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大人気女児アニメ『プリパラ』に見る
「性差モチーフの撹乱」
(『石岡良治の現代アニメ史講義』
キッズアニメーー「意味を試す」〈3〉)
「性差モチーフの撹乱」
(『石岡良治の現代アニメ史講義』
キッズアニメーー「意味を試す」〈3〉)
【毎月第3水曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.3.16 vol.542
今朝のメルマガは『石岡良治の現代アニメ史講義』をお届けします。今回はシュール系キッズアニメの始祖としてのサンリオの画期性、そして2010年代女児アニメの覇者『プリパラ』が切り拓いた新境地について解説します。
▼プロフィール
石岡良治(いしおか・よしはる)
1972年東京生まれ。批評家・表象文化論(芸術理論・視覚文化)・ポピュラー文化研究。東京大学大学院総合文化研究科(表象文化論)博士後期課程単位取得満期退学。跡見学園女子大学、大妻女子大学、神奈川大学、鶴見大学、明治学院大学ほかで非常勤講師。PLANETSチャンネルにて「石岡良治の最強☆自宅警備塾」を放送中。著書に『視覚文化「超」講義』(フィルムアート社)、『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社)など。
『石岡良治の現代アニメ史講義』これまでの連載はこちらのリンクから。
4.現代キッズ・アニメの射程(2)シュール系コメディの宝庫
■サンリオの重要性
私がある意味、現代キッズ・アニメの良さと感じているのがシュール系コメディの宝庫である点です。「サンリオの偉大」と言ってよいかもしれない事態です。例えばハローキティは「仕事を選ばない」スタンスで様々なものとコラボしています。ハローキティの超合金が発売されましたが、マイメロディの超合金も発売されています。
▲今年(2016年)初頭に発売されたマイメロディの超合金(出典)
私は子どもの頃に手塚治虫『ユニコ』の映画を観に行っているんですが、これもサンリオ作品だったんですね。そのとき『いちご新聞』を買っています。わりと私の原点にはサンリオがあって、他にもやなせたかし原作の『チリンのすず』という絵本が、サンリオアニメになっていますが、ストーリーには富野アニメ的な感覚もあるので、ぜひ絵本を読むなりアニメを見るなりしてください。『チリンのすず』は超いいですよ。ひつじのチリンが両親の復讐のために狼に弟子入りして…という話ですね。
サンリオの近作で興味深いアニメとして『SHOW BY ROCK!!』があります。サンリオが深夜アニメ市場を狙ったもので、男女両方の客層を目指しつつも、多くの女性ファンを獲得した作品です。セルルックではない3DCGアニメとしても興味深いアニメです。『SHOW BY ROCK!!』の卵のおじさんの声優がうえだゆうじなんですが、『デトロイト・メタル・シティ』のクラウザーさんをやっていたんですよね。いろいろな要素がみられることもあって、『SHOW BY ROCK!!』については今後の展開に注目しています。
そうした事情もあって、いつかサンリオ論に取り組みたいと思っています。この「現代アニメ史講義」のフレームとは別の射程があるんじゃないかと思っているんです。サンリオって、70年代に『LYRICA 〜リリカ〜』という少女漫画雑誌をやっていたんです。手塚治虫の『ユニコ』はそこで連載していました。私は後追いで『LYRICA 〜リリカ〜』の初期の号を古本屋で集めようとしていたんですが、引っ越しの際に無くしちゃったんですね。まさに勿体ないという感じですが、何かの機会にまとめて考察したいと思っています。キッズアニメがシュール系コメディの宝庫となっていることについても、サンリオから考えることができると考えています。
■稲垣隆行『ジュエルペットサンシャイン』はシュール系キッズアニメの金字塔である
2010年代のシュール系キッズアニメの金字塔は、みなさんの中にも観た方もけっこう多いと思うんですが、『ジュエルペットサンシャイン』と言っていいと思います。2011年から12年です。厳密に言えば「ジュエルペット」シリーズはその前年の『てぃんくる』がわりと良質な女の子向けのハートウォーミングなシナリオで感心していたんです。そうしたら、いきなり翌年すごくクレイジーな世界が全面展開された感じですね。このシリーズの頂点をどこに置くかによって、『てぃんくる』派と『サンシャイン』派がいて、私は『サンシャイン』派になります……コメントで「『サンシャイン』勢もくるぞー」って、なに言っているんですか。「『ハトプリ』勢もくるぞー」「『ジュエルペットサンシャイン』勢もくるぞー」ってぜんぶ俺一人じゃないですか(笑)。「ひとりでなんとか勢兼ねているぞ」って感じですよね。はい。TVアニメ枠としては最終作になってしまったのですが、『マジカルチェンジ』(2015)はサンシャイン魂があってわりと好きでした。
『ジュエルペットサンシャイン』で何が笑えたかというと、例えばエアロスミスのような70-80年代ハードロックのネタをばんばんやっていて、DVDではぜんぶ曲が差し替えになっていました。つまり、テレビ放送では可能だけど、あとからの版権許諾では再現不可能なパロディをたくさんやっていたんです。あと、1983年の映画『フラッシュダンス』の完全再現ネタは、親世代向けですらなく、前回で語った加藤陽一さんのネタ振りと近いものがありました。
考えてもみてください。『ジュエルペットサンシャイン』をリアルタイムで観ている人たちは、要するに2000年代に子どもができた世代ですよね。どう考えても親は30代くらいじゃないですか。だからこれは下手すると、いわゆる「じいじ、ばあば」の世代のネタなんですね。『フラッシュダンス』が話題になっていたのは私が小学生の時でしたので、その頃の大人だと50代になります。簡単に言うと、加藤陽一さんの金八先生ネタをさらに突き抜けて「ちょっとやりすぎなんじゃないか」というところまでやっていたわけです。
これだけだと「ネタアニメ」のように見えてしまいますが、もうひとつ『ジュエルペットサンシャイン』でおすすめしたいのは、ヤギの八木沼くんです。基本はただのヤギがクラスメートというネタで、当然のように大事な紙をムシャムシャ食べたりしているんですが、24話では実写のヤギ画像が出てきたんですね。全話がつらい人も、ここだけ見てみると、ほとんど実験アニメーションのようにみえる絵面のおかしさがわかると思います。ここはアニメーション論的な意味でも、実写の強引な混ぜ方が興味深い回でした。
ちなみに私は『プリパラ』の「パルプスの少女ふわり」登場回で、『アルプスの少女ハイジ』が元ネタということもあり、ヤギが出た瞬間に「ヤギキター!」ってなりましたね。私なりの基準では、キッズアニメに飛び道具じみた動物が来たらもうその瞬間に神回確定という感覚を持っています。この感覚はとっぴにみえるかもしれませんが、『ジュエルペットサンシャイン』を見た人はわかるはずです。「ヤギキタ! これは神でしかない」ってやつですね。深夜アニメで例えるなら、『ラブライブ!』のアルパカとか、『ソメラちゃん』の「メヌースー」のヤバさと言えばわかるかもしれません。
『ジュエルペットサンシャイン』の稲垣隆行監督はすばらしいですね。深夜アニメでも、この人は音響をやっている人なので、水島努さんとかと同じような良さがあります……『ジュエルペット』もサンリオキャラクターとして一定の安定した需要があったところに、アニメで好き勝手に展開してもかまわないという形をとっていました。つまり、先ほど挙げた超合金マイメロとか、一連のハローキティコラボレーションのように、仕事を選ばない系のひとつとして『ジュエルペット』があったんですね。アニメがキャラのイメージを腹黒にしてしまったりしても、さほど気にしないというあり方です。
その典型としては、沢城みゆきさんが演じている赤ちゃんシロクマ「ラブラ」のクズっぷりが挙げられます。なお、『ジュエルペット』シリーズは、沢城みゆきさんが何役も同時にこなしているところも注目ポイントで、赤ちゃんから少年少女、おばあさんと恐るべき幅の広さをみせています。稲垣監督の深夜アニメでは『聖剣使いの禁呪詠唱(ワールドブレイク)』も、作画リソースの乏しさをネタに昇華していて、かなり笑えるラノベアニメでした。といっても音響の面ではきっちり作られています。
ただ、稲垣監督が手がけた『空戦魔導士候補生の教官』は、ちょっとイマイチなんですが、ロゴが素晴らしいので見てください。ロゴがどこぞの『とある科学の超電磁砲』みたいなロゴなんですけど、「お、英語かな?」と思って見ると「KUSEN-MADOUSHI-KOUHOSEI NO KYOUKAN」ってローマ字なんですよね。
▲タイトル部分の拡大図
タイトルがいちばんシュールかもしれない。本編は残念ながら『ワルブレ』に比べると貧窮なんですけど、それでも大量のオブジェクトを主人公が剣で切りまくっているオープニング映像が、昔のゲーム「スペースハリアーかな?」という感じなんですね。3DCGを使わずに2Dで無理やり3次元を実現したような、昔のゲームのような空間を飛び回りながら、剣で斬りかかるところをみると、私なんかはちょっとアツくなるんですけど、それだけですかね。ちょっとパワーが落ちますね。
■シュール系コメディのひとつの理想は森脇真琴監督作品にある
というわけで、加藤陽一さん、稲垣さんと挙げてきましたが、次にその集大成として、『プリパラ』の森脇真琴監督作品について考えたいと思います。大好評の『プリパラ』ですが、その前作「プリティーリズム」シリーズのほうが好きだという人もいるかもしれません。たしかに、『レインボーライブ』のりんねちゃんとか、ライバルとの和解展開とかは本当にアツかったので、私も過去に「定点観測」でまとめて語ったことがあります。要するにいい感じにドラマティックなんですね。近年の女児アニメとしては珍しく、男女の恋愛要素もかなり含まれていました。ここからは、男性アイドルグループを独立させた『キンプリ』も派生コンテンツとして生まれていて、そのぶっ飛んだ世界がかなり話題になっているので、今後が楽しみです。それに比べると『プリパラ』は初期はメロドラマ要素が少なめで、それは男性キャラが少ないからですね。とはいえ、一年目はファルル、二年目はひびきにかかわるシナリオでは、要所要所でドラマティックな展開も入っており、「プリティーリズム」の末裔としての性格もあります。
▲映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(略称:キンプリ)公式サイトより。女児向けアーケードゲーム原作のTVアニメ「プリティーリズム」シリーズに登場した3人の男性キャラのサイドストーリーを描く。応援上映(ペンライト・サイリウムなどの応援グッズの持ち込みや声出しが可能)なども開催され注目を集めている。
▲『プリパラ』アニメ公式サイトより(※以後、『プリパラ』の登場人物については公式サイトのキャラクター紹介をご参照ください)
私は森脇真琴監督の大ファンで、今回のメインテーマといってもいいんですが、中でも、ぜひ『おるちゅばんエビちゅ』を観てほしいと思っています。森脇真琴はこれが監督デビュー作なんですね。今世紀に入ってからかなり女性のアニメ監督が増えましたが、その先駆者のひとりといえる側面もあります。『おるちゅばんエビちゅ』は何がすごいって……三石琴乃さんがハムスターのエビちゅ役をやっているんですが、飼い主「ご主人ちゃま」の性生活を観察したり、女性器の名称をばんばん言いまくったりするハイテンションな下ネタアニメなんですね。しかも『とっとこハム太郎』がアニメ化される前なんです。つまり「汚いハム太郎」の方が先行していたわけです。『おるちゅばんエビちゅ』は原作者伊藤理佐の代表作でもありますが、なにしろWikipediaを検索すると「警告:この項目には性的な表現や記述が含まれます。免責事項もお読みください。」って書いてありますからね(笑)。要するにエロ4コマの世界をアニメ化したわけですね。企画:庵野秀明、監督:森脇真琴なんですね。これは隠れたガイナックスの神アニメですね。
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