まるまがアゴラちゃんねる、第045号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(55)
技術革新という点で、民間のゲーム産業は軍よりはるかに進んでいる


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特別寄稿:

ゲーム産業の興亡(55)
技術革新という点で、民間のゲーム産業は軍よりはるかに進んでいる

98年頃から、08年頃まで、日本では次の世代の人材育成という点で大きく、海外の企業に差をつけられることが起きる。地力の開発能力に差がついたのだ。家庭用ゲーム機の市場規模は、12年で日米では約2倍以上の差がついている。もちろん、これはそもそも「人口」の差が大きな要因ではあるが、一方で、日本企業のゲームが獲得できている市場シェアは2000年代に入って獲得には苦戦を強いられてきた。その理由の一つは、「人材」に要因があると、私自身は考えている。

1990年代末期から、2008年にiPhone 3Gが登場する約10年の間、日本のゲーム産業は、積極的に一般ユーザーにまで開発環境を公開するといった形で、人材育成をしてこなかった。90年代にはゲームは人気産業であり、放っておいても、次々に優秀な人材が流れてきたからだ。

しかし、国産パソコンが、特に「Windows 95」の登場により事実上消滅した以降、家庭用ゲーム機と当時のPCのハードウェアのアーキテクチャーの違いから、ゲーム開発を学ぶためにはゲーム会社か、もしくは、それを専門的に教えている専門学校といったところに所属するしかなくなった。その影響は、2000年代に入って技術力の差によって、露見してくるが、90年代末期に好調だった日本のゲームは、その後の差を生みだす要因になるとは考えていなかった。成功している時に、次の時代の失敗の要因が組み込まれてしまう典型例だろう。

■ユーザーの活動が産業を生みだす役割を

未来学者のアルビン・トフラーは、1980年に刊行された『第三の波』のなかで、「生産消費者(プロシューマー)」という言葉を作った。これは「販売や交換のためではなく、自分で使うためか満足を得るために財やサービスを作り出す人」の意味である。個人または集団は、生産したものをそのまま自らが消費するとき、「生産消費活動」を行っているといえる。これらの生産消費活動の領域が、新しい時代に進むにつれて広がっていくと考えた。

単純にいうならば、DIY(ドゥ イット ユアセルフ)の領域が広がり、消費者は情報革命によって自由にデータのカスタマイズをより容易に行うことができると見ている。その時代の予測は現在から見ると、素朴でさえある。現在の我々はあまりにも日常的に、「生産消費活動」を行っているため、その自覚さえなくなっている。

ただ、トフラーは、21世紀に最後の著書になる『富の未来』(2006年)でプロシューマーの重要性の領域が広がる姿を論じている。その中に、ゲームの発達に実際に影響を与えていると触れている部分がある。少し長いが、その部分を引用しておきたい。

「生産消費者は、趣味を活かして企業をつくるだけではない。大きな産業を生み出すか、その一助になることもある。25年前(1980年前後)には、コンピュータを使った高度なゲームとシミュレーションは主に軍が作り使っていた。J・C・ハーツとマイケル・R・マセドニアはディフェンス・ホライゾン誌で、軍のソフトが『集権型で、堅苦しく、階層型の感情で、契約者が指定された通りの高コストのソフトを強力なワークステーション用に開発して発達してきた』と指摘している。これに対して市販のコンピュータ・ゲームはそのころ、『まったくちゃちなものだった。ビニール袋入りのフロッピー・ディスクで、熱心なゲーム制作者が売っていた』。

■ユーザーに開発環境を認めたことで軍より優れたゲームが作られる

だが、軍のスーパーコンピュータではなく、安くて小さいコンピュータを使う市販用のゲーム制作者は間もなくオンラインのコミュニティを形成し、戦争ゲームなどの市販のゲームを協力して変更し、改変し、改良するようになった。1990年代末になると、『市販の戦争ゲームや戦闘ゲームのほとんどすべてに、登場人物の正確やシナリオを自由に作れるレベル・エディターやツールがつけられるようになった』。

要するに、市販のゲームは生産消費者にソフトを自在に変更し、複雑にし、豊かにするように促しているのである。その結果、『技術革新という点で、民間のゲーム産業は軍よりはるかに進んでいる。……何百万人、何千万人ものゲーム愛好家がきわめて熱心で、世界的なネットワークで結ばれ、自由に組織を作って、みな、自分が一番になろうと必死になっているからだ』。

このように、非金銭経済での生産消費者の技術革新が一因になって、コンピュータゲーム産業はいまでは200億ドルの規模にまで成長している。はじめて聞いたときに驚いた人が多いはずだが、いまではハリウッドの映画産業よりも規模が大きくなっているのだ。(P.327-328)

これは、アメリカの事情の説明だ。00年代に入って、日本のゲームが欧米のゲームに比べて技術力の面で大きく差をつけられる理由になり、同時に、現在のハードウェアプラットフォームで苦戦している理由でもあると考えている。日本の家庭用ゲーム機会社は、伝統的にユーザーに関与を認めてこなかった。

一方で、現在では、iPhoneのアップストアようにユーザーの関与を一定程度認めるオープン性を作った方が、自社のプラットフォームが有利にできることは、ハッキリしてきている。現在の自社の戦略に、プロシューマーが生みだすイノベーションを取り込むことは、有利な立場を作ることにもなるからだ。


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新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
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