むかーし、昔のそのむかし。

年間100ステージ以上に出演し、多忙な日々を送っていた青春真っ盛りのミュージシャンが居た。

スポットライトに照らされて、ファンが集まる満員のステージに!
・・・なんてのは、ほんの数えるほど。
中には信じられない場所での演奏や、奇々怪々な現場も数多くあった。

この連載では、
その若かったミュージシャンが、30年以上経った今でも忘れられない、ある意味『伝説』となったステージの数々を紹介しよう!

■伝説のステージ No.002
『御宿の熱いライブ!』の巻 (その3)

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あまりに少ない客席に唖然としながらも、ステージ上からの必死の客引きトーク。
しかし、効果がない。

それでも、大人のカップルが入って、ビールとおでんを注文して、談笑しながら席についてくれた。ありがたい!
さっきまでのスター気分は今や微塵もない。
ほんの少しのファンとこの大人のカップル、合計9名の為に歌おう!
心からそう、思えた。

1曲目はアップテンポの軽快な真夏の海の歌。
来てくれたファン達が手拍子や歓声を入れてくれるので、ステージを覗く人が出てきて、何組かは入ってきてくれた。
つかみにはOKってところだ。

しかし、オレ達の演奏する曲でこのシチュエーションに映えるのは、どう考えてもあと1曲しか無い。
あとは、マイナーで暗いものばかり。
せめてMCは海っぽく、カラッとしたラフな感じでいこう。
「外にいる人も是非、中に入って聴いていってくださいね」てな調子で入って、目があった人をめがけて「そこのお似合いのカップル! 聴いてって!」と、調子の良さだけで海っぽさを演出。

事件が起きたのは、この場の雰囲気に合わないマイナーな別れの曲を演っている時だった。
この曲の前のMC中に外から「暗いぞ!」てなヤジがあって、「入ってきてから言え!」的なやり取りをした後の事だった。

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突如、甲高い音と共に光がこちらに飛んで来る!
ロケット花火だ。ロケットはステージの端をかすめて後ろへ飛び去る。
間奏で「あぶねーって!」的な、余裕のあるコメントを入れつつ2番へ。
再度、ロケットが飛んで来る。明らかに先ほどより近寄っている。
次のMCで「ロケットは人に向けちゃあダメだって、幼稚園で習わなかった?」と笑いを取りに行ったのがまずかった。
次の曲では、完全にオレを狙ってロケットが飛んで来る。
これをまたオレがコミカルに避けながら歌ったのを見て、彼らは完全に図にのった。
多分、他の集団も面白がって参戦してきたに違いない。
演奏中、MC中に関わらず、ロケット花火が至近距離に飛び交う。
その後の記憶はない。
どうやってステージを終えたのか? それとも途中で中止になったのか?
まるで覚えていない。
微かに記憶に残っているのは、ロケットがギターに命中したとかしないとか・・・。
多分、店のスタッフが外にいた狙撃手達に止めるように注意して収まったのではないかと思うのだが、とにかく覚えていない!

もしかしたら、思い出してはいけない様な「何か」があったのかもしれない!
いつ来るかわからないロケットに注意を払いながら、かつ避けながら、マイナーな別れの曲をうまく歌えるわけがない。
図に乗った真夏の海のお兄ちゃん達は、スーパーの前の「ガキの皆さん」より手強い事だけは確かだ。

【2016年8月7日、日曜日】
何十年かぶりに御宿の夏の浜辺に立った。
脇にはファンやバンドのメンバーではなく、妻と娘がはしゃいでいる。
俺は台風の影響で高くなった波に、プレゼントされたサンダルを流されて凹んでいる。

最近作った歌を口ずさんでみた。でも、真夏の御宿には似合わない。すぐに止めた。
生ビールが飲みたい。海の家に入って枝豆をつまみに一杯やってこよう。
さっき途中で止めた歌がハミングで聴こえてきたような気がした。
隣でiPhpneをいじりながら娘が口ずさんでいる。
枝豆と・・・冷やしトマトも頼もう。