマック自身はそれほどコミュニティの広がりには関心を持たなかった)

元々、「Doom」は画期的なゲームであったが、熱心なハッカーたちが限界のある情報の中で、自らのニーズを満たすように、自らが開発を行っていくことを始めるようになる。このModが、2000年代始めに、「イノベーションの民主化」を引き起こす際に、重要な役割を果たしていることが知られることになる。

id Softwareは、ユーザーコミュニティのフィードバックを見ながら、オンライン対戦機能がユーザーにとって極めて重要な存在であることを学ぶ。そのため、キャラクターも舞台も、すべて3Dポリゴンで表現されるようになる1996年の新作「Quake(クウェーク)」では、最初にオンライン対戦機能を実装し、発売前の開発途中のゲームをリリースした。このバージョンでは、ゲームプレイを制限するような機能を設定していたが、早々にプログラムを解析したハッカーによって、制限を外してしまうことも行われた。

■広がっていくリアルタイム3Dの開発ノウハウ
「Quake」の開発には、ゲーム産業で働いた後に、マイクロソフトで、1993年にリリースされる主にワークステーション用に開発されたWindows NT向けにグラフィックスのプログラミングを開発していた、やはり天才プログラマーの一人として挙げられるマイケル・アブラッシュが参加している。「Quake」の開発にも関わり、プログラマー向けの当時の雑誌「Dr. Dobb's Journal」に連載してきた記事をまとめたリアルタイム3Dのプログラミング技術を解説する1994年に「Zen of Graphics Programming」という書籍を発売する。

この書籍はカバーが黒いものであったために通称「Black Book」と呼ばれ、3Dグラフィックスのゲーム開発を行うプログラマーにとっては、聖典とも言える存在になった。当時のゲーム会社には必ず一冊はあると言われたような書籍だった。

それは、1994年の「プレイステーション」の発売以降、リアルタイム3Dのプログラミングノウハウを必要としていた日本のゲームプログラマも例外ではなかったid Softwareの公開していたソースコードとともに、「Black Book」は大きな影響を与えている。

id Softwareの開発した「Doom」や「Quake」は商業的にも大きな成功を収める。カーマックというプログラマーの天才がいなければ、なしえなかったことではあるが、一方で、同時にハッカーコミュニティと相互作用が、さらにリアルタイム3Dの開発を加速化する要因となる。

※参考文献 フラッド・キング、ジョン・ボーランド「ダンジョン&ドリーマーズ」(ソフトバンクパブリッシング)



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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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