むかーし、昔のそのむかし。
年間100ステージ以上に出演し、多忙な日々を送っていた青春真っ盛りのミュージシャンが居た。
スポットライトに照らされて、ファンが集まる満員のステージに!
・・・なんてのは、ほんの数えるほど。
中には信じられない場所での演奏や、奇々怪々な現場も数多くあった。
この連載では、
その若かったミュージシャンが、30年以上経った今でも忘れられない、ある意味『伝説』となったステージの数々を紹介しよう!
■伝説のステージ No.002
『御宿の熱いライブ!』の巻 (その2)
すっかりスター気取りのオレ達も、客の入りについては心配している。
なにせ、来てくれたファン数名以外は、多分、だれもオレ達を知らないのだから。
夜の海をロマンチックに歩くカップル、
持ってきた花火をやるべく、宿から出て来るハイテンションなグループ、
ナンパ目的のチャラ男達と、それを見込んで露出度を2割増しにしたギャル達、
これが今夜のオーディエンス候補だ。
夏休みシーズンのリゾート地、しかも夜の海。
誰しもが開放的になり、更に魅惑的なツール(酒と音楽)が投入されればナンパ目当てのチャラ男でなくてもワクワクウキウキである。
地元の夏祭りで浴衣姿のあの娘を見つけた時の気分に似ているが、知り合いがほとんどいないという媚薬が、そこにいる若い男女をさらに大胆にさせる。
そんな中に颯爽とステージに登場して恋の歌を奏でるのだから、なんともかっこいい!
開演時間を5分ほど押して、勿体を付けてステージへ上がる。
オーディエンスの注目はステージ上のオレに・・・・・・・・・・・・・・・・
向いてない!
ていうか、客が少ない!
ステージは海の家なので、入れば何かをオーダーしなくてはならない。
この海にいるやつらはカネがないのか?
これだから貧乏人は嫌いだ!
さあ、とっとと入ってオーダー済ませて、オレ達のライブに酔いやがれ!
会場の外にはそれなりの人がいるのに、中に入ってこない。
冷静に考えれば、こんな事は簡単に予想できた。
ステージは海の家だから、中に入らなくても音はダダもれ。
入れば間近で演奏するオレ達が見られるが、誰もオレ達を知らないのだから、金払ってまで見たいという人がそうそう居るわけがない。
もっと、考察すれば、彼らの目的は花火か、ナンパか、いちゃつくかのどれか。
知らないバンドの演奏なんぞ、邪魔以外の何者でもない!
ヒット曲の1つも演奏すらならともかく、オリジナルしか演らないのだから、結果は目に見えている。
さっきまでスターだったはずのオレ達は、今や呼び込みに変貌。
同時に上から目線が、やや下から目線になる。
「ライブやってます!」「聴いてって下さい!」
「そこのお似合いのお二人さん」「席空いてますよ!」
しまいには、
「今夜は焼き鳥がおすすめ!」「塩もいいけど、秘伝のタレがたまらない!」
って、もはや音楽での呼び込みも諦めて、メニューで呼び込み始める。
まあ、そもそも、客寄せパンダとして呼ばれているのだが、まさかパンダが呼び込みもやる事になるとは・・・10分前までは考えもしなかった。
つづく
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