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2012年10月第3週
めるまがアゴラちゃんねる、をお届けします。
またまた更新が遅れました。申し訳ございません。
コンテンツ
・「ゲーム産業の興亡」(23)「ソーシャルゲーム」は、それほど”ソーシャル“ではない
・『気分はまだ江戸時代』連載第013回 「儒教的な官僚と江戸時代的な政治家」与那覇 潤 / 池田 信夫
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特別寄稿:
新 清士
ゲーム・ジャーナリスト
「ゲーム産業の興亡」(23)
「ソーシャルゲーム」は、それほど”ソーシャル“ではない
一方で、Rovioの「アングリーバード」のケースは例外的であることは事実だ。GDC2012のスマートフォン向けのゲーム開発者の独自調査によると、「アングリーバード」や、大ヒットした「Cut the Rope」、「スワンピーのお風呂パニック」とった上位の数タイトルが、アップルのApp Storeの有料アプリの50%以上を占める結果になっていると推計していると述べている。
100位以内のタイトルが、20%あまりの所に存在し、それ以外の数万という膨大な数のゲームアプリが、残りのわずかな市場のなかでひしめき合っている。iOSの市場は、08年にApp Storeが登場して以来、年率100%以上の成長を続けている。0.99ドルという価格であっても、常連タイトルに入る事ができた、ごく一部のタイトルは大きな収益を出せるかもしれないが、そのチャンスを獲得できる企業は限られる。
■アイテム課金モデルへとシフトが進んだスマートフォンのアプリ
無料版のゲームは、有料版に比べ、10倍以上ダウンロードされるというのはApp Storeの常識で、かなりの数のユーザーが無料でゲームを楽しんでいることは間違いない。アップルは、「iPhone4」だけで1億5000万台、「iPhone4S」で1億台の販売に成功しているとみられている(※2)。これにはiPod Touchは含まれていない。さらに、アンドロイド端末も2011年11月には2億台を突破したとグーグルが発表している。(※3)
そのため、販売台数は、携帯ゲーム端末のニンテンドーDSの1億6000万台を大きく上回っている。もちろん、これらの所有ユーザーのすべてが、ゲームを遊んでいるわけではない。
しかし、ゲームの使用経験は、モバイルアプリの中での利用率はトップだ。過去30日に、使ったアプリのうち、ゲームはトップで64%、天気予報の60%、ソーシャルネットワークの56%さえ上回る。(※3)。スマートフォンは多様に利用可能なアプリのうち、ゲームが重要な存在となっている。ゲームアプリは、全体のアプリ分野の中で、最も開発されている分野でもあり、種類も豊富だ。
一方で、iPhoneの場合、08年に比べて大きく異なってきているのは、有料アプリから、12年にはアイテム課金の仕組み「In-App Purchase」と組み合わせたアプリが売上の中心へとシフトをするようになった点だ。ただ、これは驚くべきことではないだろう。現在では、App Storeの売上上位には、ソーシャルゲームが常連で入るようになっている。
アメリカの場合は「Dragon Vale」(Backflip Studios)、「Clash of Clans」(Super Cell)、Kingdomw of Camelot」(Kabam)等。日本では、「パズル&ドラゴン」(ガンホーオンラインエンターテインメント)、「拡散性ミリオンアーサー」(スクウェア・エニックス)といったタイトルだ。
App Storeでのトップセールス100位の世界的な傾向では、2010年6月には有料ゲームが71%だったのが、12年6月には68%が、アプリ無料のIn-App Purchaseを使ったアイテム課金と逆転している。(※4)。これは驚くべき数字ではないだろう。有料アプリの価格下落が激しく状況では、特定のゲームを継続的に遊んでくれるユーザーから、継続的に収益を上げ続けるためには、アイテム課金モデルが最も適切であるからだ。
■混乱する「ソーシャルゲーム」の定義
そろそろ「ソーシャルゲーム」が、なぜ、家庭用ゲーム機市場を凌駕する存在へと変わっていったのかに話を進めようとしている。ただ、その途中で考えておく必要のある問題が出てくる。「ソーシャルゲームの定義とは何なのか?」という問題だ。ソーシャルゲームは、アイテム課金モデルと、ほぼ一体化しているサービスと言っても過言ではない。
しかし、「In-App Purchase」のゲームはすべてソーシャルゲームなのだろうか。アップルは、 年から、「Game Center」という、マイクロソフトがXbox360用に確立した「Xbox Live」という仕組みを真似たサービスを開始している。この中身は、他のユーザーとの特定のゲームのハイスコアを競ったり、自分のフレンドがどんなゲームを遊んでいるのか、もしくは一緒にゲームを遊ぶことを仲介するといった仕組みを提供している。ゲーム向けの専用ソーシャルプラットフォームと考えることができる。
では、Game Centerに対応したゲームは、すべてソーシャルゲームと言えるのかというと、少し違っていそうだ、という感じがするため、ややこしい問題が出てくる。
もしくは、「In-App Purchase」に対応しているゲームで、少しでも他のユーザーと遊ぶ要素が存在するのであれば、ソーシャルゲームと呼べるのだろうか? 元々、ソーシャルゲームは、ソーシャルネットワーク(SNS)内で提供されているゲームというニュアンスが強かったが、だんだんと言葉の定義の範囲は曖昧になってきている。
11年のGame Developers Conference(GDC)での岩田聡社長の講演では、「任天堂はソーシャルを提供してきた」という一面も強調している。実際、ファミリーコンピュータの時代から友だちの間のコミュニケーションを作り、「ポケモン」のモンスターの交換機能、家庭内の誰かと遊ぶことが前提となっている「どうぶつの森」、リビングルームにいる家族が様々な形で関わることが前提となったハードウェア「Wii」など、社交性という意味でのソーシャルでは、任天堂は先行してきたのは事実だろう。
社交性という意味では、「ファイナルファンタジーX」といったMMORPG(大規模マルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム)の方が、一つの仮想世界に参加して、他のプレイヤーとチームを組んでゲームを進めていくという意味では、はるかに高い。
実は、「ソーシャルゲーム」は、ソーシャルと名前が付いているが、実際は一人で遊んでいる。GDC2011で、マサチューセッツ工科大学(MIT)のMia Consalvo 氏は、Facebookのゲームユーザーを対象としたアンケートの結果を通じて、「ゲームの中に友人は存在しているが、ほとんど沈黙している。友人は物の交換に留まっており、友人がスキルを通じてゲームプレイで、他のプレイヤーを助けるようなゲームはほとんどない」と指摘している。(※5)
では、なぜソーシャルゲームは、ソーシャルゲームなのだろうか。
(※1)GDC2012のどっかのゲーム会社のプレゼン
(※2)アップルの四半期決算の販売台数よりの推計。
(※3) http://wirelesswire.jp/Watching_World/201111211128.html
(※3)ニールセンの2011年Q2のデータ http://www.wired.com/gamelife/2011/07/nielsen-iphone-gaming-study/
(※4)Distimoのデータから http://www.insidemobileapps.com/2012/07/27/distimos-state-of-the-apple-app-store-tripled-revenue-stiffer-competition/
(※5)http://www.slideshare.net/miaconsalvo/using-your-friends-top-interaction-mechanics-in-social-games
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。連載に、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin
『気分はまだ江戸時代』
与那覇 潤
池田 信夫
第十三回
「儒教的な官僚と江戸時代的な政治家」
池田 官僚機構も圧倒的に儒教的官僚ですね。官僚自身はプロイセンとかフランスの真似したつもりでいるのですが、私は3年霞が関いて、これは完全に儒教だと思いました。役所に入ったとき、道路の案内板に「霞が関官衙(かんが)」という看板があったのでびっくりしました。官衙というのは中国の律令制度で皇帝に仕える官吏の街という意味です。それぐらい彼らの意識下のところに儒教が染みついている。
中国の官僚というのは、科挙で選ばれた超エリートで、「士大夫」と呼ばれる皇帝の代理人です。非常にむずかしい試験を通ったので、大知識人であり大政治家でもあり、人民を統治する人々です。要するに国民にサービスする「公僕」という西洋的な公務員の建て前とまったく違うわけです。
ところがそこに半端に西洋の三権分立を導入してきたもんだから、実態と法律の建前が大きく食い違っている。国会が立法ということになってますが、実態は80%以上は内閣提出法案で、官僚が書いている。法律も省令とか政令とか逐条解釈とかで、官僚が解釈を細かく決めている。罰則も行政処分で決めている。要するに、官僚が立法も司法も兼ねているのです。
だから政治家なんてオマケで、百姓一揆の親方みたいな江戸時代的な存在です。ところが建て前では「政治主導」とかいって民主党の無能な政治家が優秀な官僚に命令するから、官僚のほうは何いってるんだと思っている。それが日本の政治がまともに動かない一つの原因だと思うんです。
それからもう一つだけ、中国がこれからどうなるかというとき、さっきの市民的自由のというのはかなり深刻な問題になると思うんです。経済的な問題は1000年前から政経分離だから自由にやっているのですが、情報社会になるとグーグルの問題のように、検索エンジンを検閲するだけでも10万人ぐらい要員がいるという、ものすごく無駄なことをやらなきゃいけない。
問題は、どこまでそれを緩められるのかということです。私は言論問題は、今はそんなに中国共産党にとって致命的な問題ではないと思う。むしろ彼らが中国の伝統に囚われすぎていると思います。グーグルとか自由にして共産党の批判が出てきたって、今のように経済が絶好調なのに共産党が権力も金も持っている状況で、それに対抗する政治勢力はそんな簡単に出てくるとは思えない。むしろそこはゆるめたほうが、共産党にとっては持続可能性が高まるんじゃないかなという気もするんだけど、どうでしょうか。
與那覇 同感です。本来、中国というのはそれこそ人類史上のほとんどの期間「先進国」で、かつ「われわれのやり方こそが世界唯一だ」という思い込みで、ずっとやってきた国なわけですね。その思い込みが強すぎたために、西洋モデルに切り替えるのに失敗して、アヘン戦争以降はしばらく没落していたわけですが。しかし、その後いろいろな条件が整った結果、やっぱり復活してきてしまったので、今から「そういう中華思想的な思い込みを変えなさい」と要求しても、絶対聞き入れないだろうと、普通は思いますよね。
もちろん、だから中国は自由がないままでいいんだ、などということにはならないわけで。むしろ、いかにして中国に市民的自由を浸透させていくのか、は非常に大事な問題なのですが、そこで歴史
から学べるのは、要は「言い方を工夫しないとダメだが、工夫すれば何とかなるかもしれない」ということではないか。つまり、「あなたたちの中国モデルは間違いだ。西洋モデルのほうが正しいのだ。だからそっちに切り替えろ」という言い方では、中国側が飲まないことは、最初からはっきりしている。
だとしたら、そこはむしろ逆転の発想で、先ほどの池田さんの「最適距離」の話にもあるとおり、中国が元来「周りからおだてられる分には自由な国家」だった点を活用してはどうか。琉球王国が有名ですが、周辺諸国が「皇帝陛下の徳を慕ってまいりました、朝貢させてくださいませ」といって使節を送ってきたら、ものすごく気前よく回賜を返していた、これが伝統中国の国際関係ですよね。
つまり、「よその国のモデルに切り替えろ」という要求には絶対に従わないけれども、「いや、中国の方々は実に素晴らしい。あなた方のモデルこそ本当に世界一ですから、つきましてはそれに相応しい振る舞いをお願いします」という言い方なら、けっこう鷹揚に「おうおう。応えてやろうではないか」という気分になってくるのが、伝統的な中華思想の行動様式なわけです。
たとえば、これはあるとき、北京の社会科学院の日本でも著名な先生に直接申し上げたことがありますが、「中国共産党さん、次の国家目標は『国家主席のノーベル平和賞受賞』で行きませんか」というぐらい、おだてるのが一番いいと思う。人権問題の改善とか、チベットやウイグル地域での自治の確立とか、台湾との平和共存とか、実現すれば受賞確実なテーマが山ほどあるわけですから。
「西洋化しろ!」といって西洋化させるのが無理なら、そういうかたちで「実質的に」同じ成果を勝ち取っていく。それしか手法はないと思うし、実際「徳治」の伝統を流用すれば、それなりに可能性もあるのではないか。
※ 次号、最終章「中国はソフトランディングできるか」に続く。
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