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猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉
第4回「モナ・リザの前が混んでて嫌なのは、
絵画がインタラクティブじゃないから」
【毎月第1火曜配信】
第4回「モナ・リザの前が混んでて嫌なのは、
絵画がインタラクティブじゃないから」
【毎月第1火曜配信】
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2016.1.5 vol.487
今朝のメルマガは、チームラボ代表・猪子寿之さんによる連載『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』の第4回です。
「モナ・リザ」に代表される、作品と個人が向き合う従来のアートから、鑑賞者全員が内部へと入り込んで生み出される自然環境的なアートへ。チームラボが追及するインタラクティブな表現の意味と可能性について語り合いました。
▼プロフィール
猪子寿之(いのこ・としゆき)
1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。
47万人が訪れた「チームラボ踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」などアート展を国内外で開催。他、大河ドラマ「花燃ゆ」のオープニング映像、「ミラノ万博2015」の日本館、ロンドン「Saatchi Gallery」、パリ「Maison & Objet 20th Anniversary」など。2016年はカリフォルニア「PACE」で大規模な展覧会を予定。
◎構成:稲葉ほたて
本メルマガで連載中の『猪子寿之の〈人類を前に進めたい〉』配信記事一覧はこちらのリンクから。
■ 他者の振る舞いが面白くなるアート
猪子:9月にロンドンのSaatchi Galleryで、「花と人、コントロールできないけれども、共に生きる – A Whole Year per Hour」(以下「花と人」)という作品を展示したんだよ。これはじっとしている人の周辺には花が沢山咲くし、走り回る人の周辺では花が散るという作品なんだよね。
▲Flutter of Butterflies Beyond Borders / 境界のない群蝶
teamLab, 2015, Interactive Digital Work, Endlesså
Flutter of Butterflies Beyond Borders + Ever Blossoming Life II – A Whole Year per Hour, Dark + Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together – A Whole Year per Hour
▲増殖する生命 II - A Whole Year per Hour, Dark / Ever Blossoming Life II – A Whole Year per Hour, Dark
teamLab, 2015, Digital Work, endless, 4 channels
▲花と人、コントロールできないけれども、共に生きる – A Whole Year per Hour / Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together – A Whole Year per Hour
teamLab, 2014 -, Interactive Digital Installation, Endless, Sound: Hideaki Takahashi
Flowers and People, Cannot be Controlled but Live Together – A Whole Year per Hour + Flutter of Butterflies Beyond Borders + Ever Blossoming Life II – A Whole Year per Hour, Dark
同じような作品をニューヨークでも展示したんだけど、その時のオープニングに人が殺到して、ギュウギュウ詰めになったんだよね。そうしたら、花が全部散っちゃった(笑)。
でも、そのあとが面白くて、その場でみんな「俺たちは、ここに(人が)いすぎるんじゃないか」と話しだして、「俺は前の部屋に戻る」「じゃあ、俺は次の展示を見ておくよ」と言い合って、みるみる3分の1くらいの人数が減ったんですよ。
そうしたら、隙間ができて花が咲き出して、みんな「おおー!」となって盛り上がったんだよね。
これが面白いのは、他の人の振る舞いでアートが変化しているのを、第三者的に見て面白がってることなんだよ。
インタラクティブというときに、みんな「自分の振る舞いで作品を変えること」を考えていると思う。でも、それってデジタルゲームに代表されるように、「自分と作品」の一対一関係になってしまう。そこには他者がいない。だけど、こういう作品を上手く設計すると、同じ空間にいる「自分と他者」の関係をポジティブに思える気がするんだよね。
その意味で、僕は自分がインタラクションする必要すらないと思ってるの。むしろ第三者の視点で見て、同じ空間にいる他の人が作品の一部みたいになることがすごくいいと思うし、そうすることで同じ空間にいる人々同士の関係性をポジティブに変化させたいんだよね。
宇野:これは他の人の振る舞いがあってこそ、より成立する作品というわけだね。たとえばこの作品は、逆に展示場が空いてガラガラのときに見に行くよりも、あくまで一緒にそこにいる誰かの振る舞いがあって、はじめて疑似自然が機能する。これは普通の美術館とはまったくもって逆だね。普通の美術館は空いていればいるほどいい環境とされるわけだから。
猪子:だって、「モナ・リザ」を観るのに隣の人は邪魔で、できれば一人で見たほうがいいんだよ。「ゆっくり鑑賞させてくれ」としか思わないじゃない。それって、「モナ・リザ」では同じ空間にいる人が邪魔になるということなんだよ。
でもさ、それは他人の振る舞いで目の前の「モナ・リザ」が変化しないからだと思うの。ルーブル美術館の「モナ・リザ」の前でいくらぎゅうぎゅう詰めでも、「俺たちはここにいすぎないか」なんて相談はじめたりしないじゃん(笑)。僕らは他人がセットで作品として見えるようにしていて、だから、みんな作品の写真を観客とセットで写したりする。
この前に銀座のポーラ ミュージアム アネックスでやった「Crystal Universe / クリスタル ユニバース」(以下「クリスタルユニバース」)も、そうだよね。「クリスタルユニバース」は、自分がクリスタルユニバースの中を歩いているとき、誰かがスマフォでユニバースを生み出してくれていないと楽しくないから。自分が作品の中を歩きながら鑑賞するためには、ほかの誰かが居てくれないといけないのね。周りに人がいっぱいいてくれて同時にユニバースを生み出して、複雑なユニバースにるからこそ、自分が歩いているときに楽しい。こういう考えの作品にはすごく可能性があると思う。
例えば、この考え方で都市をデジタルアートにしたら、同じ都市に住む人同士が、すごくポジティブになるんじゃないかと思う。
実は運河をアートにしたのも、その練習なんだよね。あと、パリのメゾン・エ・オブジェで、皿を置いたらテーブル上に鳥が出たりする作品(「World Unleashed and then Connecting」)をやったんだけど、それもすごく良い空気が生まれていた。自分の皿から出た鳥が飛んで行ったり、他者の皿から出た木にその鳥が止まったりして……あそこってバイヤーがたくさんいて、本当は、ある種の戦争みたいな雰囲気なんだけどね(笑)。
個人になにか影響を与えるだけじゃなくて、同じ空間にいる人の関係性が影響を受けていくんだよね。
▲『MAISON&OBJET PARIS』(フランス・パリ)にて展示した「World Unleashed and then Connecting」
teamLab, 2015, Interactive Digital Installation, Endless, Sound: Hideaki Takahashi
■ インタラクティブの第三の可能性
宇野:面白いね。それこそが、チームラボと猪子寿之の考えるインタラクティブの可能性ということか。僕は少し前に、チームラボについて長い文章を書いたのだけど、あの文章の最後で僕は猪子寿之という作家を「秩序なきピース」の実践者として位置づけている。チームラボ作品で度々用いられている、司令塔があるわけでも中心があるわけでもないにも関わらず、いつの間にか参加するプレイヤーたちの調和がとれてしまうボトムアップの日本的なシステム。これって、日本文化論では「無責任の体系」と言われていて、旧日本軍の生んだ指導者のいない全体主義から、現代のテレビポピュリズムまで、どちらかというと悪いものとして捉えられていたのだけど、チームラボはそれをポジティブなものに読み替えている、という議論を僕は展開したわけ。
では、どうやって「無責任の体系」を「秩序なきピース」に、ネガティブなものからポジティブなものに転換するのかを突き詰めて考えたいとずっと思っていたのだけど、いま、その回答を聞いた気がしたな。
猪子:嬉しいなあ。この話がこんなに褒められたのは人生で初めてだから、超嬉しい。
「花と人」にしても周りに人がいるから、花が咲いたり散ったりして、より美しいものになるの。自分がインタラクションしたいというよりは、他者の存在まで含めて作品として鑑賞できることで、他者に対してポジティブになれる感じなんだよね。
宇野:インタラクティブなメディア表現というのは二通りあって、一つは、20世紀のビデオゲームの多くがそうであった、自分の干渉で虚構の世界が変化する、というパターン。『スーパーマリオ』から『ドラゴンクエスト』まで、20世紀のビデオゲームは概ねこれ。そしてもう一つ、インターネット以降に出てきたもう一つのパターンがある。これは人間同士の社会的なコミュニケーションを乱数に使ってゲームを構築するタイプのもので、ネットワーク技術の発展を背景にむしろ近年はこっちが主流になっている。MMORPGとか『モンハン』とか、広い意味での対戦ゲームのほうが今は強くなっているじゃない。
でも、いま猪子さんが言ったのは、後者を大きく拡張して、第三のインタラクティブな表現の可能性を探るものだと思う。つまり、猪子さんはここでインタラクティブな装置とアートを結びつけることで、他者のイメージを逆転しているんだと思う。本来不快なはずの他者の存在を逆転することに成功している。
これまでの人類は「他者の存在は人間にとって不快なもので、だからこそちゃんと受け止めるのが人間としての成熟だ」みたいな議論をしてきたわけだよ。でも、猪子寿之は現代のテクノロジーと洗練された表現を使えば、それをポジティブなものに転化できると信じている。理解もできないし、コントロールもできない他者が周囲にいることは、我慢して受け入れるものではなくて、むしろポジティブに捉え直せるんじゃないかと思っている。これはとても革新的な発想だと思うし、これによって人類はかなり前に進むよ。
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