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任天堂ハードと「ドラクエ」が挑んだ
“古き良きゲーム”の再定義
〜『ピクミン』『逆転裁判』『ドラクエVII』
(中川大地の現代ゲーム全史)
☆ ほぼ日刊惑星開発委員会 ☆
2015.4.15 vol.304
http://wakusei2nd.com

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本日は、月2回掲載となった「中川大地の現代ゲーム全史」最新回をお届けします! PS2、ドリキャス、Xboxなど次世代ゲームハードが次々に投入されるなか、かつての「王者」任天堂やドラクエのフィールドでは様々な試行錯誤が行われていました。「ゲームキューブ」「ゲームボーイアドバンス」、そしてプレステで発売された『ドラクエVII』――そのゲーム史的な位置付けとは?

 
「中川大地の現代ゲーム全史」
第9章 和ゲー成長期の終わり/二極化してゆくゲーム産業
2000年代前半:〈仮想現実の時代〉終期(3)
 
前回までの連載はこちらのリンクから。
 
 
■ ゲームボーイアドバンスとゲームキューブの明暗〜任天堂ハードが継承したニッチ
 
 国産技術によってゲーム市場を踏み台に総合情報家電のグローバルスタンダードの奪取を狙ったのがSCEのプレステ2、現行のグローバルスタンダード技術に乗りながら日本ローカルなゲーム市場への侵蝕を試みたのがマイクロソフトによるドリキャスのOS提供からXbox投入への流れだったとすれば、徹底して日本独自の“ゲーム屋”としてのローカリティを貫き通す役割を担うに至ったのが、任天堂だということになるだろう。
 同社は2001年、ゲームボーイ以来の実に12年ぶの本格的な携帯ゲーム機の更新にあたる「ゲームボーイアドバンス(GBA)」、およびNINTENDO64の後継となる据え置き機「ニンテンドーゲームキューブ(GC)」を相次いで発売する。
 
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▲ゲームキューブ(任天堂、2001年)
 
 まず、シェア競争上の結論から言えば、プレステやサターンに遅れたN64と同様、同世代機であるプレステ2から1年以上ものラグを挟んで登場したGCは、劣勢を覆すことができなかった。ついにROMカートリッジを捨てて任天堂として初めて光学メディアを採用し、その名の通り正方形状のスタイリッシュな筐体デザインによって従来の「玩具」的なイメージからの脱却を図ったGCの基本的な仕様は、プレステ以降のIT家電的な傾向に近づけるものではあった。しかしながら、採用メディアが容量の少ない8cm径の独自規格ディスクであったり、AVラックに納まるようなフラット感よりもSF的な異物感を追求したりなど、あえて機能的合理性に抗ってでもアイテムとしての差別化を残そうとしたため、どちらつかずの中途半端な設計思想が普及の枷になったのは明らかだった。
 加えて、ローンチタイトルとしては、本機の3Dグラフィックス性能による波の表現力をプレゼンしようとした水上バイクのレースゲーム『ウェーブレース ブルーストーム』や、コントローラーの左右両方に独自のレイアウトで配置されたアナログスティックを駆使するアクションアドベンチャー『ルイージマンション』といった自社製タイトルがリリースされたものの、GCならではの個性を打ち出せたとは言い難い。『ウェーブレース』は世に数多ある3Dレースゲームの一バリエーションに過ぎなかったし、『ルイージマンション』が要求した操作性も、本質的には例えばプレステ2のDual Shockコントローラーでも実現できるものだ。
 つまりは、最初の看板になったタイトルがマリオではなくルイージであったという点に象徴されるように、本質的な部分でのイノベーショナルな特色の希薄さを、変化球的なパッケージングでカバーしようという性格が、歴代任天堂ハードの中でも目立つ機体となったのである。
 
 そのぶん、業界全体にとってのインパクトとして大きかったのは、GBAの方だったと言えるだろう。携帯ゲーム機市場では、長らくマイナーバージョンアップを重ねて確固たる地歩が築かれてきたゲームボーイシリーズに対して、バンダイのワンダースワンなどが挑戦を仕掛けてはいたものの、任天堂の先行者優位には遠く及ばない状況にあった。したがって図式的には、ちょうどファミコンがPCエンジンなど他社の新鋭機の追随を許さないうちにスーパーファミコンへと順当な代替わりが行われた際の市場環境に近い。初期のモデルでは、旧ゲームボーイのゲームソフトも遊べる下位互換性を持っていたことも幸いし、GBAは携帯ゲーム機の標準を継承していくことになる。
 立ち位置の面だけでなく、機体性能の面でもスーファミの延長線上にある2Dドットグラフィックの描画が可能だったGBAは、高度な3DCGが主流となった据え置き機でのゲーム開発に、資金的・技術的についていけなくなったディベロッパーにとっての受け皿となることができた。これにより、GBAはGCを大きく上回るサードパーティーの参入を得ることになり、発売タイトル数の上で携帯型ゲーム機が据え置き型ゲーム機を上回っていく状況へのターニングポイントとなったのである。
 
 このようにハードとしてのシェア獲得上は明暗が分かれたと言えるGBAとGCだが、ソフトのラインナップの面では、『ポケットモンスター サファイア/ルビー』や『大乱闘スマッシュブラザーズDX』『どうぶつの森+』など、どちらもほぼ既存の人気シリーズの続編や移植・リメイクが多くを占めた。つまりは、低年齢層・ファミリー層向けに特化する方向に向かったN64時代のニッチを守ることはできたものの、のちのゲームシーンの流れを作るような革新的なタイトルの産出には乏しかったと言える。
 その中でも、ゲームデザイン面で出色だったタイトルとしては、GCでは物悲しいCMソングとともに話題を呼んだ群体AIアクション『ピクミン』(任天堂 2001年)が挙げられるだろう。最大100匹集めることができる奇妙な小生物ピクミンたちを率いて、アイテム回収などを目的とするステージ攻略を成し遂げてゆく中で、彼らが集団的に甲斐甲斐しく動き回ったり、儚く敵の原生生物に捕食されたりするさまが感興を呼ぶ体験性は、他に類を見ないユニークさが際立っていた。
 
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▲『ピクミン』(任天堂、2001年)
 
 また、歴代任天堂ハードにおけるキラーソフトとなる『ゼルダの伝説』シリーズでは、『ゼルダの伝説 風のタクト』が投入されている。本作はポリゴン描画されたキャラクターにトゥーンレンダリングを施し、3DアクションRPGとしての完成形を示したN64時代の『時のオカリナ』『ムジュラの仮面』とは一線を画する、絵本のようなビジュアルを追求。さらには海洋のフィールドを主舞台に、風の流れを駆使したアクションを特色とするなど、シリーズ中でも異色のテイストを放つタイトルとなった。
 ただし、これらのアイディアが光るタイトルも、任天堂ゲームらしい「王道」感よりは目先を変えた変化球としての印象が強く、スタイリッシュな方向と子供向けの玩具的な方向とが相半ばするGCというハードの中途半端さを上書きする結果になったとも言えるだろう。
 
 一方、過去の名作シリーズの移植やスピンオフ作品などが目立っていたGBAのラインナップだが、後代に続くオリジナル人気シリーズの創始となったのが、カプコン発売の『逆転裁判』(2001年)だ。新米弁護士・成歩堂龍一を主人公に、殺人事件で無実の罪を着せられた被告人たちを、その名の通り裁判で真犯人を暴き立てることで救い出していくという趣向の擬似法廷バトルである。
 
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▲『逆転裁判』(カプコン、2001年)
 
 据え置き機では3DCGによる大作ゲームが全盛の中で、本作は本質的には、ドット絵とテキストで表現される一本道のストーリーをコマンド選択で進めていくという、昔ながらのローテクな推理AVGに過ぎない。しかしながら、関係者への聞き込みや証拠品の収集を行う「探偵パート」と、そこで得た証拠品や情報を証言台に立つ証人たちに突きつけながら尋問を進めていく「法廷パート」とにモードを分け、後者の裁判シーンではケレン味あふれるテンポよい演出証人やライバル検事との丁々発止の言論戦を行うという趣向のインタラクションの工夫を施すことで、まるでRPGのバトルシーンのようなカタルシスが発生。登場人物たちのキャラクターも、ちょうどカプコンが得意としてきた対戦格闘ゲームのように極端に戯画化した造形にすることで、非日常的な快楽性を高めることに寄与した。
 こうしたシナリオやキャラクターデザインやシステム演出の調和に加え、掌の上の携帯ゲーム機の小さな画面上で展開されるというチープ感も含めて、裁判中に真犯人が判明して劇的な逆転判決が起こるという荒唐無稽な世界観を違和感なく堪能させることができたのが、本作の白眉であった。
 
 もちろん、GBAの携帯型ゲーム機としてのハードウェア特性そのものが、たとえば『ポケモン』のようなゲームの登場をもたらしたような意味では、『逆転裁判』の作品性にとって必須だったわけではない。実際、本作の体験版が公式サイトのFLASHコンテンツとしてプレイできたように、ゲーム内容自体としては、例えば当時のPCブラウザなど他のプラットフォーム手段でも、決して実現できないものではなかったからだ。
 

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