むかーし、昔のそのむかし。
年間100ステージ以上に出演し、多忙な日々を送っていた青春真っ盛りのミュージシャンが居た。
スポットライトに照らされて、ファンが集まる満員のステージに!
・・・なんてのは、ほんの数えるほど。
中には信じられない場所での演奏や、奇々怪々な現場も数多くあった。
この連載では、
その若かったミュージシャンが、30年以上経った今でも忘れられない、ある意味『伝説』となったステージの数々を紹介しよう!
■伝説のステージ No.002
『御宿の熱いライブ!』の巻 (その1)
あれは、オレが20歳になったばかりの暑い夏だった。
海の家をステージにしたサンセットライブ!
そこにはオレ達のライブを待っているオーディエンスと爽やかな波の音、そして、夏のトワイライトに包まれた危険な恋の予感が、甘い芳香を放ってたたずんでいた。
その時が来るまでは・・・。
千葉県夷隅郡にある御宿海岸。
たしか、真夏の4週連続ライブだった。
金曜夜の東京でのライブが終え、撤収したPA機材や楽器、衣装を車に積み込んでいそいそと御宿へ出発する。
スタッフ2名とオレ達3名の合計5名で、御宿の安宿に到着するのが午前0時を回る頃だったと思う。
ここで遅い夕食となるのだが、スタッフの1名とオレ達のリーダー以外の3人は、お金を持っていない。
「カネがないからカップ麺とかにしよう」てな事を言うと、金持ちのスタッフが「おごるから焼き肉にしない?」と返してくる。
説明が遅れたが、この会話はうるさいほど波の音がする深夜の真っ暗な海岸近くに止めた車の中で、疲れた男達5人で行われている。
貧富の差をわびしいとは感じなかったが、「おごる」の一言を言わせるためにサイドギターと2人で貧乏ビームを出し続ける感じが切なかった。
それでも、焼き肉が食えるのなら、なんでもヤル!
学校、バイト、徹夜練習の毎日で2日に1回しか寝ることが出来なかったこの頃は、酒飲んで騒ぐなんぞ考えもせず、飯食ったらとっとと寝るのが常。
この夜もカビ臭い湿った枕に顔を埋め、眠りの淵に落ちていく。
目が覚めると、打って変わって、そこは華やかな真夏の海!
ライブは夕方からなので、水着に着替え、のんびり午後の浜辺を堪能する。
※ちなみに午前は爆睡しており、実質ないも同然。
少ないがファンも御宿に来てくれている。
しかも女性ばかりで水着で会いに来てくれるのだから、海でのライブはやめられない!
昼飯はライブをやる海の家のものを何でも食べて良いことになっている。
これで2連続のタダ飯!
海でのライブはやめられない!
ただなので、普段は絶対に頼まないチャーシューメンにおでんにフランクフルトてな感じで、豪華な遅いランチをたいらげる。
あとはライブの時間までファンとのんびり過ごせる。
陽が落ち始める頃、海の家に特設のライブ会場が準備される。
スタッフが持ってきたPAのセッティングを始め、リハーサルの時間だ。
PA機材もスタッフもいつも通りだし、ちゃちゃっと何を演奏するかだけ打合せて、軽くモニターの返りだけをチェックして、リハーサルは終わる。
リゾート気分で浮かれているのもあるが、全て周りにいる人に聞こえてしまうので、ネタバレしないように、という意味合いもあり、ごく軽いリハになる。
そこからしばらくは、グラスを傾けながら、波の音をBGMに日が暮れるのを待つ。
軽い緊張感と高揚感、そして、ちょっとスターになった気分というスパイスが、財布に紙幣の1枚もない男の鼻を高くしていく。
これが、この後待っている惨事への引き金になるとも知らずに。
つづく
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